教育

大学無償化するなら現金をくれ

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出典:写真AC

前回の記事までで、研究・修学の場である大学の無償化には反対であり、低利子の貸与型奨学金や成績優秀者への給付型奨学金の拡充という形が望ましいと思う、と書いてきた。

しかし、大学無償化は与野党揃って賛成の意見が多く、安倍首相も賛成のメッセージを寄せた事で今後実現に向けて進んで行く可能性が高い。

文部科学省の試算によると、大学の授業料を無償化するには3.1兆円の財源が必要になるとのことだ。何度も書くが、私はどうせ税金を使うならばこれからの日本を支えていく若者のために優先的に使ってあげて欲しい。

そのため、気になるのはお金の使い方だ。3.1兆円もの巨額の国費を大学の授業料だけに使うことは、本当に「優秀だが、家が貧乏で進学が困難な若者」を救うのだろうか?


得するのはお金持ちの医学部生、損するのは専門学校生

そもそも大学の授業料と一口に言っても、国立・私立、学部によって様々に違う。

国公立大学の授業料は年間約53万円である。それに対して私立大学の授業料は当然UPし、文系学部で約74万円、理系学部では約104万円になる。国立理系学部の2倍近い額だ。

さらに私立大学の医学部では約273万円と桁違いの金額だ。

大学の授業料を無料にすると、一番得をするのは医学部生とその家族になる。6年間で約1700万円以上の支出が浮く事になる。最も得しないのが国公立大学生で、4年間で約240万円の支出が浮くだけだ。

家がお金持ちというわけでないので、親の負担を減らすべく公立中学→公立高校→国立大学と勉強を頑張って進んだ私のような苦学生より、元々お金持ちの家に生まれた人が多そうな医学部生が7倍以上お得だというのは何ともおかしな話に感じる。

また、文部科学省の統計によると平成28年の大学進学率は58万3704人と全体の54.8%である。まず問題だと思うのが、仮に大学無償化が実現したとしても、若者の半分強しか得をしないという事だ。

「大学無償化したら、もっと大学進学者が増えるのでは」と思う人もいるだろうが、そもそも全国の大学の定員総数が58万4千人(平成24年)であり、少子化も進む中これ以上大きく増える事はないだろう。

では、大学に進学しない残りの若者はどうしているかというと、大きくは専門学校生が17万3629人で16.3%、就職が18万9868人で17.8%に別れる。

そう。大学無償化の議論で置き去りにされているのが、この専門学校生だ。

就職した若者は給料を貰えるからまだ良いかもしれないが、専門学校生の金銭負担はそのままだ。専門学校は学ぶ分野によって費用や修学年数が大きく異なるが、初年度の学費で比較すると、看護系で87万円、アニメ・声優・ゲーム系で128万円、理容・美容系で118万円、製菓系では166万円になる等、私立の理系学部より高い授業料である。

大学と専門学校、法律的な位置付けや学ぶ内容が違うとはいえ、高校を卒業した若者が将来に備えて自分を成長させる場としては変わらない。

大学無償化とは、自分の夢に向かってスキルを磨いている専門学校生には全く助けにならない、非常に歪んだ若者支援である事がわかる。

参照:Benesseマナビジョンマイナビ進学平成28年度学校基本調査大学入学者選抜、大学教育の現状

地方から出て一人暮らしする若者は生活費の負担の方が大きい

さらに、大学無償化では授業料がタダになるだけである。七帝大(旧帝大)のような難関国立大学は全国の都市圏にあるし、東京工業大学・一橋大学といった難関国立大学や、慶応・早稲田・上智のような有名私立大学は東京に集中している。

また、多くの専門学校も都市圏に集中している。そのため、地方の高校生の多くは親元を離れ、都市圏で一人暮らしをしながら大学や専門学校に通う事になる。かくいう私も富山県から大阪に移り住み、一人暮らしをしていた。この生活費が馬鹿にならない。

