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希望退職は最悪の制度であるが、やらないよりはマシである

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出典:写真AC

8月10日、遅れに遅れていた東芝の2017年3月期決算がようやく期限ギリギリで発表された。

その決算内容は9,656億円の赤字と、気がつけば1兆円に迫る天文学的な赤字になってしまった。ようやく決算が出たとはいえ、全く楽観はできない状態だ。東芝はすでに東証2部に降格しているが、このままでは上場廃止、倒産も有り得る。

そんな状況であるので、東芝はさらなるコストカットが必要だ。2016年に希望退職を募集して3,449人が応募したが、さらなるリストラを行う可能性は高い。東芝の社員は当然、この事を予想し、転職活動の動きが活発になっているようだ。

「有能な技術者が、外資系に次々と流出している。外資系ではエンジニアの給料は日本企業より高く、どんどん転職が決まっている」(参照:日刊ゲンダイ

との事である。

このため、「日本企業が行う希望退職は、1000万円のお土産をつけて外資系企業への転職を後押しする最悪の制度だ」という意見が流れている。

私は実際に大手事務機器メーカーで希望退職の現場を体験したので、最悪の制度であるという考えには同意する。しかし、それでもやらないよりはマシであると思っている。


希望退職は1,000〜2,000万円くらいの割増退職金が相場

東芝の希望退職のニュースに際しては、経済学者の池田信夫さんが、

日本の会社がリストラでやる「希望退職」というのは最悪。優秀な技術者から(退職金割増で)やめ、つぶしのきかない文系が残る。

ツイートされた。

また最近、中小型液晶パネル大手のジャパンディスプレイが経営難で希望退職をするとニュースになった。これに対しては人事コンサルタントの城繁幸さんが、

中韓企業から引き合いのある有能社員に一千万くらいつけて転職を後押しする制度。20年近く前から弊害を指摘されてるのに何も進歩せず。まあ国民がそれを望むんなら仕方ないが。

ツイートされた。

希望退職とは、正社員の解雇が難しい日本の大企業だけで見られる特殊な制度である。35〜40歳以上のベテラン社員を対象に、「今、自分の意思で退職してくれたら、退職金を割り増しで支払ってあげる」と、現金と引き換えに自発的な退職を促す制度である。

割増退職金の相場は企業によるが、私が勤めていた大手事務機器メーカーで2011年に実施した希望退職の場合、35歳〜40歳は500万円〜、40〜50歳は1,000万円〜、50〜60歳は2000〜3000万円という相場であった。

面白いと思ったのは、50代以上は、誕生日から計算して1ヶ月単位で割増退職金が10万円ずつ上がっていくのである。「それほどまでに50代に辞めてほしいのか」と狂気を感じた。

近年、大規模な希望退職を募集したシャープや東芝も似たような相場であるようだ。(参照:PRESIDENT Online

このようにあくまで自発的な退職を促すものであるので、会社にとっては辞めて欲しい「能力の低い人材」が手を挙げてくれるとは限らない。普通に考えて、他の会社に転職しても十分にやってい行ける優秀な人材から辞めていく事になる。

そして、その優秀な人材はライバル企業、特に高給を出してくれる外資系企業(中国・韓国のメーカー)に行ってしまい、より自社の立場が不利になってしまう。まさに「最悪の制度」と言って良い。

しかし、希望退職の現場の実態は、そう単純なものでもなかった。

優秀な人材がごっそりいなくなるという感じではなかった

希望退職を募集する方の会社側も、当然、優秀な人には辞めて欲しくないと思っている。そのため、あの手この手で「辞めて欲しい人が応募するように」工夫を凝らす。

この工夫は会社ごとに違うと思うので、私が体験した例を紹介する。だが、話に聞いた感じではどこも同じような感じだろう。

まず、割増退職金を払うために条件を付けるのだ。

ライバル企業には転職をしない事を条件に割増退職金を支払う、優秀な人材が応募したら「あなたはこの制度の対象外である」と言って割増退職金の支払いを拒否すると言った所だ。

