教育

生徒会長選挙で嫌いなやつに敗北した。絶望が、俺を強くした(後編)

投稿日:

出典:黒部市立桜井中学校公式サイト

前回の記事はこちら

兄の戦い(生徒会長選挙)が始まった。立候補日までの1週間、それから投票日までの1週間。合計2週間の選挙戦である。

たかが中学校の選挙と侮るなかれ。やるべきことはたくさんあるのだ。

・推薦状名簿20人の獲得
・選挙用ポスターの作成
・選挙用タスキの作成
・選挙活動(朝と給食時間に全クラスを回る)
・選挙演説(投票日に全校生徒の前で演説)


苦戦した選挙準備

1年前の副会長選挙では、正直、勝てると思ってなかったので選挙活動は何となくやっていた。ポスターやタスキも適当に作成したし、選挙活動も「宮寺達也です、よろしくお願いします」と壊れた時計のように発声していただけであった。

しかし、今回の生徒会長選挙は違う。勝つためにベストを尽くさなければいけない。

しかも下馬評で不利な状況を覆すべく、全力で、ありとあらゆる手を使って、全校生徒に「生徒会長は宮寺達也が良いな」と思ってもらわなければいけない。

立候補日までの一週間。まずは推薦状名簿20人の獲得だ。同じ2年4組のクラスのみんなに頼もうとしたのだが、まずここで苦戦した。

「ごめん、もうT君に書いちゃった」
「ごめん、副会長(女)に出るNさんに書いちゃった」

そうなのだ。同じクラスから副会長(女)選挙にNさんが出馬したため、女子から全く推薦を貰えなかった。男子も三日市小学校出身が多く、すでにT君の手が回っていた。

思えば、1年前の副会長選挙のときは楽だった。1年2組の女子で仲良くしていたMさんに相談したら、「あたしに貸して」と言われて、「女子全員、書いて〜」と呼びかけてくれてあっという間に20人が埋まってしまった。Mさんと2年でもクラスが同じだったらなあ、と思いを馳せつつ、私は2日掛りでクラスの男子、ソフトテニス部の同級生を回りながら何とか20人を確保した。

さて、次は選挙ポスターとタスキだ。はっきり言って、私に絵の才能は無い。1年前は適当に書いたが、今回はそうはいかない。T君は絵が上手な女子にポスターをお願いしたようだ。悩みに悩んだ末、姉に相談して、ただ「宮寺達也」とデカデカと筆で書いたポスターにした。タスキも同様だ。

こうして立候補日の前日には、何とか準備が完了した。

ベストを尽くした選挙活動

そして、正式に立候補し、選挙活動が始まった。

まずは朝と給食時間の演説である。普通の選挙なら「校則を改正します」とか公約を言うものだろうが、私はそれは違うと思っていた。桜井中学校の生徒会は、落ちた人も所属するので、公約の実現は当選とは関係ない。

そこで私は、「自分の魅力と実績を大きな声でアピールする」という愚直でシンプルな作戦を貫くことにした。

朝の廊下での演説は「おはようございます、宮寺達也です、よろしくお願いします」と声を枯らすまで笑顔で、元気な声で挨拶した。

給食時間に全クラスを回っての演説は、「生徒会を1年間やってきて、誰よりも桜井中学校が好きになりました。生徒会長になったら、桜井中学校のために全力を尽くします」と何のヒネリも無いことを、やはり笑顔で元気良く喋った。

今思えば、もうちょっと面白いことや深みのあることを言えばよかった気がするが、「笑顔で元気が良い」というだけで十分にアピールになったようだ。中学生くらいだと、演説では照れてしまって、ボソボソと喋るため「何言ってるか聞こえない」というのが普通だからだ。

選挙中に、ある先生が「Tで決まりだと思ってたけど、これは宮寺あるかもな」と言っているのを聞いた。少しずつ、確実に手応えを感じていた。

そして、迎えた投票日。確か土曜日だったと思うが、体育館に全校生徒が集まって、そこで応援演説と立候補者による演説がある。まず、男女副会長の演説が終わって、いよいよ生徒会長候補の演説。まずはTの応援演説からである。

が、その応援演説に出てきた男を見て「やられた」と思った。2年の1学期の中間テストで桜井中学校史上初の5教科500点満点を獲った、成績学年No.1のNだったのだ。Nは成績だけでなく、スポーツも得意でバスケットボール部所属という完璧超人である。Nのバリトンボイスで「Tを生徒会長によろしくお願いします」と言った後、盛大な拍手が挙がった。その後、Tの演説も終わり、「こりゃやべーな」と思いつつも、いよいよ自分たちの出番だ。

まずは、私の応援演説である。決してスピーチが得意では無いが、こんな状況でずっと私の選挙活動を支えてくれ、朝・昼の演説にも付き合ってくれた親友に託した。たどたどしい演説であったし、Nに比べたら拍手も少なかったが、私はただただ彼と一緒にこの壇上にいることが嬉しかった。

