ジャーナリズム

『世界報道写真展2019』 世界を変える写真の力とスポーツの力

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出典:世界報道写真展2019 – 朝日新聞デジタル

(※この記事は2019年7月24日に書くつもりでURL採番だけしたのを、2019年8月3日にようやく書き上げたものです)

※もたもたしてたら東京都写真美術館の展示が8月4日(日)までなのでもう終わってしまいます。もしこの記事を読んで行きたいと思われたか方はお急ぎを。なお8月6日(火)からは大阪梅田に会場を移し、それ以降も西日本で開催は続きます。

世界報道写真展2019 アクセス

7月19日(金)。参院選の最終盤に入り各陣営がラストスパートを掛けている中、私は親友Y と後輩Yと一緒に「世界報道写真展2019」を鑑賞して来た。

元々は親友Yと後輩Yが大阪時代から毎年鑑賞していた恒例行事なのだが、2015年に2人とも神奈川に引っ越して来てからは私も一緒に行くようになり私にとっても恒例行事になってしまった。今年でもう5回目だ。なお去年のレポートはこちら。

世界報道写真展2018に行って、日本に生まれた幸運を再確認したよ

東京では毎年6月から7月に掛けて東京都写真美術館(恵比寿ガーデンプレイス内)の地下1階展示室で開催される。いつもは休日に行くのでかなり混んでるんだけど、今回は平日なのでかなり空いていた。おかげで例年以上にじっくり写真を鑑賞できた。

毎年行く度に自分が知らない世界の姿を見る事ができ、色んな事を考えさせられる素晴らしい展示会だ。そして今年の写真で強く印象に残ったのが「写真の持つ力」と「スポーツの力」である。

20世紀の世界を変えてきたのは戦争であったが、21世紀の世界を変えていくのは写真、スポーツ、様々な個人の力になりそうだ。

トランプ大統領も動かした1枚。「不法移民の親子引き離し」への批判はこの写真から

世界報道写真展は「環境の部」「スポットニュースの部」「一般ニュースの部」「現代社会の問題の部」「スポーツの部」「自然の部」「ポートレートの部」「長期取材の部」と8部門があり、全部で100点近い写真が掲載されている。

戦争や難民などまだ世界に残る人々の苦しみ、社会の裏側に潜む問題、想像もつかない風俗や文化、幻想的な自然の姿、躍動するアスリート、などなど本当にジャンルを問わない様々な写真を観る事ができる。とても言葉では伝えられないので是非見に行って欲しい。

そして私はこういう記事を書いているからではないけど、普段から様々なニュースを見るように心がけている。それでもこの写真を見ると知らない事ばかりな自分を痛感する。去年も書いたが

「世界は広い」

と、そんな当たり前の事を思い出す。そして、そんな広い世界の中で日本は何もかもにおいて恵まれた国だ。そんな国に生まれた幸運を再確認するのだ。

そんな数々の素晴らしい写真の中で一際目を引いたのはある女の子が泣き叫ぶ姿だった。そのインパクトは絶大で当然のように「世界報道写真展大賞」だった。

世界報道写真展大賞

スポットニュースの部 単写真1位

写真家 ジョン・ムーア

2018年6月12日、米国テキサス州マッカレンで、母親サンドラ・サンチェスが国境監視員の取り調べを受けている間泣き叫ぶホンジュラスの子どもヤネラ。

メキシコからリオ・グランデ川を渡ってきた移民家族らは、当局に拘束された。母親のサンドラ・サンチェスは、亡命のためアメリカに到着するまで、1か月にわたり娘とともに中央アメリカおよびメキシコを旅してきたと話した。トランプ政権は、「ゼロ・トレランス(不寛容)」移民政策を発表し、不法に米国に入国し拘束された者を刑事訴追すると述べた。その結果、逮捕された親の多くは子どもから切り離され、多くの場合異なる収容施設に送られた。この写真が世界中に公表された後、米国の税関と国境保護は、ヤネラと彼女の母親が米国政府によって分離された何千人もの人の中にいなかったことを確認した。それにもかかわらず、物議をかもしている政策に対する一般の人々からの抗議により、ドナルド・トランプ大統領は2018年6月20日に政策を覆すことになった。

