教育

これからの大学入試の話をしよう

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出典:写真AC

前回の記事で大学無償化への反対意見を書く中で、「卒業時に入学試験を解けなくなっているような大学は、教育機関とは呼べない」と書いたところ、かなりの反響をいただいた。

「入試問題と、大学で教える講義内容、テーマ、専門性は違うもの。ミスマッチは問題無い」

「入試問題が解けなくなっていても、卒業時には専門知識が身についている」

といったものだ。

私もちょっと「卒業時に入学試験を解けなくなっている」ことを強調しすぎたかとは思った。

本当に伝えたかったのは、現在の大学入試が「大学が求める人材の選抜」という本来の目的より、「学歴のシグナリングのための振い落とし」という2次的効果が前面に出すぎでは無いか、という懸念である。

それを踏まえながら、これからの大学入試の話をしたい。


シグナリングは必要だし、ペーパーテストは素晴らしい

まず、私は「ペーパーテスト一発勝負で、人生を有利にする切符をゲットできる」制度は素晴らしいと思っている。

以前にも書いたが、私の父親は戦後の混乱の中で育ち、あまり裕福な家庭では無かった。亡くなった祖母に聞いた話では、母子家庭だったので収入はほとんど無く、生活保護を受けていた。いつも同じ服しか着せられず、近所の子供には「税金で養ってもらって生意気な」と登下校中に石を投げられたりしたそうだ。

中学校の先生からも「お前みたいな貧乏もんが高校受験など生意気な」と言われていたそうだ。だが、勉強をただひたすらに頑張ることで奨学金を獲得し、地元の国立大学を卒業し、高校教師として働けるようになった。

そんな父親の口癖を、私は何回聞いたであろうか。

「達也よ。日本の受験は素晴らしいぞ。目の前の試験に正解するだけで人生を切り開くことができる。人種も、性別も、年齢も、血筋も、過去も、性格も、顔立ちも、試験の前では全てが平等だ。用紙一枚でどんな人間にも未来が待っている、こんな幸せな時代がこれまであっただろうか」

現在でも、私の父親のように貧しい家庭の子供は、大学入試で「名門大学卒業」というブランドを手に入れない限り、良い条件の働き口を見つけるのは難しいだろう。お金に余裕が無いと、推薦入試やAO入試で評価されるようなボランティア体験をしている暇なんて無い。

ペーパーテストは、どんな金持ちの子供にも、モテモテのイケメンにも、コミュ力高いチャラ男にも、全く贔屓することは無い。貧しい家庭に育った子供にとって、これほど素晴らしい制度は無い。

そして、平均年収がトップ100に入るような一流企業には、1万人を超える多数の応募者が殺到する。これを全員インターンしたり、面接している余裕は無い。何かしら「こいつは仕事ができるだろう」というシグナリングが無いと選別は困難だ。

もしそういった人気企業に選別を禁止すると、例えば現役社員の推薦が必要になったりとか、中途社員しか採用しないとか、貧しい家庭に育った子供にはさらに不利になってしまうだろう。

なので、就職に有利になるシグナリング効果が期待できる、ペーパーテスト一発勝負は有りだと思う。ただ、それが大学入試である必要が無い。

センター試験を大学入試から外して、シグナリングに活用しては

池田信夫さんが大学無償化に反対する意見を述べている中、ツイッターで

科挙みたいに全国民がいつでも受験できる「試験」でやるほうが効率的で公平だ。

ツイートされた。私もこの考えに賛成だ。

現在でもTOEICのように、全国民がいつでも何度でも受験可能で、その点数によって企業に評価されるシグナリング効果を持ったテストが存在する。他にも司法試験や弁理士試験、公認会計士試験のように、大学受験に関わらず、その試験の合格が就職に大きく有利になる試験が存在している。

現在の一流企業の採用での選別では、このシグナリングを大学名で判断している。そして、その実質は大学入試の点数である。ならば、大学入試の点数を直接、就職で評価できるようにすれば良い。

現実的な線としては、センター試験の点数を活用すれば良いだろう。センター試験は高校生の半分以上が受けるテストであるし、マークシートなので採点のバラツキも無い。

ただ現在のセンター試験は大学受験の1次試験として活用されているので、時期が1月であるし、年に1回しか受験のチャンスが無い。

そこで、センター試験は大学入試とは関係無いものとし、年に数回実施するようにする。受けたい人は、TOEICのように最高点を更新するまで何度でも受ければ良い。

一流企業への就職を目指す若者はひたすらセンター試験を勉強すれば良いし、本来の意味である大学で研究や学問を修めたい人は、センター試験を無視して大学の入試問題を勉強すれば良い。

