出典:Impossible Creatures「Don’t call it a comeback!」
前回の記事に引き続き任天堂とコロプラの特許訴訟の第8回戦(第7回弁論準備手続)であるが、今度はいよいよメインであるコロプラの主張を解説していきたい。
任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第8回戦。訂正審判大勝利で任天堂がドヤってた
第8回戦は本来コロプラだけのターンであるが、第7回戦と第8回戦の間に任天堂勝利の結論が出た訂正審判の結果を任天堂が猛アピールして来た。そのおかげでこれまでコロプラのターンの度に毎度のように増やして来た無効資料が22個から13個にまで減ってしまった。
果たしてコロプラは訂正審判で特許庁にダメ出しを食らった既存の無効資料についてもまだ反論を続けるのか、それともまだまだ後出し無効資料を繰り出すのか。
結論から言うと両方であった。コロプラは訂正審判で負けた無効資料を用いて任天堂の特許は無効だとの主張を繰り返すだけでなく、またまたまた無効資料を追加して来た。
ただ流石にもう限界を感じる。今回追加して来た無効資料はカイジやはじめの一歩を思い出すような「中身の無い」惰性の塊のようなものだった。
特許2「チャージ攻撃」に「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮称)」
被告第15準備書面(本件特許権2関連) 令和元年7月8日
本件特許権2 特許4262217号 「タッチパネルを長押しした後、指を離すと敵キャラを攻撃(チャージ攻撃)」
・既存の無効資料
コロプラは訂正審判で争っている「WARFARE INCORPORATED」「ぐるみん」「スパイダソリティア」「Windows XP」について引き続きこれらの無効資料により特許2は無効と主張・追加された無効資料
コロプラは「第42回アミューズメントマシンショー ブースレポート ~ナムコ編~」という、1つのゲーム記事を新たに無効資料として追加して来た。
・・・ゲーム記事? GAME Watchのゲームショーの記事? これで任天堂の特許が潰せると?
「第42回アミューズメントマシンショー」ブースレポート ~ナムコ編~ 隠し玉は「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮)」、「COBRA THE ARCADE(仮)」
「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮称)」。このタイトル、あくまで参考出展とのことで、開発度は1%とポスターに展示してあった。今回の出展目的は、「タッチパネルでアクションRPGを快適に遊べるか」というもの。
オペレーションとしては、PCゲームのマウス使ったものを体験した方にはわかりやすいかと思われるが、行きたい方向のある地点をタッチするとそこまでキャラクタが移動する。また、自キャラをタッチし、そのまま行きたい方向へドラッグすると移動できる「ホーミング移動」、いきなり移動したい方向へ画面をなでるように指を滑らせるとその方向に移動する「スラッシュ移動」も可能となっている。
「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮)」はこの後正式に発売された製品では無い(もっともこの後に発売されたとしても任天堂の特許より後になるので無意味だが)。この2004年のゲームショーで参考展示されただけのものだ。そんな参考展示が「公開情報」として判断されるかも疑問だが、仮に公開情報としても余りにも内容が判断できない。情報が乏し過ぎる。
コロプラはこの「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮称)」を無効資料として提出するくらいだからてっきりサンプルを入手して実際にプレイしたのかとも思ったが、準備書面の内容はこのGAME Watchの記事を丸パクリしただけであった。
確かにタッチパネルでドラッグすればプレイやキャラクタが移動するような記載がある。だが特許2に記載されている
「プレイヤが操作するプレイヤキャラクタが、敵キャラクタとの位置関係に基づいて攻撃する」
という構成が有るのかどうか全く判断できない。そりゃ当たり前だ、たかだか数行の記者によるレポートなのだから。せめてプレイ動画でも持って来ないと話にならない。
こんなちょっとググった程度の内容で特許無効を主張するとはどうかしている。
もしこれを「無効資料です」として嬉々として提出したら、ほぼ全ての会社の知財部や弁理士は「なめてんのか」と激怒するだろう。
断言しても良いが、この無効資料は却下される。こんな無駄な無効資料を提出する事に時間稼ぎ以外の意図を見出せない。
特許3「スリープ機能」に「マインスイーパ」
被告第16準備書面(本件特許権3関連) 令和元年7月8日
本件特許権3 特許4010533号 「スリープから復帰する時に確認画面を表示し、スリープ直前の画面から再開(スリープ機能)」
・既存の無効資料
