刑事事件

カルロス・ゴーンの保釈逃亡で責めるべきは保釈金の少なさだけ

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出典:カルロス・ゴーン – Wikipedia

今年も色々有ったけど、今日で終わり。後はもうウッチャンの紅白を観るか、ダウンタウンのガキの使いを観るか、それくらいだけの穏やかな1日になるはずだった大晦日の朝に日本に衝撃が走った。

金融商品取引法違反、会社法違反(特別背任)で起訴されて保釈中だった元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告がレバノンに国外逃亡したのだ。

ゴーンは海外渡航しない事を条件に保釈されていたのだ。しかも国籍を持ち母国であるはずのフランスではなく、同じく国籍を持つレバノン入りしている。これは明らかな実刑逃れの逃亡である。

日本の司法の根幹を揺るがす大失態であるのは間違いない。だから保釈を認めた裁判所、国外逃亡しない様に監視すると約束し保釈を求めた弁護団、出国を許した出入国在留管理庁に批判が殺到している。

もちろん結果として保釈を認めなかった方が正解だったのは間違いない。しかし「人質司法」と国際的に批判が高まっていた中で保釈を認めた判断そのものは評価したい。間違っていたのはただひたすらに保釈の条件、特に少な過ぎた保釈金なのである。

ゴーンの逃亡はスパイ映画並みのハイレベル。責任を問うのは酷に思う

ゴーンは逮捕されてから108日間勾留されていた訳だが、これが人質司法であるとゴーンとその弁護団はもちろん、日本の法曹関係者からも批判されていた。

日本で刑事事件で逮捕されると保釈が認められず勾留されたまま取り調べが続き、精神・肉体的に過度な苦痛を負わされる。この状況をもって警察・検察は容疑者に不利になる自白を強要する。そして裁判所もそこで得られた自白証言を採用し、有罪判決を出す。この冤罪を誘発する一連の流れが人質司法である。

検察は「ゴーンに海外逃亡の恐れがある」と保釈を認めなかった。そしてこれまでの保釈基準からも認められないと思われていた。しかし2019年3月5日、ゴーンに異例の保釈が認められた。この保釈の条件として海外逃亡し無い事、そのために弁護団がパスポートを預かっていた。

私はこの保釈の判断自体を今でも評価している。刑事事件の刑罰は、判決後の実刑をもって科されるべきである。判決が確定するまではあくまで容疑者であり推定無罪である。その間に実刑に匹敵する苦痛を負わせるのは憲法が禁止する苦役そのものだ。

だからこの勇気ある判断を裏切って逃亡したゴーンを最大限に批判する。そして日本の司法にとって最大限の敗北であり、今後は保釈が認められず人質司法が加速する現実を憂う。

しかし逃亡を許した戦犯である保釈を認めた裁判所、国外逃亡しない様に監視すると約束し保釈を求めた弁護団、出国を許した出入国在留管理庁を責める気は無い。

それはゴーンの逃亡方法である。

現在明らかになっている逃亡方法は関空から楽器の箱に隠れてプライベートジェットに乗利脱出したというものだ。誤解されがちだが、プライベートジェットでも出国審査や荷物検査はある。これを潜り抜けたという事はレバノン政府が手引きして偽名の外交パスポートを用意した可能性が高い。

これでは逃亡阻止は不可能に近い。なんせ本物のパスポートなのだから。

おまけにレバノンの外人部隊を入国させてサポートを受けたという。こんなもの、スパイ映画でしか見た事無いような大作戦である。ゴーンの人脈とお金が有れば、世界中どの国であってもその隙を見つけ出し脱出されたことだろう。

だから関係者を責める気にはならない。しかしこのままで良いはずがない。今後、このような逃亡が無いよう保釈条件を変えなければならない。

それが15億円という保釈金である。

保釈が賭けなのは当然。間違えたのは15億円という少な過ぎたチップの額

保釈は身体的拘束を解除するのだから、誰であっても当然に逃亡の恐れがある。そのために保釈保証金(以下、保釈金)を納めさせ、逃亡したら没収するのである。逃亡しなければ反って来るので抑止力になる。

だが余りに安い金額だと保釈金没収よりも逃亡を選ばれてしまう。そこで保釈金の額は

「金額は、犯罪の性質・情状、証拠の証明力、被告人の性格・資産を考慮して、被告人の出頭を保証するのに過不足ない額を算出する」

と刑事訴訟法93条で定められている。簡単に言うと「この金額を没収されたら人生詰むからもったいなくて逃げないだろう」という金額を金質にするのだ。

保釈は確かに逃亡の恐れがある賭けだが、チップの額を適切に設定する事で賭けを成立させるのだ。

ゴーンの保釈金は15億円だった。逃亡後の今は「ゴーンにとってははした金」と言われているが、日本の保釈金歴代2位である(1位はハンナン事件の浅田満の20億円)。そしてもちろん没収額は歴代1位である。

