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日本の電機メーカー全滅に真犯人なんていない

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出典:写真AC

「日本の電機メーカー全滅の要因は、東京電力とNTTである」(参照:現代ビジネス)というツッコミどころ満載の記事を池田信夫さんがツイートされていたので、私も読んだ。

池田さんは、

「このライターは信用できない。「電機メーカーはすべて東電とNTTの下請けだから国が悪い」という勧善懲悪。パナやソニーは下請けなのか。」

とつぶやかれており、全く同感である。

こういう炎上狙いなのか本の宣伝なのか、ツッコミどころの多い記事はスルーしたいところだ。だが、日本のエレキ技術者の1人として、日本の電機メーカーの復活を願っている私としてはちょっと見過ごせなかった。

そこで、「全滅」とまで言われるようになった状況を正しく認識するべく、日本の電機メーカーに何が起こってきたのか解説したい。


2000年以降、ずっと日本の電機メーカーは苦戦している

まず、状況を正しく理解するために、2000〜2016年のApple、Samsung、そして日本の電機メーカー全部(SONY、パナソニック、シャープ、三菱電機、東芝、日立、NEC、富士通)の決算をまとめてみた。

図1 電機メーカーの売り上げ推移(2000〜2016年)

図2 電機メーカーの営業利益推移(2000〜2016年)

まず、分かる事は2000年以降、日本の電機メーカーはほとんど成長していない事だ。売り上げはほとんど横ばいだし、営業利益もUP/DOWNを繰り返しながらほとんど増えていない。

シャープが経営危機に陥り鴻海に買収されたり、東芝が巨額赤字で決算もまともに出せなくなっていたりと、ここ2〜3年危機的なニュースが多く流れている。そのため、日本の電機メーカーはこの数年で急に落ちぶれたように感じている人も多いだろう。

しかし、実態は日本の電機メーカーは20年前からずっと停滞を続けており、AppleやSamsungのようにグローバルでヒット商品を出し続けどんどん伸びていった企業に大きく離されてしまったという見方が正しいと思う。

記事では「かつて電機産業は自動車と並ぶ日本の中核産業だった。国内で生産されるラジオ、テレビ、ビデオレコーダーや半導体は世界市場を席巻し、輸出立国の礎となった。しかしリーマン・ショックを境に二つの産業は明暗をくっきり分けた。」と書かれているが、これは事実認識が間違っている。

リーマンショックは世界中の電機メーカーにとってピンチであった。Samsungは売上・営業利益共に大きく落ち込んだし、Appleも成長に陰りが見られた。日本の電機メーカーは営業利益こそ大きく落としたものの、売上は何とか維持していた。

日本の電機メーカーが大きくAppleとSamsungに引き離されたのは、2010年のiPhone4/Galaxy発売からの、世界中でスマートフォンの人気が爆発してからである。

記事には「利益の源泉が、ハードウエアではなく、ソフトウエアに替わり」と書かれている。これ自体は間違っていないと思うが、ハードウェア企業であるSamsungがスマホアプリやOSではなく、スマホハードで圧倒的な売上・利益増を実現した事を考えると、決してハードウェアだから負けたとは言えない。

問題は投資信託でも買ったほうがマシなんじゃないかと思う低利益体質

日本の電機メーカーの決算を眺めていて痛感するのは、その圧倒的な低利益体質である。

図3 電機メーカーの営業利益率[%]推移(2000〜2016年)

2000年以降、電機メーカーは一度も利益率10%を超えていない。

Samsungは安定して10%を超えており、リーマンショック直後でも4.9%と安定して利益を叩き出している。

Appleは2001年、iPod発売直後の頃の売上は6382億円であり、どの日本の電機メーカーよりも少なかった。しかし、2004年を除き営業利益率は安定して10%強の水準であった。日本ではまだiPodはヒットしておらず、ほとんど誰もスティーブ・ジョブズの名前を知らないような時期から安定した利益を叩き出しており、現在の30%を超える超高収益経営の礎を築いていたのだ。

2000年以降の日本の電機メーカーの営業利益率は平均2.4%であり、流石に銀行に預けておくよりマシだとは言わないが、適当な投資信託を買ったり、10年物国債でも買った方がマシである。