「希望者を募集しておいて、会社が選ぶとかありなのか」と思う。違法の可能性も高いだろうが、現実に優秀な人材には面談をして、こういう説得をしていた。自分で言うのもおこがましいかもしれないが、私が応募したら割増退職金は出ない(2011年はまだ35歳未満で対象外だったが)と言われた。

次に、辞めて欲しい人に応募するように執拗に迫るのだ。

これはいろんな会社で追い出し部屋なりとニュースになったので、知っている人も多いだろう。希望退職を募集する際、会社は予め辞めて欲しい人にターゲットを設定し、何度も面談を行う。内容はテンプレートで、

「あなたに今後の仕事は用意できません。このままこの会社にいても辛い思いをするだけです」

「今、希望退職に応じない場合でも、数年後にまた希望退職があるでしょう。その時はもっと条件が悪くなりますよ」

と言う感じだ。予め仕事を奪っておいた上で、面談を繰り返す事で、ほとんどの人は精神的に参ってしまい、希望退職に応募する。こうやって、優秀な人が応募する前に希望退職の枠が埋まってしまい、辞めて欲しい人が大勢いなくなるのだ。

なので、私が2011年に体験した希望退職も、優秀な人がごっそりといなくなるといった感じではなかった。概ねであるが、50代以上の社員、または大人しい40代の社員がいなくなった。そのほとんどは会社が辞めて欲しいと選んだ人であった。

しかし、もちろん、優秀な人も相当数いなくなる。

2011年の希望退職では、私が尊敬してやまないKさんも会社に目をつけられ、希望退職を迫られた。Kさんは優秀な人であったが、当時のバカ課長に疎まれていた。これはバカが課長をしているんだから仕方無い。Kさんには何の落ち度も無いが、課長に早期退職の候補に選ばれ、そしてKさんは優秀でどこでも転職できるので、あっさりと応募した。

私はその事を聞いた時、人目を憚らず涙したが、Kさんにとっては自分を評価しない会社から1,000万円以上のお土産を貰って転職できるのだから、願ったり叶ったりだったのかもしれない。

また、希望退職を断られても、そうせざるを得ないほど落ちぶれた会社に見切りをつけて、本当に優秀な人材は勝手に転職していった。

これが私が体験した希望退職のリアルである。

50代が大幅に辞めた事で組織の風通しが良くなった

そして、希望退職が終わった後の現場であるが、かなり改善されたと言うのが本音だ。

優秀な人もある程度残っているので、プロジェクトが止まるような事は無かったし、何より50代のほとんど仕事をしないおじさんがいなくなったので、組織の風通しが抜群に良くなった。

また、私も尊敬するKさんがいなくなった事で自立心が芽生え、自分の業務範囲を拡大させていき、ますます成長していったと実感している。

希望退職は最悪な制度であったが、それなりに改善効果はあった。日本のメーカーが希望退職を繰り返しながら、何とか生き残っているのはそういう正の部分もあるからだろう。

実際、3度の希望退職を行い、1万人以上の人員削減をしたシャープは優秀と言われていた人はほとんど残っていないだろう。しかし、2018年3月期には黒字転換する見通しであり、確実に復活している。

希望退職は最悪な制度であるが、やらずに会社が潰れるよりはマシである。

それが実際に私が希望退職の現場を見て感じた事である。

もちろん、強すぎる正社員の解雇規制の中での苦肉の策でしかない。希望退職を行なっている日本企業の競争力は下がる一方である。

現在の日本企業が置かれている環境は、希望退職を行いなだらかな下り坂でゆっくり死ぬか、何もせず急な下り坂ですぐに死ぬか。そういう選択である。

1,000兆円以上の借金を抱え、これから超高齢化、少子化社会を迎える日本になだらかな下り坂を転がっている余裕は無いと思う。雇用を流動化し、辞めても直ぐに次の会社が見つかるようにする事で、ダメな会社はさっさと潰れ、魅力ある企業にどんどん人が集まるようにならなければマジでやばいと思う。

参照:BBC NEWS JAPANSankeiBiz日経新聞

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author : 宮寺達也

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