社会・一般

悲惨な交通事故死を減らす秘策は自動運転ではない

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出典:twitter

今年の4月以降、悲惨な交通事故死のニュースが相次いでいる。

4月19日の池袋の暴走死傷事故、5月8日の大津市の園児死傷事故、そしてつい先日の6月4日に起こった福岡の逆走事故である。

特に池袋と福岡の事故はドライバーがそれぞれ87歳、81歳と認知症を疑われる高齢ドライバーであり、ブレーキとアクセルの踏み間違いを指摘されている。福岡の事故はドラレコの映像がツイッターに上がっており、確実に運転ミスのレベルを超えている。

この悲惨な事故が続いた事で、様々な意見がマスコミ、ネットにあふれている。

「自動運転車を普及させるしかない」

「高齢ドライバーは免許返納を」

「交通事故死は確実に減っている。マスコミが騒いでいるだけ」

私はどれも間違いだとは思わない。皆それぞれの立場でこのような事故を繰り返さないようにと思っているはずだ。

だが、大事なのは現実に意味がある対策かどうかだ。実現しない空想を語るだけでは小池都知事の花粉ゼロ公約と同じで社会は何も変わらない。

そして特に多かったと感じたのが「自動運転車」「高齢ドライバーの免許返納」に対する期待である。

私は高齢ドライバーは免許を返納し、自動運転車で自由に移動を楽しむ時代が来ると思ってる。しかしそれは遥か先の話である。決して現代社会の交通事故死を減らす秘策にはなり得ない。

高齢者に自動車は必須。そして高齢ドライバーと事故はますます増える

まず今後ますます高齢ドライバーは増える。これは確実である。

高齢者を取りまく現状|平成29年交通安全白書

これによると、2016年末の運転免許保有者数は約8,221万人である。この総数は近年ほぼ増えも減ってもいない。しかし75歳以上の免許保有者数は約513万人と2015年末に比べ約35万人(7.3%)増加している。そして今後も凄まじい勢いで増加する。

運転免許の保有者数は変わらないが、高齢ドライバーの比率はどんどん高まっていく。高齢ドライバーは平成に入ってから年間20〜30万人もの凄まじいペースで増えていっており、近年中に1割の800万人に達するだろう。

街中を走る自動車の10台に1台は75歳以上の高齢ドライバーがハンドルを握る時代が来るのだ。

しかもこの数字、後期高齢者である「75歳以上」のものである。前期高齢者である「65歳以上」に広げるともっと激増する。65歳以上の高齢者の約7人に1人は認知症であると言われており、運転技術に不安のあるドライバーは現時点でも圧倒的な数に達しているのだ。

しかし、逆にこれからの日本社会では高齢者のために自動車の必要度はますます高まっていく。

「ちょっと歩いたら駅に着く」

「道で手をあげたらタクシーが止まる」

「移動は電車で十分」

こんな自家用車無しでも生活できるのは公共交通網が発達している東京・横浜といった実はごく一部だけである。ちなみに都会のイメージがあるかもしれない名古屋や大阪はめっちゃ自動車社会である。

私の故郷・富山では自動車無しでの生活など考えられない。タクシーを使えなんて言われても、呼んでも来ない。あれは前日に予約しておかないと来ないのだ。

最寄り駅までは歩いて1時間掛かる(それでも近い方。3時間掛かる友人も)し、冬に雪が降り積もったら登山よりしんどい。死を覚悟した冒険だ。

なので私の実家でも年老いた母親が車を運転しているが、とても免許を返納しろなんて言えるはずがない。高齢者にとって自動車は生活の大前提となるライフラインなのだ。

そして今後、少子高齢化と人口減によりこういう地域はどんどん増えていく。

確かに交通事故死はどんどん減っている。2018年の交通事故による死者数は3532人で、ピークの1970年の1万6765人の1/5だ。

しかし高齢ドライバーの増加に伴い、これからはまた交通事故死は増えていくかもしれない。確かに現時点では「事故死が減ったからこそ目立つようになった」状態かもしれないが、決してそれだけではないのだ。

自動運転車が完成するのはまだ先だし、普及するのはもっと先。早くても2040年

「高齢者に自動車は必須」「高齢者はどんどん増える」

ならば「自動運転車が普及し、高齢者も安心して移動できる」ようになれば万事解決である。

ただしそれは随分先の話である。もしかしたら私が死んだ後かもしれない。

まず現時点での自動運転の完成度であるが、普通にイメージする自動運転=「ドライバーが何もしなくても勝手に目的地に着く」は全く完成していない。

自動運転のレベルは以下の通りである。

レベル0
・ドライバーが全部操作

レベル1(運転支援)
・自動ブレーキなどの安全運転支援システム

レベル2(部分自動運転)
・車が自動でアクセル、ハンドル、ブレーキを操作するけどドライバーはそれを常に監視しなきゃダメ。ハンドルから手を離したら解除。オートパイロットをアピールしているテスラもまだここ

