法律

高度プロフェッショナル制度は残業代ゼロじゃ無くて対象者ゼロ

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出典:写真AC

安倍政権が進めている労働改革、「高度プロフェッショナル制度」を巡って連合(日本労働組合総連合会)が混乱している。7月13日には容認を安倍首相に伝えたと思ったら、19日のデモを受けて、21日にはあっさりとまた反対に転じてしまった。

高度プロフェッショナル制度は、年収1,075万円以上の高収入の専門職(アナリスト、為替ディーラー、研究職)について、労働時間管理の対象から外し、成果によって給与を支払う制度である。

連合がなぜ混乱しているかは、人事コンサルタントの城繁幸さんの解説がわかりやすいのでそちらをご覧になって欲しい。

連合が残業手当ゼロ法案に賛成したワケ

さて、私が高度プロフェッショナル制度を巡るドタバタを見て感じたのは、「こんな小さな改革すら進まないのか」というちょっとした絶望感である。

高度プロフェッショナル制度が導入されたとしても、良くも悪くも大した影響は無い。困る人はゼロだし、むしろハッピーになる人の方が多いだろう。


高度プロフェッショナル制度の対象者はほぼゼロ

高度プロフェッショナル制度は巷では「残業ホーダイ」「残業代ゼロ法案」と揶揄されている。だが、

そもそも年収1,075万円以上の高収入の専門職(アナリスト、為替ディーラー、研究職)で、残業代を受け取っている人なんて、今の日本にはほとんどいない。

2017年の総務省の統計によると、日本の総労働者数は6,583万人。その内、高度プロフェッショナル制度の対象になり得る正社員の人数は3,457万人である。

さらに、2016年の国税庁の民間給与実態調査によると、年収1,075万円以上に該当しそうな給与所得1,000万円以上の人数は、わずか5.3%である。

そもそも対象者になり得る母数が、183万人。日本の総人口のわずか1.4%の話なのである。とはいえ、

「183万人もの人が残業代ゼロでただ働きなんて許せない」

とまだ思う人もいるだろう。だが、これも的外れなのだ。

年収1,000万円以上の正社員は、とっくの昔からほぼ全てが管理職として残業代ゼロで働いている。

そう。高度プロフェッショナル制度は残業代ゼロではなく、対象者ゼロなのだ。

日本企業の管理職は年収700万円で残業代ゼロ

労働基準法第41条では、「監督若しくは管理の地位にある者」は労働時間の規定を除外されると定めている。これが労働基準法上の管理監督者である。

厚生労働省によると、

「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。

となっている。

まあ要するに、社長から「好きに働きたまえ」と広い権限と裁量を貰っている偉い人の事である。どんな仕事をするか、何時に出勤するか、何時に退勤するか、自分で自由に決めて良いという特権的な立場である。

プロ野球のベテラン選手が、秋季キャンプの参加が自由であったり、マイペースでの調整が許されている感じだ。

日本の企業では課長代理あたりからもれなく管理職になり、労働時間の規程が除外される。そのため、残業という概念が無くなり、残業代ゼロである。

「じゃあ、全員を管理職にすれば良いじゃん」と思った人もいるだろうが、流石にそこまで簡単では無い。厚生労働省も、

「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。

企業内で管理職とされていても とされていても、次に掲げる判断基準に基づき総合的に判断した結果、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合には、労働基準法で定める労働時間等の規制を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払が必要となります。

と釘を刺している。マクドナルドの店長が「勤務時間や仕事内容の自由が無いのに、管理職として残業代が出ないのは違法だ」と訴えた裁判では、マクドナルドの店長が勝訴している

なので、目安としては、大企業の課長以上で部下に仕事の指示を出す立場であり、さらには年収700〜800万円以上の給与となっている。

実際、私が勤務していた大手事務機器メーカーでは、35〜40歳になると、半数以上が管理職になっていた。その給与明細を見たことがあるが、月給60万円・残業代ゼロ・ボーナス200万円で年収920万円という感じであった。

やはり2016年の国税庁の民間給与実態調査によると、年収700万円以上の人数は12.9%(446万人)、年収800万円以上の人数は8.8%(304万人)である。

さらに日本の管理職の総数が約340万人であるらしいので、ほぼ年収700〜800万円以上の給与所得者と一致する。

つまり、日本では年収700〜800万円以上で残業時間に関わらず成果で処遇する裁量労働制がとっくの昔から浸透しているのである。年収1,075万円以上を対象とする高度プロフェッショナル制度を導入しても、対象者はほぼゼロで何も変わらない。

トヨタも推進。裁量労働制の流れは止まらない

まあ、今のように長時間残業が社会問題になる前、「24時間働けますか」のキャッチコピーが流行っていた時代はちょっと違ったらしい。

大手事務機器メーカーの先輩の話では、90年代のエンジニアは毎月残業200時間越えが当たり前で、係長で年収1,200万円なんてザラにいたらしい。課長になったら残業代がゼロになって年収が700万円までダウンしてしまい、子どもに塾を諦めて貰ったなんて話も聞いた。

しかし、現在ではそこまでの残業を強いている会社はそう無い。36協定で青天井の残業時間と言っても、「きちんと残業代を払う」大企業では80〜100時間、それも年6ヶ月までが相場である。

なお、この手の企業の非管理職の基本給はMAXで40万円ほどである。なので、非管理職がMAX残業したとしても、その残業代は月20万円と言った所である。つまり、残業代を貰いながら働いている非管理職の年収の上限はボーナスを合わせても900万円という所だ。

もちろん、極わずか、残業代で1,000万円を超えるような人もいるだろう。

だが、そういう人は現在の制度では管理職に無理やり昇格させられて、年収700万円に下がってしまう。だったら高度プロフェッショナル制度で年収1,075万円を保証した方が、よっぽどお得である。

ちなみに「サービス残業が増えてしまう」という意見も出るだろうが、あまり意味の無い心配だと思う。そもそも労働基準法を遵守していない会社が、年収1,000万円を払っているとも思えないし、そんな会社でそこまで稼げる社員はもっと条件の良い外資や大企業に幾らでも転職できるだろう。

日本を代表する企業であるトヨタも、高度プロフェッショナル制度の導入を待つ事無く独自の裁量労働制の導入を決めた。主任級を対象に、残業時間に関わらず残業代17万円を保証する裁量労働制を拡大すると発表した

このような動きが追随すれば、ますます高度プロフェッショナル制度の対象者はいなくなるだろう。なので、「残業代ゼロ法案だ」と的外れの声を上げるより、どうすればもっと良い裁量労働制になるか、一緒に考えて欲しいと思う。

実際にエンジニアとして働いている立場としては、裁量労働制は「ダラダラとニュースサイトばかり見ていて仕事しない残業代泥棒より、テキパキと仕事をして短時間で高い成果を上げる人に報いてくれる」極めて真っ当な制度である。

500打席50安打・打率1割より、200打席80安打・打率4割のプロ野球選手により高額な年俸を払って、来年も頑張って欲しい。高度プロフェッショナル制度が目指す姿は、そんなシンプルで自然な姿である。

-法律

author : 宮寺達也

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