映画

映画「空母いぶき」の問題は佐藤浩市氏ではなく邦画伝統の原作レイプ

投稿日:

出典:映画『空母いぶき』公式サイト

「空母いぶき」と言えば、日本や国際社会の問題を重厚でリアルに描き出す漫画家・かわぐちかいじ氏が連載中の大ヒット作品である。「空母いぶき」は知らなくても「沈黙の艦隊」「ジパング」という氏の代表作は聞いた事があるだろう。

そんな「空母いぶき」が実写映画化すると聞いてからずっと嫌な予感がしていた。

邦画はこれまでに名作中の名作漫画を実写化しては「これ誰が得するんだ?」という原作レイプを繰り返し、その結果興業も爆死するという不毛な歴史を何度も何度も何度も何度も繰り返してきた。

「空母いぶき」も例に漏れず、原作連載中の漫画誌「ビッグコミック」における公開前の宣伝目的インタビューで

彼はストレスに弱くて、すぐにおなかを下してしまう設定にしてもらった

と、垂水総理大臣役の佐藤浩市氏が発言。安倍総理が患った難病を揶揄していると大バッシングになった。

私ももちろん不愉快な気分になったが、それ以上にずっとしていた嫌な予感が現実になった事を感じた。邦画伝統の原作レイプはまずキャラ改変から始まる。垂水総理はとても重要な役どころであるにも関わらず、病気を揶揄とか以前にそんな簡単にキャラ改変してしまうとは。

これではもっと大事な設定が改悪されている可能性が高い。それこそかわぐちかいじ作品の根幹である「重厚でリアルな日本と国際社会」が改悪されているのでは、と。

そして映画は5月24日に公開された。悲しい事に私の予想はまた当たってしまった。。。

(※以下の記事には原作と映画『空母いぶき』のネタバレがございます)

「空母いぶき」の最大のテーマ。「中国が尖閣諸島を占領したら」をガン無視

原作「空母いぶき」の最大の魅力は、その凄まじい導入である。

<原作>
20XY年、尖閣諸島沖で海上自衛隊と中国海軍が衝突!!

その戦闘は回避したものの、危機感を募らせた日本政府は、最新鋭戦闘機を搭載した事実上の空母「いぶき」を就役させ、新艦隊を編成した──────!!

艦長は、空自出身の男・秋津。隣国との緊迫が増す中、秋津は、そして日本はどう動くのか──────!?『空母いぶき』

そう。日本固有の領土である尖閣諸島を中国が占領しようとするのだ。その後も中国は尖閣諸島に再度上陸し、制圧。自衛隊に死者も出してしまう。

本当に起こってもおかしく無いし、起きたら日本は未曾有の大混乱になるだろう。そうリアルに想像できてしまうからこそ引き込まれるのだ。それに対して映画は、

<映画>
20XX年、12月23日未明。未曾有の事態が日本を襲う。沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、わが国の領土が占領されたのだ。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第5護衛隊群に出動を命じた。その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》だった。

・・・「波留間群島初島」ってなんだ?実在しねえよそんな島(怒)

・・・「国籍不明の武装集団」ってなんだ?正体は「カレドルフという国家が設立した東亜連邦」と映画で出るんだけど、やっぱり実在しねえよそんな国家(怒)

と、まずイントロから「空母いぶき」の最重要にして最大の魅力である「中国が尖閣諸島を占領したら日本はどうなる?」をガン無視してる。

もうこの時点で「空母いぶき」じゃ無いんだよ。「ビブリア古書堂の事件手帖」のドラマ化でショートカットの剛力彩芽に栞子さんを演じさせた程では無いけど、匹敵するレベルだ。原作をどう読んだらこうなるんだ。

佐藤浩市氏のキャラ作りなど誤差。あまりにも酷すぎる設定変更の数々

そして佐藤浩市氏が演じる垂水総理のキャラ改変はこれも確かに許しがたい。だが誤差だ。

原作の垂水総理は精悍なタカ派の総理である。しかし実際に日本が戦争に突入する決断を下す時、プレッシャーでトイレで吐いてしまう。そのプレッシャーをどう役作りするかで佐藤浩市氏なりに考えてトイレに弱いとしたのだろう。

個人的には佐藤浩市氏に安倍総理を揶揄する意図は無かったと思うが、やっぱりシンプルに原作通りに演じてくれよとの思いはある。またこれをインタビューに載せた編集部は安倍総理や同じ病気に苦しむ人の揶揄になるという事くらい想像しろよとは思う。

とはいえ、映画ではワンシーンだったのでどうでも良かった。まあ誤差だ。

それよりもやはり、根本的な「中国が尖閣諸島を占領」を改悪してるから以降の本編全てが台無しである。止まらない改悪に次ぐ改悪。もう何を観させられてるのかわからない。

<原作>
尖閣諸島での中国軍と海上保安庁・海上自衛隊の衝突をきっかけに事実上自衛隊初の空母である「いぶき」が完成。

<映画>
事件後、すぐに「いぶき」に出動命令。「いぶき」は計画段階から「専守防衛」論議の的となり国論を二分してきた。

→そもそも今の日本でどうやったら空母の建設が国会審議を通るんだ。「いぶき」の存在そのものにリアリティが無い

<原作>
政府批判の先鋒として知られている東都新聞記者「一の瀬一」が登場。事態の進行を自分の目で確認するために最前線となった下地島に渡る。そこでF-35JAの出撃をスクープ。