コロプラは訂正審判で既に負けた「Microsoft Flight Simulator」「スーパーマリオアドバンス」についても引き続きこれらの無効資料により特許3は無効と主張。また訂正審判後に追加した「特開平5-12139」も同様。・追加された無効資料
コロプラは「マインスイーパ」を新たに無効資料として追加して来た。
マインスイーパと言えば1980年代に開発された伝統と歴史あるゲームだ。Windowsには標準で付属されているゲームなのでソリティアに並んで誰もがやったことのあるゲームだろう。そう言えば前の会社の課長は仕事中にこっそりではなく、堂々とソリティアをする人だったな。私が仕事の相談に行っても、ソリティアを隠すどころか私の方を見ながらソリティアを続ける姿には逆に感心してしまった。
さて特許3はスリープ機能だ。同じWIndowsゲームである「Microsoft Flight Simulator」でもダメだったのに、今さらマインスイーパを持ち出してもどうなるものか。
案の定、コロプラ自ら相違点が沢山あると書いている。
<相違点>
・マインスイーパには第2段目の復帰条件表示手段が無い
・マインスイーパには第2の操作信号が第2段目の復帰条件と一致するか判定する手段が無い
・マインスイーパには第2の省電力モード移行手段が無い
無い無い尽くしである。ま、そりゃそうだ。
「第2段目の復帰条件表示手段」とは特許3の核を成す「ゲーム装置がスリープから復帰した後に、スリープ直前から開始するかどうか選択できる表示」である。マインスイーパにそんなものがないのは読者の皆さんもご存知の通りだ。
コロプラはこんな大き過ぎる相違点を持つ無効資料を出してどうするものかと思ったが、なんと「Microsoft Flight Simulator」と組み合わせれば特許3は容易に想到できるとの事だ。
マインスイーパは「地雷の置かれていないマスをすべて開ければ勝ちとなる」ゲームだ。そこでコロプラは、
マインスイーパはクリアするまでの時間を競うゲームであるから途中でスリープになってしまった場合、スリープに移行する直前から再開したい。だから「第2段目の復帰条件表示手段があると望ましい」。
「Microsoft Flight Simulator」には「Pキー」(ポーズキー)でスタンバイモードになりスリープに移行してもゲーム進行を保存できる。このスタンバイモード機能がマインスイーパに有るとスリープに移行する直前から再開できるので望ましい。望ましいから、当業者であれば容易に想到できる。
と主張して来た。「容易に想到できる」のデフレが酷い。こんな機能があれば良いけど誰も思いつかなかったから任天堂が特許3を発明し、特許庁に登録されたのだ。
当時の特許調査で漏れた様な近い技術を見つけるのが無効資料調査であって、こんな後付けで「俺なら思いついた」と強弁するのはただの未来人のエゴである。このマインスイーパも却下される無駄な無効資料だ。またもやただの時間稼ぎだ。
特許5「シルエット表示」に「Impossible Creatures」
被告第18準備書面(本件特許権3関連) 令和元年7月8日
本件特許権5 特許3637031号 「障害物でプレイキャラクターが隠されてもシルエットで表示する(シルエット表示)」
・既存の無効資料
コロプラは「ザ・警察官 新宿24時」などを挙げ、引き続きこれらの無効資料により特許35無効と主張。・追加された無効資料
コロプラは「Impossible Creatures」を新たに無効資料として追加して来た。
「Impossible Creatures」はRelic EntertainmentとMicrosoft Studiosが共同で開発し、2003年にリリースされたリアルタイム戦略ゲームである(Windows専用)。海外(アメリカ、欧州)でしか発売していないゲームであるが、このゲームにシルエット表示が搭載されているのを確認したならば可能性を感じる。
さてコロプラが「Impossible Creatures」を調査した資料は、
(GAME Watch)背徳的な合成生物を産みだし意のままに操る「Impossible Creatures」
E3で旧名「Sigma」として公開されていた作品が、「Impossible Creatures」と名称を改め、今回のInternational Games Festivalに出展されている。
節足動物、魚類、両生類、は虫類、鳥類、哺乳類と、あわせて52種類の生物が用意されている。このなかから任意の二体を組み合わせて新生物を合成するわけだが、身体のパーツは頭、胴、手、足、羽、尻尾などに別れており、同じ二匹の生物を合成するにしても、最大7タイプの合成生物を作り上げることができる。
(4gamer.net)[IGF2002 06]Impossible Creatures
マイクロソフトと協力して開発を進めているのが,「Impossible Creatures」(旧名Sigma)だ。40種に及ぶ動物たちを掛け合わせていくことで新種生物を生み出し,それを量産して敵と戦うという,これまた一風変わったリアルタイム戦略ストラテジーなのだ。
・・・またGAME Watchの記事。今度は4gamer.netも有るけど。。。まさかまたゲームショーの記事?