出典:ツイッター・世界報道写真展@wppjapan

この写真そのものでは無いが、去年の6月にメキシコ国境で子どもが泣き叫ぶ写真が公開された後、多数の親子が切り離されているとトランプ大統領が大バッシングを受けているのは覚えている。

その写真をちゃんと見た事は無かったが、実際に見て納得した。確かに凄いインパクトだ。どんな理由があろうとも、大人は子どもの成長のために力を尽くさねばならない。多くの人々の心を動かしたのは納得だ。

トランプ大統領の移民政策は大統領選から掲げて来た肝いりの政策だ。しかしそんな肝いり政策が後退に追い込まれた。どんなに政策に正当性や理論が有っても、民主主義社会では国民の支持が無ければ進める事はできない。

私はトランプ大統領の移民政策について是非を述べるつもりはない。ただ政治家が政策を進める原動力は国民の支持だ。それはアメリカ合衆国大統領であるトランプ氏も例外ではない。

たった1枚の写真によって圧倒的多数の人々の心が動き、あのアメリカ合衆国大統領が動かざるを得なくなったという事実にただただ感嘆してしまった。

この泣き叫ぶヤネラちゃんの写真はトランプ大統領の演説以上に世界の人々の心を震わせたのだ。

イランの女性サッカーファン、大坂なおみ、20世紀の常識がスポーツの力で変わっていく

そして大賞では無いが、もう1つ確実に世界が変わっていると写真で感じた事がある。それがスポーツの力だ。

スポーツの部 単写真2位

写真家 デイヴッド・グレイ

2018年1月22日、オーストラリア、メルボルンのマーガレット・コート・アリーナで行われた全豪オープンにて、ルーマニアのシモナ・ハレプとの試合でサービスを打つ大坂なおみ。2018年9月、大坂はセリーナ・ウィリアムズに勝ち、全米オープン・女子シングルスで優勝。2018年の1年間で世界ランキング72位から1位に駆け上った。

スポーツの部 組写真1位

写真家 フォルーグ・アラエイ

イランでは、女性サッカーファンのスタジアム入場について制限がある。2018年3月1日、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長がこの問題に対処するためイランのハッサン・ロウハニと会談。2018年6月20日、テヘランのアザディスタジアムについて、特定の女性グループの入場を認める決定が下された。

この2つの写真は実際に写真展に行かないと見れないので、ここでは説明文だけでご容赦を。特に大坂なおみの写真は髪が金色に輝いていて幻想的な1枚だ。必見である。

この2つの写真では、写真そのものの力というより、写真を通じてスポーツの力を感じた。

テニス女子グランドスラム優勝・世界ランキング1位の大坂なおみ、陸上男子100メートルの日本歴代1位9秒97のサニブラウン・アブデル・ハキーム、(富山県出身で同郷の)NBAドラフト1位の八村塁、最近はハーフのスポーツ選手の活躍が目覚ましい。僕らの世代だとハンマー投げ金メダリストの室伏広治もハーフなのだが、最近特に活躍が目立つ。

そのおかげか、最近はハーフや国籍変更したアスリートが活躍したときに「本当に日本人が活躍したと言えるのか」という議論がすっかり無くなったように思う。

「そんなの無くて当たり前じゃん」と思う若い人は多いかもしれないが、僕の世代でも小錦、曙の外国人力士の活躍とか、フランスW杯日本代表の呂比須ワグナーとか、外国人アスリートや帰化選手が話題に上がる事が有った。ただ20年前は表立って言うような事は無いが、「本当に日本人と呼べるのか」という空気が残っていたのを覚えている。

さらに在日選手や朝鮮人学校のインターハイ出場などを巡り、ギスギスとした空気が確かに有った。

だけどここ数年は本当にそういう「純粋な日本人は~」と拘るような空気はすっかり無くなってしまったように思う。在日や帰化、移民の問題などは複雑な話であり単純に全てを受け入れるのが良しとは思わない。でも「出自や血縁と言った本人にはどうしようもない事で差別をしない」というずっと目指して来た社会に少しだけ近づいた実感が有る。

しかしまだまだ世界で根深く残っているのが女性差別だ。特にイスラム教圏内での女性差別は根深いものが有る。国連や諸外国がどんなに時代遅れだと批判しても、「我が国の法律・文化に干渉するな」という正義の御旗の前に全くといって改善が進んでいない。