そして、いよいよ私の演説である。去年の生徒会での活動、桜井中学校が好きでみんなの役に立ちたいこと、勉強をずっと頑張って来て頭脳には自信があること、ソフトテニスを頑張っていること、とにかく必死に訴えた。

さすがに20年以上経ったので、演説の詳細までは覚えていないが、こんなフレーズを入れたのだけは覚えている。

「僕は顔もカッコ悪いです、でも」

演説が終わった後、大きな拍手が起きた。贔屓目無しに、今日一番大きい拍手だった。こうして、私の生徒会選挙活動は終わった。後は、週明けの結果を待つだけだ。

落選、絶望、空虚

週明け月曜日、選挙管理委員会によって開票作業が行われた。結果は給食後の昼休みに全校放送でアナウンスされる。その日は、朝から緊張しっぱなしだった。勝算の低い選挙だったが、1週間の選挙活動には確かな手応えがあった。届いたかもという期待があった。もしかしたら、と思っていた。

そして、全校放送が始まった。「平成6年の桜井中学校生徒会長選挙の開票結果をお知らせします。1位はTさん、2位は宮寺達也さん。次は男子副会長・・・」

負けた。

届いたかもしれないと思った。絶対に負けたく無いやつに負けた。だからこれ以上なく悔しかった。しかし、涙は出なかった。本当に悔しいとき、絶望したとき、人はただただ空虚になるのだなと、どこか冷静に考えていた。

一つ上の4階からはT君の「やったーーー」という大声が聞こえてきた。不愉快ではあったが、あいつもそれだけ必死だったのだろうと思った。教室にいるのも辛くなってぶらぶら廊下を歩いていた。開票を終えた選挙管理委員会のN(同じ荻生小)に会い、「投票用紙を積み上げたんだけど、本当にどっちが勝ったかわからなかった」と言ってくれた。

「ああ、俺の努力はギリギリまで届いたんだな」と救われた気持ちだった。

その日はそれからほとんど喋らなかったと思う。同じソフトテニス部の友人と一言も話さずに一緒に帰り、家に帰ってからもリビングでずっと黙ったまま寝転んでいた。弟に会わせる顔が無かった。

スポーツ選手や有名人は良く言う。「諦めなければ、夢は必ず叶う」「努力は必ず報われる」

それは、勝算の低い勝負に挑んで、勝った人間の台詞だ。その他大勢の負けた人たちの声は世の中には出てこない。私の努力は報われなかった。取り返しのつかない負けをして、これ以上無い悔しさを味わった。

私は齢13歳にして、「叶わない夢がある」「報われない努力がある」と言うことを学んだのだ。

絶望からの光

ちなみに先生の心配した通り、副会長(男)は1年生が当選した。私はこれからの1年間の生徒会活動を思い、ただただ気が重かった。

それから直ぐ生徒会が発足して、私は書記と会計の2役に任命された。T君の「2役なんてすげーじゃん」と言う言葉が虚しく響いたが、あいつなりに気を遣ったんだろうなと受け止めた。

それから1年間、予想した通り、生徒会役員は全く一丸とはなれなかった。「丸坊主の校則を廃止する」という先代のようなビッグな実績は望むべくもなく、ただ行事をこなしていっただけだった。

全校集会では、会長・副会長(1年生)が椅子に座る中、私はOHPの資料をめくったり、中腰で質問者のところまでマイクを持って行ったりと、黒子に徹していた。弟にはダサい姿を見せたと思う。

このように生徒会活動は想像通り辛いものであったが、私にはいくつかの変化が起きていた。

選挙で落選した後、生徒会の引き継ぎがあった。そこで副会長のO先輩から「お前、副会長選挙に出ても落ちてたから。副会長選挙に出ておけば良かったとか思うなよ」と、毒舌のエールを貰った。

「生徒会長選挙、惜しかったね」「副会長なら受かってたよ」という励ましはたくさん貰ったが、「生徒会長選挙に出たことは間違ってなかったぞ」と言われたのは初めてだった。人に惚れるというのはこういう瞬間だろうか。私はソフトテニス部でもお世話になっていたO先輩のことが大好きになり、高校(県下一の進学校、富山中部高校)のソフトテニス部まで追いかけることになる。そして、県下一の進学校で勉強そっちのけでソフトテニスに没頭することになるのだが、それはまた別の話である。

そして、生徒会長選挙に落ちた直後の12月。私に唐突な変化が訪れた。2学期の期末テストで初めての学年1番になったのである。

その頃の私はトップ3の常連ではあったが、1番を取ったことは無かった。先にも出た、500点満点のNが君臨していたためである。「Nがいる限り、中学の間に1番は無理かな」と思っていた矢先の学年1番であった。担任の先生に職員室に呼び出されて、「ようやくだね、おめでとう」と言われたが、どこか上の空であった。会長選挙で喜怒哀楽のエネルギーを使い果たしたからかなと、やはりどこか冷静に考えていた。