だけど結果として安過ぎた。保釈の逃亡を阻止するには本人が逃亡しないと考える状況にするのが最も重要だ。ゴーンの場合も「このお金を失ったら流石に生きていけない」と思わせる金額を没収すれば抑止力になったのだ。

カルロスゴーンの総資産は2300億円と言われている。20億円の史上最高額の保証金を払った浅田満でも総資産は1000億円程度だ。総資産費だけで見てもゴーンの保証金は50億円は必要だった。

しかし裁判所は過去の前例に拘ったのだろう。歴代2位の15億円に留めてしまった(なお当時の私は総資産額を知らなかったので妥当だと思っていた)。

異例な保釈を認めたのだから、保証金も異例であるべきだった。ゴーンの場合は最低でも500億円は納めさせるべきだった。

別に異常な話ではない。年収500万円の一般人が保釈されるときは500万円~1000万円という全貯金額に相当する保証金を納めさせられるのだ。それを思えば500億円でもまだ安いくらいだ。

保釈を認めない日本の人質司法は改められるべきだ。有罪判決を受ける前の長期勾留は不当な身体拘束であり、刑罰そのものだから。しかし当然だが、逃亡されては保釈の意味が無い。保釈をきちんと認ていくためには逃亡しない制度設計が不可欠だ。だからこそ金持ちの保釈金をもっと上げていかなければならない。

ゴーンの逃亡は日本の主権侵害。北朝鮮拉致問題と同等のカテゴリ

しかし理想はどうあれ、今後の刑事事件では保釈は認められにくくなっていくだろう。特に金持ちの事件では「ゴーンのように逃亡されたらどうするんだ」という意見が検察だけでなく、国民から殺到するだろう。

裁判所も今回の逃亡はトラウマになっているだろうから、保釈を認める勇気はなかなか難しい。だからこそ、逃亡したゴーンには怒りしか沸かない。

ゴーンは逃亡後のレバノンで

私はいまレバノンにいます。
もはや私は有罪が前提とされ、差別がまん延し、基本的な人権が無視されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなります。
日本の司法制度は、国際法や条約のもとで守らなくてはいけない法的な義務を目に余るほど無視しています。
私は正義から逃げたわけではありません。
不公正と政治的迫害から逃れたのです。
いま私はようやくメディアと自由にコミュニケーションできるようになりました。
来週から始めるのを楽しみにしています。

と声明を出したが、笑わせる。不公正という批判に答えるために保釈を認めたのだ。それを裏切ったのはゴーン自身だ。

しかもフランスに行くならまだしも、賄賂で判決を変えられるようなレバノンに逃亡するのだから「不正な司法制度」なんて批判を避けるための言い訳、目くらましに過ぎない。「賄賂を払ったら自分に有利な判決を出す、自分に友好的な司法制度」を求めているに過ぎない。

もはやゴーンが金融商品取引法違反、会社法違反(特別背任)で有罪かどうかは後回しだ。

ゴーンはシンプルに不正な国外出国を犯した犯罪者である。

おまけにレバノン政府と組んで日本の司法を攻撃したのだから、これは日本への主権侵害である。問題のレベル・カテゴリとしては北朝鮮拉致問題と同等である。

容疑者引き渡し条約が結ばれていないレバノンからゴーンを捕まえるのは極めて難しい。しかし日本政治は最大限の外交努力をして欲しい。ここで最初から無理だからと諦めてしまってはそれこそ世界中に舐められてしまう。

極端な話、大使館の強制退去とか、経済制裁とか、国交断絶とか、そのくらいのオプションをもってゴーンの奪回に全力を挙げなければいけないと確信している。

参照:カルロス・ゴーン – Wikipedia保釈 – Wikipedia人質司法 – Wikipediaゴーン被告 出国か “レバノン到着”報道 保釈条件は渡航禁止【声明全文】ゴーン被告「私はレバノンにいる」渡航禁止も出国ゴーン被告の保釈取り消す決定 東京地裁 保釈金15億円没収へゴーン被告 渡航禁止も出国 専門家どう見る? 海外の反応は?ゴーン被告の弁護士が取材に応じる「寝耳に水でびっくり」ゴーン被告逃亡、妻キャロル氏が計画か 義兄弟が支援?「世界に恥さらした」…出国のゴーン被告、検察の懸念的中 裁判所も動揺ゴーン元会長「楽器箱に隠れ出国」 現地メディア報道

                   
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-刑事事件

author : 宮寺達也



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