そのまさかだった。
「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮称)」と一緒で、「Impossible Creatures」がゲームショー(International Games Festival)に出展されたのを取材した記事を読んだだけだ。
「Impossible Creatures」は「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮称)」とは違ってその後に海外(アメリカ、欧州)では正式に販売されたゲームだぞ。ゲームは売ってるんだから買ってプレイしろよ!
ただ「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮称)」からちょっとだけマシになっていたのは、コロプラは実際のゲームをやってはいないもののゲームプレイ動画を見つけて「特許5と同じだ」と主張している。
(ゲーム動画)IMPOSSIBLE CREATURES [2003]03 MAY 2002 「Don’t call it a comeback!」
このゲーム動画の0-10秒に何度か出てくるが、画面右下の石棺の下にクリーチャーが入るとそのシルエットがキャラクタ形状と同じ緑色のマークで表示される。
図 「Impossible Creatures」プレイ動画9秒
コロプラはこれが「特許5のシルエット表示」と同じと主張している。
しかし特許5はただシルエットを表示するだけの発明では無い。
「Zバッファの奥行情報を書換えず、プレイヤキャラクタを目印画像によってフレームバッファ内に描画する」
「Zバッファの奥行情報を参照し、プレイヤキャラクタが地形オブジェクトよりも仮想カメラ側にあるときはZバッファの奥行情報を書換えながら、プレイヤキャラクタをフレームバッファ内に描画する」
というZバッファとフレームバッファの使い方を定めたものである。表面的なシルエット表示を見ただけでは同じとはとても判断できない。
コロプラもそこはもちろんわかっているはずなのでどうするのかと思ってたら、
<相違点>
・Impossible Creaturesは地形オブジェクトをフレームバッファ内に描画するかどうか明らかでない
・Impossible CreaturesはZバッファの奥行情報を書換えず、プレイヤキャラクタを目印画像によってフレームバッファ内に描画するかどうか明らかでない
・Impossible CreaturesはZバッファの奥行情報を書換えながら、プレイヤキャラクタをフレームバッファ内に描画するかどうか明らかでない
と重要な発明の構成をそのまま「相違しています」と認めてきた。「じゃあ無効資料にならないじゃん」と思ってたら、
<相違点に対する検討>
・Zバッファは周知技術
・Z値が小さい(オブジェクトが手前にある)場合にZバッファの奥行情報を書換えながらオブジェクトを描画する事は周知技術
・Zバッファに代表される深度バッファの書込みを無効にしてオブジェクト(目印画像)を秒がするのは周知技術
・以上、当業者であればImpossible Creaturesに係る周知技術を適用する事で3つの相違点に係る構成を容易に想到できる
・・・またかよ。特許2では「せめてプレイ動画でも持って来ないと話にならない」と書いたが、まさかプレイ動画をただ持ってきて「周知技術と組み合わせれば簡単だから特許5は無効」と安易に主張して来るとは。「プレイ動画でも持って来ても話にならない」だよ。
安易だ、安易すぎる。それに何よりもブーメランだ。
確かにプレイ動画に実際にシルエット表示を行うシーンを確認できる。だが、表面的なシルエット表示だけではZバッファとフレームバッファの使い方が特許5と同じかどうか決してわからない。
それはコロプラ自身が証明した事だ。
コロプラは第6回戦で白猫プロジェクトのシルエット表示機能について
「ステンシルバッファという技法を用い、地形オブジェクトに隠れていないキャラクタ画像部分にステンシル情報を書き込み、キャラクタの内ステンシル情報が書き込まれていない部分だけにシルエット画像が表示されるようにする」
という手法に変更し、特許5に抵触しないと明らかにした。そしてこの変更もユーザーに黙って変更している。
つまりシルエット表示機能は特許5と異なるシステムにしても、ゲーム画面を見ただけでは特許5と同じシステムと違いがわからないのだ。だから「Impossible Creatures」のゲーム動画がシルエット表示をしているように見えても、特許5と同じ可動化は全く判断できない。
これはコロプラ自身が体を張って証明した事実である。またもやユーザーに黙って仕様変更がブーメランになったのだ。
第8回戦の後出し無効資料は酷過ぎる。もうとにかく時間を稼ぎたい断末魔の叫びにしか聞こえない
このように、第8回戦でコロプラがまたまたまた追加して来た無効資料は
「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮)」・・・ゲーム記事だけで特許2と同じ構成だ、となるはずがない
