出典:写真AC
元日産自動車会長カルロス・ゴーン氏が保釈中に逃亡した事は金融商品取引法違反、会社法違反(特別背任)で有罪か無罪化はもはやあまりにも小さな問題になってしまった。
昨日のブログにも書いたが、これは日本への主権侵害であり、北朝鮮拉致問題と同等の事件である。
この事を書いたツイートは7000近いいいねを集めており、同様に怒りと危機感を感じている人が多い事が伝わってくる。
ゴーンのレバノン逃亡の問題は、ゴーンが有罪無罪か、日本の司法の課題なんて全く関係無い。
シンプルな不法出国であり、それだけで犯罪。
おまけにレバノン政府の手引きで出国したならこれはもう日本の主権の侵害だよ。問題としては、北朝鮮拉致問題と同等のカテゴリーに入れるべきなんだよ。
— 宮寺達也 (@miyaderatatsuya) January 1, 2020
そしてゴーンの国外逃亡がここまで大規模な作戦であった事が判明したら、1つの気づきを得た。ここまでの脱出オプションを持っているなら、国外逃亡はいつでも可能なはずであった。
そして無罪だったら国外逃亡よりももっと自由で贅沢な生活を実現できるのだ。ならば判決まで日本に留まり、もしも有罪判決だった場合にそれから国外逃亡するのがベストなはずである。しかしなぜこんなに早く国外逃亡したのか?
ゴーンが公判すら始まる前に国外逃亡したのは罪を認めたという事
ゴーンのレバノンへの逃亡を聞いて「これでゴーンは自由で贅沢三昧な暮らしをできる」「ゴーンの勝利」と思っている人は多いが、最も大事な事を見落としていると思う。
ゴーンにとって最高の勝利とは、4月から始まる東京地裁の公判で無罪判決を勝ち取る事である。そうすれば保釈金15億円も返ってくるし、日本はもちろんフランス、レバノンにも移動は自由だ。
今の容疑者として逃亡している状況ではレバノン国内では暮らせるかもしれないが、ICPOに国際手配されるので家があるフランスに行く事ももちろん、ほとんどの国に出国不可能になる。再び日産やルノーの要職に返り咲くのは不可能だ。
だからやっぱり目指すべきは無罪判決だ。国外逃亡のオプションを持っているなら、最高裁でも有罪判決が出てしまって無罪判決の可能性が無くなった時点で国外逃亡すればよい。
この期待値を考えれば、日本の刑事司法の有罪率は99.9%と言われるが0.1%でも確率が存在するなら無罪判決まで待ってみる方が良いのは明確だ。
これをわかりやすく理解するため、無罪判決を待つ場合と今逃げた場合の期待値を計算で比較してみよう。
なお期待値を出すために人生の自由度を数値化する。まず無罪判決の場合の人生を自由度100点とし、有罪判決を無視してレバノンに逃亡した場合の人生の自由度は半分の50点とざっくり推定した。
<判決まで待つ期待値>
無罪判決の確率:0.001×無罪の場合のゴーンの人生の自由度:100 + 有罪判決の確率:0.999×有罪の場合のゴーンの人生の自由度:50 = 50.05
<判決前に逃げる期待値>
0×無罪の場合のゴーンの人生の自由度:100 + 1×有罪の場合のゴーンの人生の自由度:50 = 49.95
このように有罪率を99.9%と仮定しても判決まで待つ方が期待値は高い。もちろん無罪になる自信があり、無罪確率が上がれば上がるほどこの期待値は高くなる一方だ。
この2つの期待値が並ぶのは有罪確率100%の時だけだ。ゴーンは日本の刑事司法が有罪確率99.9%であり、有罪があらかじめ決まっている魔女裁判だと国際社会にアピールしていくつもりだろうが、それでも判決前に逃げる理由にならない。
もちろん判決までに勾留され続けており不当な身体拘束を受けているなら早期に逃げるメリットも高まるだろうが、保釈を認められていたんだからそれも理由にならない。
なお1審判決後に有罪の実刑判決が出たら保釈は取り消され、再び身柄拘束される。だから1審判決が出る前の今逃げた方が良いと言う人がいるが、これも間違いだ。
控訴すれば再び保釈できるのでそれから逃亡する方が合理的だ。逃亡後に日本の司法のデタラメを主張するときも説得力が増すだろう。
「控訴審では保釈が認められない」と言うが、根拠は無い。実際、史上最高額の保釈金20億円を支払ったハンナン事件の浅田満は最高裁で実刑判決が確定するまで収監を免れている。無罪判決後の自由な人生の魅力を考えれば、どう考えても1審の判決までは待つ方が合理的だ。
つまり今、判決前に逃げるメリットがあるのは100%中の100%で有罪になると確信している場合だ。これは検察にも裁判所にも、もちろん外野の有識者にも誰にもそんな確信を持てる人間はいない。いるとしたら、罪を犯した張本人だけだ。