しかしいつの間にか国連の言う事は聞かなくてもFIFAの言う事は聞く時代になってしまった。FIFAが人権について厳しい態度を取っているのはずっと前からであるが、まさかイランが従うとは思わなかった。

FIFAの人権思想は欧米のキリスト教をベースにしたものであり、それを一方的に他文化圏に押し付けるのは疑問を感じる点もある。だが「サッカースタジアムに女性も入れてくれ」というのはイラン国内でも多くの女性が希望していた問題だ。だがその問題解決を政治に任せていては1世紀経っても解決しないだろう。

それが「従わないならW杯に出場させないぞ」というFIFAの圧力で覆るのだから、すごい時代になったものだ。

言ってしまえばたかがサッカー。所詮はスポーツの一大会でしかない。無くなったところで人が死ぬ訳では無い。本来は戦争という武力の圧力を行使できる国連の方がよっぽど恐るべき存在だ。

だが皮肉な事に「たかがサッカー」のFIFAの圧力の方が強力だ。「別に断ってくれても良いんだよ。だかがサッカーだからね、人が死ぬ訳じゃ無いしね」とFIFAはその権力を最大限に行使している。しかし国連は権力(武力)が強大過ぎるために逆に行使に躊躇してしまい、何もできていない。

もちろんこのFIFAの力は諸刃の剣でもある。例えばFIFAが「日本は竹島を韓国の領土と認めよ。認めない場合はW杯の出場を認めない」と言ってきた場合、果たして国内世論はどうなるだろう?

私は「どうせ韓国に支配されてる島。いっそこの機会に手放してしまえ。W杯の方が大事」という意見が多数を占めてもおかしく無いと危惧する。

このように良くも悪くもスポーツの影響力は格段に増している。「W杯は各国の代理戦争」と言われているが、その言葉が本物になる日も遠くないのかもしれない。日本もスポーツをただの娯楽と見なすのではなく、国政的地位の向上に常に力を入れないととんでもない要求を飲まされる日が来るかもしれない。

世の中のありとあらゆる場所にカメラが有る時代。写真で世界を変えるチャンスは誰にでも訪れる

とまあ、世界報道写真展2019を観て特に印象深かった事を書いてみたが、本当に色んな事を考えさせられる良い展示会だ。

「ペンは剣より強し」とは昔から言うが、今年の大賞写真はそれを体現したかのような1枚だ。たった1枚の写真でここまで多くの人々の心を揺さぶったのはそう無いだろう。

そして今はあのような世界を揺るがす決定的な写真を誰でも撮れる時代だ。

「この瞬間を写真に撮れたら世界が変わるのに」という決定的な場面は今までも数えきれないほど存在しただろう。だがほとんどの場面で写真を撮ろうにもカメラが無かった。そのせいで時代が変わるはずだったチャンスを何度となく逃して来たのかもしれない。

だが今はケータイやスマホでいつでも誰でも写真が撮れる時代だ。監視カメラの数も圧倒的に増えた。HDDは20MBが精いっぱいだったのが10TBが数万円で買える時代だ。溢れんばかりに撮った写真・動画データを整理する必要もない。全部保存しておけば良い。

まさに世界の全てをデータ化して記録する時代になって来ている。

そんな時代ではあなたの目の前に決定的スクープが現れた時、あなたがそれを撮影して時代を変えるチャンスが有るという事だ。

選挙の1票では社会を変える自覚は持てないかもしれないが、決定的な写真1枚を撮る事ができれば社会を変えられる自覚は持てるだろう。

テクノロジーと社会制度の発展によって、私たち1人1人が世の中に与えられる影響力はどんどん強くなっている。そういう時代に生まれたのならば、せっかく手に入れた力を皆に惜しみなく使って欲しいと私は思う。

参照:世界報道写真展2019 – 朝日新聞デジタル国境で泣き叫ぶ少女 アメリカの世論を動かした1枚移民親子の引き離しを停止、トランプ大統領  オバマ氏「親子を引き裂くのか」と批判していた2歳の女の子が泣く。今、アメリカとメキシコの国境で親子が引き離されているピューリッツァー賞受賞フォトグラファーが10年の歳月をかけて見続けたアメリカとメキシコ米、不法移民の親子引き離しを停止へ–トランプ氏が大統領令に署名トランプ米大統領、親子引き離す移民政策撤回 大統領令でイスラームと女性 – Wikipedia



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author : 宮寺達也



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