レベル3(条件付自動運転)
・基本的に自動で移動するけど、緊急時にはドライバーに切り替わる。事故時の責任はドライバーなので監視を怠ってはダメ。2018年にAudi A8が搭載したけど、法整備が追いついておらず市販されていない

レベル4(高度自動運転)
・ほとんど自動運転。雷雨、大雨、大雪といった極限環境ではドライバーが操作

レベル5(完全自動運転)
・あらゆる状況下で自動運転

これを見ると、2019年に実現しているのはレベル2までである。そして高齢ドライバーの移動の助けになるのはレベル4からである。

そもそも高齢ドライバーの事故は「大丈夫だと思っている高齢者が緊急時に操作を間違えた」状態が恐ろしい。レベル2はもちろん、レベル3でも不十分なのだ。レベル3で緊急時に急に高齢ドライバーに操作を委ねるような事があればパニックになり、アクセルとブレーキの踏み間違えのような重大なミスに繋がるだろう。

そうなるとレベル4の自動運転が普及しなければいけないが、全く完成の目処は立っていない。「2020年には完成」とか言われてるけど、10年前から言われてる。早くても後5年、2025年が良い所では。

そして完成しても普及まではまだ時間が掛かる。日本の自動車の年間販売台数は527万台。そして自動車保有台数は8223万台である。

自動運転が完成して8割の新車に機能が搭載されたとしても年間400万台。

つまり自動運転が完成してから少なくとも半数の4000万台を置き換えるまでに10年は掛かる。その時は2035年である。

また自動運転はEVと相性が良いので、EV優先で開発されていくだろう。しかしリチウムイオンの枯渇、充電設備インフラの整備問題などで開発が遅れる可能性がある。ここら辺は今でも「あの記事良かったです」と感想が届く↓を読んで欲しい。

EVの最大の問題はバッテリーじゃない

そういう問題を踏まえると、自動運転車が高齢者に普及するのは早くても2040年になるのではないか。それまでに悲惨な交通事故は何度も起こるだろう。自動運転の完成を待っていてはダメなのだ。

特効薬は無い。現状で出来る地道な対策の積み重ねを

なので高齢ドライバーの増加による悲惨な事故死を防いでいくには、現時点でできる地道な対策を積み重ねていくしかない。特効薬は無い事を自覚する必要がある。

高齢者の免許更新の厳格化、高齢者に特化した免許制度の創設など、まず運転資格をしっかりと評価して未然に事故を防ぐべきだ。

そして事故が起きた際の被害を最小化するためにガードレールや車止めといったインフラ整備も欠かせない。また、いつ何時事故が起きるかもしれないと各人の安全意識を高める講習なども学校や企業でどんどん開催していくべきだ。

そして私が一番注目しているのは信号制御である。

右折事故で奪われた幼い命!矢印信号の落とし穴…“信号ルール”はこれで良いのか?

もう「右折」は右折矢印が出た時だけに限るといった仕組みに変えて事故を防げないものだろうか?

これは(高齢ドライバーではない)大津事故の時の記事であるが、確かに右折は最も事故のリスクが高い。なぜなら右折する車も直進する車も両方とも青信号同士だからだ。それを防ぐために、全ての信号機に「右折矢印」を設置し、「右折矢印」が出た時だけ右折可能にする。

これならば直進車は赤信号になるので、リスクが大幅に軽減する。実際、私もアテンザを運転していた時、「右折矢印」がある交差点は安心して曲がれていた。

改めて高齢ドライバーによる事故を防ぐ特効薬はない。そして地道な対策は全てに税金が必要になる。将来世代に借金というツケを回しまくっている私達現役世代だからこそ、せめてこういう事には将来への投資を惜しんではいけないと思うのだ。

参照:東池袋自動車暴走死傷事故 – Wikipedia「衝突音で事故に気づいた」ブレーキ形跡なく 園児死亡事故印刷用「突然の事故で深い悲しみ」園児死亡事故で遺族コメント右折事故で奪われた幼い命!矢印信号の落とし穴…“信号ルール”はこれで良いのか?福岡逆走事故 死亡の男性ドライバー 免許返納を知人に相談自動運転車 – Wikipediaこんなクルマ本当にいるの? 実は誰も望まない「完全」自動運転車自動運転とは?なぜレベル2が限界なのか?各レベルの定義を解説自動運転はいつ実現するのか、その障壁は?(DENSO)自動車保有台数自動車販売台数速報 日本 2018年高齢者を取りまく現状|平成29年交通安全白書交通事故死者数の推移:時事ドットコム認知症の人はどれくらいいるのですか?認知症の人はどれくらいいるのですか?



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author : 宮寺達也



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