そう、ゴーンはこのタイミングで逃亡した事で金融商品取引法違反、会社法違反(特別背任)は間違いない事実だったと認めたのである。
有罪率99.9%はゴーンの勘違い。人質司法は保釈で解消済み
もちろんゴーンは今後、国際社会に逃亡の正当性をアピールしていく。1月8日にベイルートで記者会見するとの事だが、「私は無実だが日本のデタラメな刑事司法に100%有罪にされてしまうから」と言い訳するだろう。
だが、このゴーンの言い分は決定的に間違っている。
日本の刑事司法の有罪率99.9%というのは、起訴されてから有罪判決が出る確率である。逮捕されてから起訴される確率「起訴率」は32.9%である(平成30年版 犯罪白書)。
日本の刑事司法は検察の起訴判断の段階でかなりの精査が行われているので、後は量刑だけを争う裁判がほとんどだからである。もちろんゴーンは既に起訴されているのでここからの有罪率は高いかもしれないが、被疑者が全面的に否認して無罪を争っている裁判はそもそも母数が少ないので無罪確率はもっと高い。
そして仮に99.9%の確率で有罪になるとしてもそれでも今脱出するより期待値は高いし、執行猶予が付く可能性も有る。
そしてゴーンが批判している日本の刑事司法の問題としては保釈を認めず長期間勾留して不当な負担を与える人質司法があるが、これは異例の保釈が認められたゴーンが主張するのはお笑いである。
結局、ゴーンの主張する日本の刑事司法の問題は無いとは言わないが、ゴーンがこのタイミングで国外逃亡する理由にはなり得ないのである。
ゴーンは自分が100%有罪であると自覚しており、いつか必ず国外逃亡しなければいけないと考えていたのだ。だから、確度の高いチャンスがあればタイミングに拘わらず実行しようと思っていたのだろう。だから「2019年末のタイミング」というよりも「楽器の箱に隠れて」という脱出方法に魅力を感じ、国大逃亡を決行したのだろう。
ゴーンが今後主張する「日本の司法の問題」というのは自分の行動を正当化するための言い訳に過ぎないのだ。まともに取り合うやつは愚かである。
ゴーンの言い訳である日本司法批判に騙され、刑事司法改善を遅らせる人々
しかしゴーンに最も虚仮にされ、怒りと失望を表明しなければいけないはずの有識者はなぜかゴーンの言い訳に乗っかっている。それどころかなぜかゴーン逃亡を喜んでいるかのような雰囲気が伝わってくる。
弁護人には誠に気の毒だし、裁判所の理解を裏切ったことは残念だ。しかし、重要なのは今後のことだ。ゴーン氏事件の検察捜査はあまりにデタラメだった。レバノン政府に対してゴーン氏の身柄引渡しを求めても、果たして国際社会に通用するだろうか。狭い日本の司法だけの問題ではなくなったといえる。 https://t.co/bDxxp7jchV
— 郷原信郎 (@nobuogohara) December 31, 2019
郷原弁護士と言えばかねてから人質司法に反対し、ゴーン事件でも有罪に疑問符を表明していた放送関係者である。本来、絶対に怒らねばならない存在であるが、この呑気なツイートである。さらに
ゴーン氏出国は「単なる刑事事件」の被告人逃亡ではない~日本の刑事司法は、国際的な批判に耐えられるのか
こういう「絶望的な状況」に置かれていたゴーン氏が、何者かの援助によって「国外脱出が可能」ということを知り、15億円の保釈保証金を失ってでもその可能性に賭けてみようとしたのは、理解できないことではない。
とアクロバティック擁護をしている。
保釈が認められ、弁護士を幾らでも雇うことができ、3回も無罪判決を出して貰えるチャンスがある状況のどこが絶望的な状況なのか。
絶望的な状況なのは日本の刑事司法の「今後」である。それこそ郷原氏が書いた様に「重要なのは今後のこと」なのだ。
その今後は、ゴーンのように逃亡されては終わりだと裁判所はビビりまくって保釈を認める確率は限りなく低くなるだろう。長期の勾留で苦しむ人々が増えるのだ。
私はゴーンの国外逃亡で保釈を認めた裁判所・弁護士を責める気は無いが、ゴーンの尻馬に乗って日本の司法にさらなるダメージを与える連中は徹底気に批判する所存である。
参照:人質司法 – Wikipedia、平成30年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節 被疑事件の処理、ゴーン氏出国は「単なる刑事事件」の被告人逃亡ではない~日本の刑事司法は、国際的な批判に耐えられるのか、ゴーン被告、8日にベイルートで記者会見予定…弁護士明かす、【声明全文】ゴーン被告「私はレバノンにいる」渡航禁止も出国、刑事事件の不起訴率は高い?早めの弁護士相談で前科を防ぐ、刑事裁判での有罪率は99.9%ってほんと?刑事裁判に関して知っておきたい7つのこと