「マインスイーパ」・・・相違点が多過ぎる。その相違点を埋める材料が既に否定された「Microsoft Flight Simulator」では無理
「Impossible Creatures」・・・コロプラが第6回戦でゲーム動画だけでは特許侵害を判断できないと証明したのにゲーム動画を持って来る超ブーメラン
と、3つとも話にならないレベルだ。「とりあえず書面を埋めてみました」感が強すぎる。
この3つの無効資料が裁判の結果に影響を与える事は無い。出来るのは時間稼ぎだけだが、こんな悪質な時間稼ぎを繰り返して任天堂と裁判官の心証はどんどん悪くなっていくだろう。
手段を選ばない作戦は嫌いではないが、もうそろそろコロプラは手段と目的が入れ替わっている事に気付くべきだ。
コロプラの目的は裁判の時間を稼ぐ事か?
違う。裁判が経営に与える影響を最小にする事だ。
裁判の時間稼ぎはその1つの手段でしかない。「最果てのバベル」が不正なセルラン操作をやらかしてしまい、ベテランである白猫プロジェクトがコロプラの経営にとってますます重要になっている。
今の窮地のコロプラに必要なのは任天堂との裁判を早期に終わらせ、白猫プロジェクトユーザーを安心させてゲームを楽しんでもらう事だ。そして協業相手でもある任天堂との関係の修復も不可欠だ。
今の「とにかく裁判の時間を稼ぐ」事を目的として手段を選ばない状況は、じわじわとコロプラの評価を下げている。例え裁判がずっと後に結審するように時間稼ぎが出来ても、その時にコロプラという会社が無くなっていれば何の意味も無いのだから。
さて、今回は特許2,3,5についてコロプラの無効資料の反論を書いた。だがまだ特許1,4,6が残っている。特に特許1は「黙って仕様変更のブーメラン」や「均等侵害」にどう立ち向かうのか、特許4,6のグダグダはそろそろまとまるのか、それはまた次回。
Next PatentMaster Blog Coming Ssoon・・・
参照:任天堂に訴えられたコロプラが妙に強気な「真意」を分析してみた、任天堂がコロプラを訴えた裁判資料を読んだけど、コロプラの勝ち目が見えません、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第2回戦。タイトな解釈にねじ込むコロプラ、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第3回戦。遅延行為を繰り返すコロプラと怒れる任天堂、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第4回戦。コロプラの切り札(?)として『信長の野望』が出陣、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第5回戦。ユーザに内緒で『ぷにコン』の仕様が変わっていた!、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第5回戦。後出し無効資料でコロプラが会心の一撃、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第6回戦。またユーザに内緒で白猫の仕様が変わってた、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第6回戦。ソリティア!?止まらないコロプラの後出し無効資料の嵐、任天堂 VS コロプラ特許訴訟。コロプラの弁護士交代は流れを変えたのか?、任天堂 VS コロプラ特許訴訟。最大の謎!なぜコロプラは特許無効審判をしないのか?、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第7回戦。ユーザに内緒でぷにコン仕様変更が大ブーメランに、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第7回戦。シルエット画像の仕様変更に任天堂は回答できず、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第7回戦。任天堂が見せるコロプラ絶対許さない感、任天堂 VS コロプラ特許訴訟。訂正審判でコロプラの無効資料が無効に、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第8回戦。訂正審判大勝利で任天堂がドヤってた、「第42回アミューズメントマシンショー」ブースレポート ~ナムコ編~ 隠し玉は「ザ・バトル・オブ・ドルアーガ(仮)」、「COBRA THE ARCADE(仮)」、マインスイーパ – Wikipedia、Impossible Creatures – Wikipedia、背徳的な合成生物を産みだし意のままに操る「Impossible Creatures」、[IGF2002 06]Impossible Creatures、IMPOSSIBLE CREATURES [2003]03 MAY 2002 「Don’t call it a comeback!」









