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特許出願数の減少はゆとり教育とは関係無い

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出典:イラストAC

山田肇氏の記事を拝見したが、私も「理数系科目の授業時間減少によって研究開発力が低下」したとの神戸大学の研究結果には大いに疑問である。

実際に事務機器メーカーで特許出願を多数行い、退職後もパテントマスターを名乗っている私としては、是非とも特許出願数と研究開発力の関係について解説したい。


特許出願数の減少は量から質への転換

まず、神戸大学の研究結果ではおよそ20年前(1995年頃と推定)を境に特許出願数が減少している。その一因を1982年から実施されたゆとり教育と推定している。

私は、はっきりと、違うと考える。

日本の特許出願数の推移は、それを受け付けている特許庁によって動向調査がなされている。

特許庁ステータスレポート2016によると、「特許出願件数は、2006年までは40万件を超える高い水準で推移していた。しかし、2006年以降漸減傾向に転じ、2015年は前年比2.2%減の318,721件であった。」とある。

図1 出願年別で見る特許出願・審査請求・特許登録等の推移(出典:特許庁

まず間違いなのは、特許出願数は10年前までは増加傾向にあったのだ。

神戸大学の研究結果は技術者一人当たりの特許数なので、単純な比較は難しい。しかし、20年前の1995年に顕著な変化があったとは考え難い。むしろ、1995年から2001年まで特許出願数は順調に増加している。

また、2006年以降の特許出願数の減少について特許庁ははっきりと原因を推定している。

それが、「企業の的財産戦略において量から質への転換」である。

特許出願数は2001年をピークに減少しているが、特許登録数は1990年からほぼ一貫して増加している。特に2000年以降は順調に増加し、17万件を超えた。そのため、特許登録率が確実に高くなっている。1990年に30%前後だった登録率は、2010年にはほぼ50%になっている。

特許庁のレポートにあるように、「出願人が特許出願及び審査請求にあたり厳選を行うことが根付き、企業等における知的財産戦略において量から質への転換が図られつつある」ことが、特許出願数の減少の要因である。

パテントマスターは見た。ゴミのような特許を出願する現場

また、実際にメーカーで多数の特許を出願してきた私は、企業の特許戦略が「量から質へ」と変化する現場をまざまざと目撃してきた。

私がメーカーに入社した2005年頃、特許出願は技術者の義務という空気であった。特許の出願はノルマ(半年で2件)として技術者に課されており、達成しないと課長が月末に強烈なプレッシャーを掛け、人事評価に響かないようにみんな必死で特許を出そうとしていた。

高い目標を掲げることは大事だが、ノルマで追い込んだところで良い発明が産まれるはずもない。特許の発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」である。

はっきりと言ってしまえば、普段から大した努力もしていないサラリーマン技術者が、月末だけ急に頭を働かせても高度なものなど産まれるはずが無い。ちょっと形を変えただけのゴミのような発明や、酷い時はパクリの発明を申請し、課長はメクラで承認していった。

特許は出願するだけなら誰にでもできる。特許出願で技術力を図るのはナンセンス極まりない。特許出願だけで価値を見出してしまうと、伝説のHIDETO特許「発明:すべての物や空間や時間」が最強になってしまう。

もちろん、ゴミのような特許を出すのは企業にとっても負担である。特許出願は弁理士事務所への手数料、特許庁への出願費用で、1件あたり30〜40万円は必要だ。

しかし、2005年ごろはどこの企業も好景気に沸いており、数千件の特許出願(約20億円)をものともしていなかっった。課長も別に自分の懐が痛むわけでは無いので、どんどんゴミ特許を承認して行った。

もちろん、こんなバカな事が続くはずが無い。2008年以降、リーマンショックで経営危機に陥った企業は予算削減に必死になった。そんな中でゴミ特許の出願に目を付けるのは当然であった。どこの企業もゴミ特許を却下し、厳選された発明だけを特許出願するようになった。

ここ10年の特許出願数の減少は、量から質へ方針を変えたというより、予算削減の煽りでゴミ特許を削った結果である。

なお、山田氏は「大量に特許出願しても、経営危機に陥った企業に学ぶ」という記事で、シャープが多くの国際特許出願をしながら経営危機に陥ったことを指摘されている。

一つだけかつてのライバル企業を補足させていただくならば、シャープの技術力は本当に高い。シャープは比較的ではあるが、国内にゴミ特許を大量に出願するようなことはせず、良い特許を厳選して世界中に出願するようにしていた。そのため世界出願数では上位だが、国内ではトップ10にも入らない。

私自身、シャープと戦ってきたので、何度もシャープの特許を熟読してきた。シャープの経営危機は、ひとえにその技術力を活かせなかった経営陣にあると思う。

特許出願数はプロ野球の打席数のようなもの。きちんとした技術力の測定を

このように、神戸大学には研究結果には疑問が多い。

特許は社外に公開されている技術資料であるので、それで何かしらの技術力を測ることはできる。しかし、特許出願数だけを測っても意味が少ない。

特許出願数は言うならば、プロ野球選手の打席数のようなものである。打撃が上手い選手でないと打席が回ってこないので、ある程度の指標になる。実際、日本プロ野球の通算打席数の1位は野村克也氏、2位は王貞治氏である。

しかし、「シーズン打席数キング」というタイトルが無いように、打席数よりもっと重要な指標がある。特許だけを見ても、登録(=安打)、他社の特許に引用(=2塁打)、企業の収益に貢献(=打点)、ライセンス契約を獲得(=本塁打)といった感じで、技術力を測る事ができるもっと重要なデータを見る事ができる。

私は、「教育と技術力の因果関係を明らかに」という神戸大学の研究目的は非常に有意義なものと思う。

一人当たりGDPが韓国にも抜かれそうな昨今、より高い生産性を実現するためにも技術者の力を高めていくことが必要だ。また、昨今の豊洲市場に関する議論や、福島第一原発事故の風評被害、さてはSTAP細胞を巡る騒動など、科学的・論理的な思考が不足していると痛感することも多い。

技術力を高めるためにも、科学的・論理的な思考を得るためにも、小・中学校の教育の改善は不可欠だ。その議論はどんどん深まって欲しい。

そのために、山田氏からだけでなく私からもお願いしたい。神戸大学には是非とも研究結果の全体を公表して欲しい。


※この記事は、2017年03月23日にアゴラに投稿・掲載された記事を再掲したものになります。

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author : 宮寺達也

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