特許

クラウド会計特許バトル。freeeは自滅で初戦を落とした

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画像出典:TechCrunch Japan

7月27日、クラウド会計ソフトの特許侵害を巡ってfreeeがマネーフォワードを提訴していた特許訴訟の判決が東京地裁で下された。

判決はfreee側の請求を棄却するもので、マネーフォワードの特許侵害は認められないというものであった。

本特許訴訟は以前の記事、「freeeがマネーフォワードを特許侵害で提訴。人工知能は特許になるのか?」で取り上げており、私も結果に注目していた。

その記事では、「freeeが特許侵害訴訟で簡単に勝利するとは思わない。現時点で明らかになっている情報からの判断であるが、2つの理由から勝敗は5分5分と考えている」と書いている。なかなか情報が不足していたので何とも玉虫色の予想であったが、まあ大外れしなくて良かったと思っている。

さて、ネットではfreeeの敗訴を受けて、「freeeの敗訴は当然」「人工知能(AI)に特許が認められたら、今後のAI産業は終わってしまうから良かった」との意見が多い。

しかし、私は今回の特許訴訟から、人工知能の特許全体を語ることはできないと思っている。

freeeの敗訴は明らかな自滅であり、戦いはこれからが本番だからだ。


1つ目のミス。freeeは特許の選択をミスした

改めて、freeeとマネーフォワードの特許訴訟を振り返る。

freeeは自社の特許第5503795号に載っている技術を、マネーフォワードの自動会計ソフト「MFクラウド会計」が無断で使用しており、特許侵害だと主張した。

本件特許を特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で調べてみると、特許第5503795号の内容は、

テーブルを参照した自動仕訳は、取引内容の記載に対して、複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し、優先順位の最も高いキーワードにより、テーブルの参照を行うことを特徴とする会計ソフト

となっている。(読みやすさのため、一部意訳)

つまり、インターネットを通じてネットバンキングやクレジットカードの取引データを入手、記録し、取引データと勘定科目を対応付けた辞書を作成する。これがテーブルである。

そして、新たな取引データが入力されると、テーブルを見て、最も近い勘定科目を選択し、そこに自動で仕訳する発明である。

これに対して、マネーフォワードは「MFクラウド会計は機械学習を用いて、取引データが入力されると、毎回、新たな勘定科目を生成する。そのためテーブルは使用していない」と反論した。

これに対して、freeeは「テーブルとは、取引データを記載した集合体であり、機械学習も含まれる」と主張したが、東京地裁に却下された。

東京地裁は実際にMFクラウド会計の動作確認を行い、「機械学習により、これまでのテーブルに存在しない新しいキーワードに対応できるため、freeeの特許と異なる」と判断した。よって、freeeの敗訴となった。

しかし、ここでfreeeの大きな判断ミスがある。実は、freeeは機械学習の自動仕訳の特許も取得済であったのだ。

これは前回の記事でも、

2件目の特許第5936284号も勘定科目の自動仕訳の発明であるが、こちらについて侵害を主張していないのは気になる。

と指摘しており、私も気になっていた。

特許第5503795号(テーブル方式)と特許第5936284号(機械学習)の2つの特許を用いて、特許侵害を主張していれば、訴訟の結果も変わったはずだ。

特許第5503795号に記載のテーブル方式は機械学習より簡単であり、自動仕訳の基本である。実際、クラウド会計ソフト freeeはテーブル方式と機会学習の両方を使用しているようだ。

そのため、freeeはMFクラウド会計も当然、テーブル方式と機会学習の両方を使用していると考えたのであろうが、これは判断ミスであった。そんなに手間が違うとは思わないので、両方を侵害特許として主張するべきであった。

2つ目のミス。freeeは訴えるソフトの選択もミスした

そして、2つ目のミスであるが、freeeは特許侵害の対象として2016年8月リリースのMFクラウド会計のみをターゲットにした。

MFクラウド会計のプレスリリースによると、

 従来の「勘定科目提案機能」では、自動取得した銀行口座やクレジットカード明細などのそれぞれの取引内容に応じて自動仕訳ルールを設定することにより、ルールにもとづいた勘定科目提案が行われてきました。しかし、初めて利用するユーザーや、年間を通じて利用頻度が少ないユーザーなど、自動仕訳ルールの設定をしていないユーザーは、取引ごとに勘定科目を手動で選択する必要がありました。

 この度バージョンアップした「勘定科目提案機能」では、当社が保有するビッグデータ(自動取得したデータから作成した仕訳)にもとづき、機械学習による勘定科目提案を行うため、初めて利用するユーザーでも、ほぼ全ての取引に対してより精度が高い自動仕訳を可能にします。

となっている。

このプレスリリースでは、MFクラウド会計が「従来のテーブル方式をバージョンアップして、機械学習方式の自動仕訳を導入しました」と書いてある。

つまり、MFクラウド会計の前身となるクラウド会計ソフトではテーブル方式の自動仕訳を使用していた可能性が非常に高い。

これもまた、前回の記事で指摘しているのだが、マネーフォワードは2013年11月29日にMFクラウド会計の原型となるサービス「マネーフォワード For BUSINESS」をリリースしている

マネーフォワード For BUSINESSの説明では「取得した入出金データは、その文言を元に半自動で仕訳作業が行われます」となっており、これはテーブル方式の自動仕訳に該当する可能性が非常に高い。

マネーフォワード For BUSINESSは、訴訟時点では既にサービス終了していたとは言え、
そのリリース時期はfreeeのテーブル方式の特許成立日・2014年3月20日と被っている。

もちろん、既にリリース終了した製品の差し止めはできないが、損害賠償は可能であっただろう。

freeeはMFクラウド会計だけでなく、マネーフォワード For BUSINESSも特許侵害の対象とするべきであった。これが2つ目のミスである。

freeeとマネーフォワードの戦いはこれからだ

今回の特許訴訟は、勝つチャンスが有ったのに、freeeが自滅により敗戦した形だ。しかし、逆に言えばそのミスを修正すれば、まだ今後の展開はわからない。

freeeは判決を受けたプレスリリースで、

本判決において当社が保有する特許の有効性も否定されていないため、本判決による「クラウド会計ソフト freee」をはじめとした当社プロダクトへの影響はございません

と強気の回答をしているが、妥当な内容だと思う。

元々、freeeとマネーフォワードの特許訴訟は、

・freeeの自動仕訳の特許は常識的な技術であり、特許が無効になるのでは無いか
・freeeの特許が有効となると、AIの特許が無数に認められ、AI産業の発展に影響する

が注目するポイントであった。

今回の特許は、freeeの自滅により、そのポイントに辿り着くまでに終了してしまった。したがって、ネットユーザーが「AI産業が守られて良かった」と安心するのは、ちょっと早合点である。

現在、まだfreeeは知財高裁に控訴するかどうか、判断を明らかにしていない。

私は特に機械学習の特許第5936284号の侵害を主張しなかったのは大いに後悔していると思うので、控訴するのではと予想する。

その時こそ「人工知能は特許になるのか、ならないのか」、今後のAI産業を占う結論が見れるだろう。

参照サイト:TechCrunch Japan「自動仕訳で特許侵害なし、マネーフォワードがfreeeに勝訴」


アゴラに掲載されました(2017年07月28日)

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author : 宮寺達也

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