法律

痴漢はダメだし、安全ピンで人を刺すのもダメ。根拠は私刑を禁じた憲法第31条

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出典:写真AC(安全ピン1)

ツイッターに「次痴漢が出たら安全ピンで刺しな」と保険医の先生にアドバイスを受けたという漫画が投稿され、それが大量のRT・いいねを集めただけでなく「痴漢を安全ピンで刺すのは是か非か」という議論が沸騰している。

安全ピンで痴漢撃退はアリ?過剰防衛? マンガめぐり議論

私は色んな意味でアホらしいと考え、

とツイートしたところ、これまた3000RTを超える大反響となっている。

ただ「正当防衛が認められる」「痴漢は何されても仕方ない」「女性にとって唯一の防衛手段」とこれまた沢山の反論を頂いた。

色々間違っている意見が多いと思ったが、何よりも議論の大前提を間違えたまま己の狭い正義に突き動かされている人が多いと感じた。

大前提として思い出して欲しいのだが、この議論は「痴漢は安全ピンで刺しても良い」という「私刑」を認めた保険医の言動が問題なのだ。

正当防衛の可能性はもちろん理解している。ただそもそもの議論は痴漢への「私刑」

発端になったツイートは「人生初めての痴漢被害にあった時保険の先生が言ったこと」というものだ。現時点で8万RT、16万いいねがついている。ツイート主が過去に実際に痴漢被害にあった時に保険医に相談した時のエピソードを書いたものだ。

この保険医は

「次痴漢が出たらそれ(安全ピン)で刺しな。それなら持ち歩ける」

「(迷わず声を上げられるのは)一部だけの話さ。悩むこたないよ。ただ耐える事だけはしちゃダメ」

「相手は刺されても文句は言えない。確実に手を止めるだろう。もう刺されたく無いだろうしね」

「痴漢してる時点でそいつはクズだ。変態に慈悲は無い。チンコ出てきたらそれで刺しな」

と発言している。

これを読めば議論が混乱している理由がわかる。保険医が喋ったとされる内容には「唯一の痴漢対策」「痴漢は安全ピンで刺して良い」という2つの要素が混じっている。

そして問題なのは、この安全ピンで刺す行為を「正当防衛」として語っていない事だ。

当たり前だが私も含めて安全ピンで痴漢を刺す事を批判している人達は正当防衛を否定しているのでは無い。痴漢被害に遭っていて、どうしても安全ピンで痴漢の手を刺さなければ被害を脱する事ができないのならばそれは正当防衛だ。

正当防衛が認められる「それをしなければ被害から脱せない」場合には、安全ピンに限らず様々な行為が罪に問われない。場合によってはナイフで人を刺し殺す事も罪に問われない。だからそもそも正当防衛の場合に安全ピンが、という話から始まっていない。

議論は「唯一の痴漢対策」「痴漢は安全ピンで刺して良い」から始まっているのだ。

(ちなみに私はこういう漫画は出典も明示されていないので、基本的に嘘松だと思ってます)

痴漢を安全ピンで刺しても良いという考えは「私刑を禁じた」憲法第31条違反

で、この保険医は「痴漢してる時点でそいつはクズだ。変態に慈悲は無い」と言っているのだが、これがダメなのだ。これは「私的制裁」「私刑」であり、憲法で明確に禁じられている。

日本国憲法第31条

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

痴漢は悪質な犯罪であり、唾棄すべき最低最悪の人間だ。だからと言って法律の手続き(司法による判決・実刑)以外によって痴漢に罰を与える事は誰にも許されていない。

痴漢を罰する唯一の方法は、痴漢を逮捕・起訴して実刑を食らわせる事だけである。

そしてその実刑ですら、安全ピンで刺すような暴力による刑罰は認められていない。日本の刑罰では死刑囚の死刑執行以外には暴力行為による加害は一切に認められていない。殺人犯や死刑囚にも禁じられた私刑が痴漢ならばOKという理屈はどこから来るのか。

なお私刑が禁じられた理由は色々あるが、一番は「冤罪防止」であろう。

司法手続きに則っても痴漢冤罪が多発して人生終わっている男性が後を絶たないのに、電車で痴漢をしてきた人間の手を安全ピンで刺そうとして本物の痴漢でなかったらどうするのか?

「ヒャッハー 痴漢は安全ピンだー」「やられたらやり返す 倍返しだ!」

とばかりに電車は血で血を争う世紀末救世主伝説の世界になってしまう。そんな秩序の無い世界になると真に苦しむのは暴力に自信がない人々。つまり今、痴漢に苦しんでいる女性がもっと苦しむ事になるだけだ。

そんな弱い女性たちを守るために法律は存在するのだ。

安全ピンで痴漢を刺す行為は刑法上の傷害罪。正当防衛が認められないリスクを考えるべき

よって、「痴漢は安全ピンで刺して良い」は間違っている。日本国憲法第31条で私刑が禁止されているからだ。

ならば実際に安全ピンで痴漢を刺したらどうなるか?

刑法「第二十七章 傷害の罪」で定められた傷害罪もしくは暴行罪である。

繰り返すが「自分が痴漢に遭っていて、安全ピンで刺す事で被害を脱する事ができれば」正当防衛になる。正当防衛の場合に例外が認められるのは先に書いた通り、安全ピンに限った話ではない。

そしてどう考えてもこの議論は「正当防衛だけ」の話ではなかった。

正当防衛が認められるのはどんな場合か、過剰防衛との線引きはという議論をしているだけではとても違った。基本的に「痴漢は刺すくらいしないとわからない」という復讐感情で安全ピンを刺す行為を正当化していた。それは憲法第31条で禁止された私刑であり、残るのは刑法の傷害罪である。だから「刑法で禁止されているからダメ」と書いたのだ。

そうすると「正当防衛が認められるに決まってる」という意見も貰ったが、どこにそんな根拠があるのか?

一番考えられるリスクは「痴漢と間違えて、別の人間を刺してしまう」事であろう。これはシンプルに傷害罪で逮捕である。正当防衛など認めれるはずもなく、卑劣な痴漢でなく痴漢被害者が逮捕されて人生終わるというバッドエンドだ。

「起訴されるはずがない」という意見も貰ったが、逮捕された事を会社に通報されたらどうなる?今の日本社会は実質的に逮捕が刑罰になっている。そういうリスクをよく考えるべきだ。

何より痴漢が起こりやすいのは満員電車である。人間が密集し、体が揺れてハプニングも起きやすい。赤ちゃんや子ども、そういう社会全体で守るべき弱い存在を誤って刺してしまうリスクを考えるべきだ。

こんなもの本当は刑法がどうのとか書かずとも、シンプルに考えればわかる話のはずだ。満員電車で先端が尖った狂気である安全ピンを振り回す。痴漢も悪だが、同等かそれ以上の悪である。

当然だが痴漢に泣き寝入りしろと言ってるのではない。もっとリスクが少なく、効果的な方法があるんだからそれを広めていこう。それこそが真に痴漢被害から女性を守る事になる。

その効果的な方法の紹介は次回で。

出典:日本国憲法第31条 – Wikipedia刑法 – e-Gov法令検索安全ピンで痴漢撃退はアリ?過剰防衛? マンガめぐり議論痴漢されたら「安全ピンで刺す」は正当防衛か傷害罪か?  Twitterで大論争

                   
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-法律

author : 宮寺達也



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