そこから、私は勉強の実力をぐんぐん伸ばしていくことになる。2年の2学期までにこれ以上なく勉強していたつもりだったので、もう伸びる要素は無いと思っていた。だが、生徒会長選挙の敗北を境に、超サイヤ人か竜の紋章にでも覚醒したかのように、天才Nの壁を超えて学年1番を不動のものとしていった。

特に2年の3学期末は圧巻であった。3学期末は、卒業生の送別会・卒業式の準備で連日9時まで生徒会の仕事をする中、480点で2位に大差の1位だったのだ。

特に、面白い先生で人気だった理科のA先生が、制限時間45分で50問の難問を詰め込むというマジキチなテストにしていた。その結果、平均点は20点台、80点を超えたのが3人だけという悲惨な結果だった。

しかし、その理科のテストで私は98点だった。2位・3位がが80点ちょいで大差の1位だったので、A先生も流石に驚いたようだ。「お前には理科の才能がある」と言われた。このとき、将来は理系に進み、研究者かエンジニアになるという私の未来が決まった気がする。

それから勉強は本当に絶好調で、県下統一模試で4位に入るというところまで辿り着いた。そのまま県下一の進学校、富山中部高校に進学し、今の自分に至っている。

当時は生徒会長選挙に落ちた悔しさで頭がいっぱいで気づかなかったが、私は勝算の低い勝負に挑むという決意をしたことで、勉強の才能が少しだけ花開いた。「努力は報われるとは限らない」は本当であったが、「努力は無意味では無い」ということを知ったのだ。

中学生よ、挫折を恐れるな

長くなったが、私は中学校時代、生徒会長選挙に挑戦して嫌いなやつに敗北し、絶望を味わった。その絶望は、今に至るまで心の傷として残っている。

だが、「リスクが大きくても、勝算が低くても、勝負から逃げず、全力で、最後まで諦めずに戦う」という経験は、心の傷を補って余りある価値を私に与えてくれた。

「勝負に全力で挑む、最後まで諦めない」という心が、私の勉強の実力を上げてくれた。

「リスクが大きくても、勝算が低くても、勝負から逃げない」という心が、会社で上司から理不尽なことを命令された時に堂々と拒否する精神力を、リスクを恐れずに転職する勇気を与えてくれた。

今も全国の中学校では、生徒会長選挙が行われているだろう。そのほとんどは、教師陣の暗躍で候補者が調整され、最初から結果が決まったものになっているだろう。

だが、私は摩擦を恐れず、挫折を恐れず、ガチンコで生徒会長選挙を戦うように教師陣は手を回して欲しいと思う。中学生にとって、生徒会長選挙で落選するというのは大きな挫折になるだろう。深い心の傷にもなるかもしれない。

だが、子どもはそんなにヤワじゃ無い。

一時期、敗北に絶望し、努力の虚しさに挫折したとしても、その中で必ず未来に繋がる学びを手にいれる。

私は全力で努力して、それでも報われなかった経験から「努力はいつか報われる」とは決して言わない。だが、「全力で努力することは、結果が報われなくても、あなたの心を成長させてくれる」ということだけは伝えたいのだ。

子ども達よ、挫折を恐れるな!

-教育

author : 宮寺達也

オススメ商品
                                                                                                 

comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

大学はそもそも「高等教育」なのか?

出典:Wikipedia 大阪大学 5/3の憲法記念日。安倍首相がビデオメッセージで、憲法9条に第3項を追加して「憲法に自衛隊を明記する」と述べたことは大きな話題を呼んだ(参照:産経新聞)。9条の改正 …

奨学金をチャラにしても人生そんなに変わらない

出典:YouTube JASSO 朝日新聞に 「奨学金返済、人生の重荷 子ども少なく結婚も遅れがち」 という記事が掲載されていた。大分大学の川田菜穂子准教授らの調査によると、奨学金の返済によって結婚が …

これからの大学入試の話をしよう

出典:写真AC 前回の記事で大学無償化への反対意見を書く中で、「卒業時に入学試験を解けなくなっているような大学は、教育機関とは呼べない」と書いたところ、かなりの反響をいただいた。 「入試問題と、大学で …

頑張れ受験生!センター試験で自己ベストを出す方法①

出典:写真AC 1月14日(土)、15日(日)に平成29年度大学入試センター試験が実施される。それから私立大学試験が本格的にスタートし、国公立大学2次試験へと、いよいよ受験シーズン本番がやってくる。 …

就職か、大学院か。それが問題だ

出典:写真AC 2月中旬になり、大学受験はいよいよクライマックスを迎えている。受験生は私のアドバイスも参考にしていただき、無事に志望大学に合格して欲しい。 さて、この時期は大学3回生が卒業後の進路を考 …










 




2017年10月
« 9月    
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031