都心で実家暮らしをしながら大学や専門学校に通う場合、両親の負担は月々の食費くらいであり、2〜3万円で済むだろう。しかし都会で一人暮らしをする場合、家賃(5〜7万円)や生活費(5〜10万円)を合わせて、月に10〜17万円の多額の仕送りをしなければいけない。

仕送りの平均を15万円と仮定すると、1年間で180万円の負担である。授業料をタダにしても、レベルの高い大学・専門学校が都市圏に集中している限り、地方で学生を抱える親の負担は大きいままである。

都市圏か地方か、大学か専門学校かで、大学無償化でどのように負担が変わるか、これをグラフにしてみた。

図1 出身・進路別の金銭負担一覧

これもまた凄い差であるが、最も恩恵を受ける都市部の医学生の家庭は、トータルの負担が1890万円から248万円まで下がる。

そして、大学無償化の目的である「優秀だが、家が貧乏で進学が困難な若者」として想定される地方の国立大学生はトータルの負担が962万円から748万円に下がる。下がりはしたが、医学生より多い負担は依然として残り、果たして「負担が少ない。じゃあ、大学に行こう」となるような金額とは思えない。

そして、専門学校生は全く負担は変わらない。地方から2年間進学する場合、アニメ系でトータル600万円、製菓系でトータル668万円となる。

いずれにせよ、大学の授業料がタダになっても地方から夢を追う優秀な若者はほとんど救われない。生まれた時から都会を満喫しているお金持ちの医学生が、なぜか最も得をし、負担が少なくなるというおかしな結果になる。

どうせだったら、3.1兆円を18〜22歳に均等にバラまけ

というわけで、大学無償化は3.1兆円もの巨額な国費を投入したにも関わらず、「優秀だが、家が貧乏で進学が困難な若者」をほとんど救わない事になりそうだ。

しかし、政治家の間では「(財政法違反の)赤字国債を発行してまでも実施すれば良い」という意見がある。

だったら、せめてものお願いとして、「大学の授業料」という形で歪にバラまくのではなく、18〜22歳の若者に均等にバラまいてほしい。

平成28年の高校卒業者が106万人なので、単純に18〜22歳の若者を424万人とする。この人数で3.1兆円を均等に分ければ、1人辺り年間73万円となる。

この金額を貰えるならば、地方の国立大学生は授業料を払ってもお釣りが出るので生活費の足しにできる。専門学校生も授業料に充てることができる。医学部生はかなりの負担が残るが、これが最も公平だろう。

また、20歳で短大や専門学校を卒業して就職したり、高卒で就職した22歳までの若者も年間73万円を受け取って良いとする。そうすれば、そもそも大学無償化の根拠であった「高卒は大卒より7000万円も生涯年収が低くて、貧困から脱出できない」という状況を改善できる。また、アニメーターなど、月収1万円を切るような待遇が低くて問題になっている職業の支援にもなる。

何よりも、若者が自分でお金の使い道を決めることができるということが大きい。

前回の記事にも書いたが、大学無償化を行えば、少子化で定員割れを起こし、無条件で学生を募集し、「一般教養で割り算」「出席すれば単位OK」「4年生は何もしない」というFランク大学が淘汰されず、存続する。

つまり、大学無償化は私たちの税金でFランク大学の教授やオーナーの給料を払うということなのだ。

若者が自分でお金の使い道を決めることができれば、質の高い教育を行う大学・専門学校に若者が集まり、Fランク大学は淘汰されるだろう。そうすれば、4年間という貴重な青春を棒に振るような不幸な若者は減る。

私は大学無償化に反対の考えは変わらないが、もし実現してしまうならば、せめて本当に若者のためになるお金の使い方をして欲しいと願ってやまない。

いやー、しかし、「同情するなら金をくれ!」って20年以上前のドラマ(家なき子、1994年)のセリフだけど、いまだに本質突いてるな〜。

-教育

author : 宮寺達也

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