こうする事で、大学入試から就職に有利というシグナリング効果が失われ、「大学が求める人材の選抜」という本来の目的に近づくだろう。

大学は純粋な研究・修学の場へ

私は前回の記事で「入学試験を解いたら、受験時より点数は下がっているだろう」と書いたが、2次試験に限定すればそうでも無い。

大学では物性物理学を修めたので、物理と英語はまあ点数を取れるだろう。大学院入試でもっと難しい物性物理・英語を受験し、合格したのだから。

ただ、ずっと電気工学を学んだため、化学と数学はそこまで取れる自信は無い。

でもやっぱり思うのは、卒業したのに入学時より実力が劣るというのはおかしい。小学校卒業時には1年生の問題なんて楽勝だし、中学・高校もそうだ。会社に入っても、新入社員より仕事ができないなんて有り得ない。(そうじゃ無い人もいるだろうが)

大学が本来の目的である研究機関として学生を募集するならば、その研究・学問を修めるにふさわしい科目のみで評価すれば良いと思う。私のように電気工学ならば、物理・英語を重点的に評価して欲しい。

数学の実力も、化学の知識も、国語の実力も研究者には必要だ。しかし、受験の時にそこで難関国立の2次試験におなじみの難問・奇問を課す必要は無いと思う。それでは際立って物理の才能を持った若者を落としてしまい、本末転倒だ。

研究者に数学、化学、国語の知識が必要なら、それこそ合格してからじっくりと教えてあげれば良い。そう、HUNTER×HUNTERで、ハンター試験に合格してから念能力を教えてあげるようにね。

今の国立2次試験は、まるでプロ野球のドラフト会議の際に、50m走・6秒以内、遠投・80m以上、球速・120km以上みたいな条件をつけてるみたいだ。これじゃあ、イチローは取れるかもしれないけど、松井秀喜がドラフト外になるかもしれない。なんとも勿体無い。
今の大学受験でセンター試験を課していたり、国立2次試験で幅広い科目を解かせるのは、学歴シグナリング効果を狙って圧倒的な応募があり、倍率が3〜4倍になるから絞込みが必要なためだ。

確かに合格枠に対して受験者数が多すぎる場合は、専門性をじっくり評価する余裕は無く、範囲の広いテストを課して選別するのは合理的だ。そう、HUNTER×HUNTERのハンター試験の2次テストで、美味いお寿司を作れずにみんな不合格になったみたいにね。

学歴シグナリング効果をセンター試験に肩代わりしてもらえれば、純粋に研究・修学を目的とした受験者のみになり、総数は減るだろう。そうなれば、もっと余裕を持って適性のある受験者を選別する入試に、各大学は移行していくだろう。

素晴らしい大学もたくさんある。問題はFラン大学の淘汰

私は大阪大学で苦労して授業を受け、単位を取得し、物性物理を学んだ。そして、研究室で超電導を学び、非常に多くの知識、考え方を学んだ。

その事は今振り返っても、全く後悔の無い素晴らしい経験である。大した目的が無く進学したのは確かだが、行って良かったと思っている。

同じように世界の最先端の研究に携わっている学生、自分の興味のある学問を深く深く修めている学生にとって、大学は貴重な存在だ。そこでの学びによって、社会を変える研究成果を出したり、社会に貢献できる人材に成長する若者もいる。

そして、できるならば、金銭的に余裕が無くてもそれを希望する若者には、チャンスが有って欲しいと思う。

しかし、そのために大学無償化を実施すると、起こるのはいわゆる「Fランク大学」の存続だ。

少子化で定員割れを起こし、無条件で学生を募集し、「一般教養で割り算」「出席すれば単位OK」「4年生は何もしない」というFランク大学が現実に多数、存在している。

大学無償化を安易に実施すれば、こういう大学にも学生が殺到し、淘汰される事は無いだろう。しかし、そんな大学を卒業したとしても、何のメリットも無い。ただただ18〜22歳という貴重な青春の4年間を無駄にした上、生活費という形で両親にも金銭的負担が発生する。

あるべき「高等教育の無償化」とは、少なくとも「大学の授業料を無料にする」事では無い。それはFランク大学をソンビのように生き長らえさせるだけで、そこの教授やオーナーは得するかもしれないが、若者は損するだけだ。

少なくとも、研究・修学の場である大学生への補助は、「高等教育の無償化」とは分けて考え、低利子の貸与型奨学金や成績優秀者への給付型奨学金の拡充という形が望ましいと思う。

-教育

author : 宮寺達也

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