科学・文化

「神社仏閣の近くで育つと幸せを感じやすい」論文を読んで見た

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出典:写真AC

子供の頃に寺院や神社が近所にある地域で育った人は、そうでない人に比べて幸せを感じている(参照:産経新聞)、と非常に面白い研究結果が大阪大学・大竹文雄教授から発表された。

論文「寺院・地蔵・神社の社会・経済的帰結:ソーシャル・キャピタルを通じた所得・幸福度・健康への影響」

一見するとスピリチュアルな内容であるので、ネットでは早速「疑似相関じゃないのか」「寺社が多い地域は持ち家が多いからではないか」と言った否定的な意見も発見された。

私もニュースを最初に読んだときには「ほんまかいな?」と思ったものだが、論文の原典を確認せずに判断するのは研究者としてあるまじき行為だ。

実際に大竹文雄教授の論文を読んだ上で、その研究結果の評価や、ニュースを読んだ皆さんが感じている疑問に回答したい。


疑似相関との批判は妥当か?

大竹教授の論文が報道されると、「疑似相関の可能性が高い論文を経済学者が平気で発表し」とのツイートがあった。

原典を読まずに断定するのは乱暴だとは思うが、第一印象としてはそう感じてしまう気持ちは、まあ、わかる。

「疑似相関」とは、2つの事象に因果関係がないのに、見えない要因(潜伏変数)によって因果関係があるかのように推測されること、である。(参照:Wikipedia

例えば、1980年生まれの私たちの世代の身長の伸びを考えてみよう。身長の伸びが最も高い時期に、少年ジャンプで幽☆遊☆白書が連載されていた。そうすると、私たちの世代の身長の伸びと幽☆遊☆白書のコミックスの売り上げが比例するグラフができる。このグラフは高い相関係数を示す。

この結果を持って、幽☆遊☆白書を読むことによって、私たちの身長が伸びた、と主張する。しかし、実際には、幽☆遊☆白書の連載時期(1990年〜1994年)と私たちの成長期(10〜14歳)が被っただけである。

このように、2つの事象に相関はあるが、原因となる第3の事象が存在する関係が疑似相関である。

今回の「お寺や神社が近所にある人は幸せを感じる」という結果は、例えば、

「田舎にはお寺や神社が多く、同時に持ち家に住む人が多いので、幸せを感じやすい」

「お寺や神社では、良く催し物や、祭りが開催されるので、それで幸せを感じている」

「お寺や神社の近くに住む人は、仏教や神道への信仰心が強いため、幸せを感じやすい」

といった疑似相関が考えられる。

そして、論文ではこのような疑似相関について、きちんと考慮がなされている。

なぜお寺や神社が近所にある人は幸せを感じるのか?

論文内で示されている疑似相関についての検討では、

田舎特有の現象ではという疑問に対しては、「対象サンプルを12歳時点の居住地が三大都市圏だったものに限った推定を行ったが結果には大きな差がなかった」

催し物や、祭りの影響ではという疑問に対しては、「子ども会、夏休みのラジオ体操、地域の清掃活動、盆踊りといった存在が影響を与えている。特に神社ではその影響が大きいが、それを差し引いてもわずかに影響を与えている。そして、お寺やお地蔵さんは、催し物の影響がほとんど無い状態で、影響を与えている」

信仰心が与えた影響については、「親の宗教心を通じた影響を調査した。親の信仰心の影響を省いて考えても、近隣の神社・寺院・お地蔵さんの存在が影響を与えている」

と言及している。つまり、疑似相関ではという疑問については論文内で既に見当がなされており、お寺・神社の存在そのものが幸せを感じる事に繋がっていると示している。

論文では、その理由を

・お寺・お地蔵さんが近くにあると、「天は悪事を知っている」「神仏は存在する」「死後の世界が存在する」というスピリチュアルな考え方を高めるようになり、幸せを感じるようになる

・神社は、それぞれの土地の守護神(産土神)という性格をもち、地域住民の精神的連帯機能を持っているため、直接互恵性(互いに相手に利益や恩恵を与え合う精神)を高め、幸せを感じるようになる

と推定している。

個人的にも、「天は悪事を知っている」という感覚は理解できる。お地蔵さんの前を通ると自然と手を合わせてしまうし、お寺やお地蔵さんの前では(例えば、ゴミのポイ捨てと言った)悪事を働くのに強い抵抗感を感じる。

自分のこれまでの集団生活を想像しても実感しやすい。周りが遅刻をしない、無駄なおしゃべりは一切しないというメンバーと一緒に仕事をしていると、自分もそう言った行動を取るようになる。逆の環境では、たびたび遅刻をしたり、無駄なおしゃべりに時間を費やしてします。

まさに「赤信号、みんなで渡れば怖く無い」というやつだ。

なお、サンプル数が不十分ではという指摘もあるだろうが、47 都道府県から9,231 人のアンケート回答を得ている。一般的な調査では384人から回答を得れば十分とされている。9,231 人という数は統計的に信頼できる数だ。

お地蔵さんをもっと普及させるのは面白いかも

このように論文を一通り読んだ感想としては、「意外な視点だったが、説得力もあり、なかなか面白いことに繋がるかも」であった。

何より、名字に「宮」と「寺」を持ち、小学生時代はすぐ近所に神社とお寺がある環境で過ごしてきた上、大阪大学の卒業生であるこの宮寺達也としてはこれ以上なく興味深い研究だ。

ちなみに、亡くなった祖母によると「宮寺」という名字は明治維新の際に農民も名字を付けれと言われたご先祖様が、近所に「お宮さん(神社)」と「お寺」があるからと付けたらしい。非常に安直な名字であるが、おかげで人生で同姓にはあまり出会ったこなかった。

今回の論文によれば、私はお寺・神社による幸せを存分に噛み締めながら生きてきたのだろう(おかしいな、ではなぜ結婚できない・・・)。

そして論文の結論としては、お寺・お地蔵さん、神社の近くで育つと、幸福度が高くなる。年収に換算して、お寺・お地蔵さんがあった人は約169万円、神社があった人は約55万円高くなる、とのことだ。

まあ、とはいっても、これを理由にさらなるお寺や神社を増やしていくことは難しいだろう。土地代だけでも凄い金額になるし、周辺住民の幸福度が上がるといってもそのために私財を投入する人は考えにくい。政教分離の観点から、行政の介入はあり得ない。

しかし、小さなお地蔵さんくらいなら何とかなるのでは無いだろうか。

ニューヨークが割れ窓理論で治安を回復したに、全国にお地蔵さんを多数配置して、住民の幸福度を高める。名付けて「お地蔵さん理論」

お地蔵さんの制作費は2万〜10万円くらいだ。各アパート・マンションで、ちょっと寄付を募ったら簡単に集まるだろう。

数年後、もしかしたら私たちはたくさんのお地蔵さんに見守られながら生活しているかもしれない。

-科学・文化

author : 宮寺達也

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  1. みちはる より:

    結婚指輪のパワースト-ン的な力も調査してほしい。結婚指輪をいつも着けている人が幸福になるかどうかを調べてほしい。うちの両親は結婚指輪着けてないけど離婚しました。

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