そして、日本企業は内部留保を溜め込んでいて従業員に還元していないと言う批判を聞くが、全く筋違いの指摘だと思う。

もし本当にそんな現金を溜め込んでいるなら、2〜3年不調だったくらいで簡単に経営危機に陥ったりしない。日本企業の正体は、ず〜っと低利益率に苦しみ、キャッシュフローがカツカツになっている瀕死寸前の集団である。

家庭に例えたら、1000万円の年収がありながら自由に使えるお金が24万円しかなく、しかもそこから半分以上をローンあり税金なりに取られ、どんなに節約しても10万円ほどしか貯金ができない状態である。これでは老後が心配なのは当然だ。

そしてそんな余裕の無い状態で、シャープの堺工場への投資失敗による損失3000億円、東芝のウェスティングハウスの損失9000億円以上なんてピンチが一回でも起きれば、会社が丸ごと吹き飛んでしまいそうになると言う訳だ。

競うな 持ち味をイカせッッ

さて、ではどうすれば日本の電機メーカーが復活できるか。

まずこれまで書いたように、日本の電機メーカーが凋落した真犯人なんて存在しない。

「真犯人は東京電力とNTT、あなただ。あなたを逮捕すれば、事件は解決」

なんて名探偵コナンよろしくお気楽なストーリーは存在しない。日本の電機メーカーは復活も何も、この20年以上ずっと低利益率に苦しんでいる「弱者」なのである。

例えるならば、高校3年間ほとんど勉強せず、ずっと赤点ギリギリだった生徒が

「ドラゴン桜みたいに、半年で俺を東大に入れてくれ」

と言っているようなものだ。漫画ならいざ知らず、現実にはそんな簡単に成績アップできる方法は存在しない。3年間勉強をサボったなら、また3年間勉強しないと元の位置には戻れない。

日本の電機メーカーが世界を席巻したのは1980〜90年。もう30年以上前だ。ここからかつての栄光を取り戻すには、それこそ30年掛けて少しずつ生まれ変わっていく必要がある。即効薬なんて存在しない。

もしそんなものがあると期待して安易に飛びついたら、シャープや東芝の二の舞になるだろう。

ただ私は、無理に、苦手な新しい事に挑戦しなくても良いのでは思う。

「競うな 持ち味をイカせッッ」とは、「バキ」の大擂台賽にて、主人公・範馬刃牙の父親である範馬勇次郎が叫んだ名セリフである。これは私の人生の指針の一つだが、日本の電機メーカーのこれからにも通じると思う。

AppleやGoogleと比較して日本の電機メーカーを語る識者は「ハードからソフト」「モノよりコト」「体験を売る」などとしたり顔でアドバイスする。

しかし、日本の電機メーカーも言われなくてもそんな事はわかっている。しかし「ソフト」「コト」「体験」で勝負しようとしても、それが非常に得意なAppleやGoogleに勝てないから苦しんでいるのだ。

私はそんな苦手な事で勝負するより、得意なハードで勝負を続ける方がまだ良いと思う。特に日本の大企業は強烈な解雇規制で新しい人材が入って来づらい。本気で新しい事業を始めるならばその分野のエキスパートを大量に雇う必要があるが、それができず、既存の人材に新しい事をさせようとする。だから、新規事業がより成功しにくいと言う事情がある。

なので、ここは開き直って、既存の社員が得意とするハード分野で徹底的に勝負をし続ける方が良いと思う。

液晶テレビは売れなくなっても高精細液晶パネルと搭載したHMDが売れ始めているし、デジカメは売れなくなったがVR用の360°カメラがヒットし始めている。かつてDRAMで世界を席巻した日本の半導体事業は瀕死であるが、IOT・自動運転・AI・VR分野で新たな高性能半導体の需要は高まる一方だ。

ライバルSamsungは今もなお、スマホ、半導体、液晶テレビ、白物家電とハードで世界を席巻している。日本の電機メーカーは苦手な分野でAppleやGoogleといった巨人に勝負を挑むより、持ち味を活かせる得意なハード分野を徹底的に極める方が合っていると思う。

そして、大事な事はどっちにせよ決断する事だ。「悪い決断でも、何も決断しないよりかは余程良い」という格言がある。このまま方針をはっきりとさせずズルズル低利益経営を続けていくのではなく、まずはどういう勝負をするのか、はっきりと態度を決める事から始めよう。

参照:5分でわかるApple、サムスン、ソニー、40年の歴史電気機器系企業の業績と年収の推移

-ビジネス

author : 宮寺達也

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