<映画>
「いぶき」を取材するため、ネットニュースの本多記者と東邦新聞の田中記者が乗船。そのまま戦闘に突入したため取材は中止、2人は部屋から出ないように言われる。でもいつの間にか部屋から出て勝手に取材

→自衛隊の空母が戦闘中に民間人の記者の取材を許す訳ないでしょ

<原作>
戦争は継続中。日本は国連安全保障理事会に中国の非道を訴えるが、中国はとぼけるだけ。日本の同盟国であるアメリカも米中関係を意識して介入に消極的。そもそも中国が常任理事国なので国連は無力。

<映画>
ラストでアメリカ、フランス、イギリス、ロシア、国連の旗を掲げた5隻の潜水艦が浮上。「これ以上の戦闘の拡大は国連として許さない」と伝えたら東亜連邦は撤退。戦争は終結。そして本多記者が「これが戦争だ。絶対に許してはいけないと思った」と世界中に放送。

→1日で潜水艦が世界中から集まるとかどんな架空の地球だよ。映画ドラえもんの安易なタイムパトロールオチかよ。そもそも「国連が助けに来れない」が作品の重要なテーマなのに台無し。しかも中途半端に中国は出さずに国連の旗って。

どれもこれも致命的な改変である。何より最後の「戦争を絶対に許してはいけない」という陳腐な反戦メッセージが「悪い意味で予想通り」過ぎて本当にげんなりする。「戦争は悪い。そんなのはわかってる。でも戦争しなければならない現実」を描くのがかわぐちかいじ作品だ。

この映画は「空母いぶき」はもちろん、かわぐちかいじ作品の魅力を全く理解していない。

原作を忠実に映像化して欲しい、だったら観に行く。なぜわざわざ利益を捨てる?

映画「空母いぶき」は

日々変わりゆく昨今の国際情勢をにらみ、映画ではオリジナルの設定と展開も加え、日本がかつてない危機にさらされた、遠くない未来の一日の物語とした

と書いているが、尖閣諸島を巡る日本と中国の関係は全く日々変わってない。にらんだのは昨今の国際情勢じゃなくて、中国からの抗議でしょ。

私たちが望んでいるのは原作を忠実に映像化して欲しい。ただそれだけである。

難しい話を要求しているつもりは一切ない。新しい脚本を考える必要も無く、むしろ楽なはずだ。そしてその楽な映像化を実現してくれれば観に行ってお金を落とす気満々なのだ。

そんな簡単な要求を無視して「おれのかんがえたさいきょうの実写化」をしては爆死、赤字を垂れ流しているのが邦画の伝統だ。ここ最近でも「ジョジョ4部」「テラフォーマーズ」「鋼の錬金術師」「ビブリア古書堂の事件手帖」「ニセコイ」「進撃の巨人」などなど枚挙にいとまが無い。簡単に言うならば漫画実写化の全部が原作レイプで爆死といっても過言では無い。

邦画業界は一体何がしたいのか?

まず利益を上げたいんでしょ。だったら原作ファンという最大の金脈に映画館に足を運んでもらう努力をしなさいよ。なんでその原作ファンに唾を吐きかけ、どこにいるかもわからない新たな客層に巨大な宣伝費を費やして結局誰も観に来ないという愚策中の愚策を繰り返すのか。

「空母いぶき」はオープニング興収が2億4600万円なので、最終興収は15億円強といった所か。爆死とまでは言えないかもしれないが、制作費を考えればトントンか赤字ではないか。

私は面白いとは思わなかったが、2018年は制作費300万円の「カメラを止めるな」が興収30億円を超える大ヒットを起こした。漫画の原作使用料は100〜200万円と聞く。それと同等の総制作費の映画に負けて恥ずかしいとは思わないのか。

恥ずかしいと思わないなら私が言えることは一つだ。二度と漫画の実写化はせず、どうせ爆死するならオリジナル作品で勝手に爆死してろ。

参照:映画『空母いぶき』公式サイト空母いぶき – Wikipedia『空母いぶき』公式サイト|ビッグコミック『空母いぶき』ネタバレの詳しいあらすじ佐藤浩市が“首相を揶揄” ネット上で批判 漫画誌インタビュー記事【国内映画ランキング】「コンフィデンスマンJP」V2、「空母いぶき」は2位、「貞子」4位、「プロメア」8位スタート



   ● オススメ商品
                     
 
   

-映画

author : 宮寺達也



関連記事

映画評『ドラゴンボール超 ブロリー』 原作ファンも超満足の最高傑作

出典:ドラゴンボール超 ブロリー 公式サイト ドラゴンボールと出会ってから早30年。世間的にはもうおっさんと言われる38歳になったけど、ドラゴンボールに対する熱い思いは全く変わっていない。 孫悟空、ヤ …

映画評『空飛ぶタイヤ』。正義を貫くには転職力が必要

出典:YouTube 映画『空飛ぶタイヤ』予告編 ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故。 整備不良を疑われた運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)は、車両の欠陥に気づき、製造元である大手自動車会社のホープ …

           

● サイト内検索



● アクセスランキング(月間)



● オススメ記事


● オススメ商品




● カレンダー
2019年6月
« 5月    
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930