出典:ズッコケ三人組|ポプラ社
あれは確か12月19日、電車で横浜に向かっていた時の事だ。隣に座っていた小学生2人組の1人(A君)が、図書館で借りたであろう「ズッコケ情報公開(秘)ファイル」を取り出し、もう1人(B君)にクイズを出し始めたのだ。
A君 「ズッコケ三人組からクイズ出すよ」
私 (ズッコケ三人組とは良い趣味をしているな。将来が楽しみな子どもたちだ。だが、かつてはズッコケ三人組ファンクラブ会員だったおっちゃんに勝てるかな?)
B君 「良いよ」
A君 「問題です。ハチベエの年齢は?」
私 (楽勝だな。小学6年生だから11歳か12歳だ)
B君 「えー、何歳だっけ?」
A君 「正解は12歳です」
私 (甘いな。誕生日前のエピソードもあるんやで)
A君 「次の問題です。ハチベエのお母さんの年齢は?」
私 (ハチベエのお母さんだと、夫婦で八百屋やってたよな。そういえば何歳だっけ?)
B君 「40歳?」
A君 「正解は38歳です」
私 (同い・・・年・・・だ・・・と・・・)
そう。私は1991年のクリスマス、小学校5年生の時からズッコケ三人組の大ファンである。20年近く前の話でもうすっかり昔の作品だと思っていたが、それは私の勝手な思い込みだった。名作は時代を超えて愛されるものだ。
今日は2018年12月23日。ズッコケ三人組が誕生してからちょうど40年であり、そしてクリスマスの前日である。
まだお子さんへのクリスマスプレゼントを買っていないお父さんお母さん。今年の子どもが欲しがるプレゼントはNintendo Switchか。けれどクリスマスプレゼントは『ズッコケ三人組』を贈るのがすばらしい・・・
出会いは偶然。お母さんに泣きながら「なんでこんなの買ってきたの」
私とズッコケ三人組が出会ったのは本当に偶然である。
僕は本好きの一家で育った。家には沢山の本が有り、父や母はもちろん、4つ上の姉も沢山の小説をたしなんでいた。
ただ僕と2つ下の弟はゲームや漫画といった娯楽にはあまり興味が無く、ドラゴンボールのアニメ、恐竜図鑑や宇宙図鑑、学研まんがひみつシリーズにハマるような子どもであった。
そうして僕は小学校5年生になった。周りの男子が少年ジャンプやファミコンに熱中している中、そんな僕は小学校5年生と高学年になった事だしそろそろ次のステップに進みたい、がっつり「小説」デビューがしたいと思っていた。
そうして迎えた1991年12月。僕は推理小説デビューを決意した。
父や母、姉は特に推理小説を好んでおり、西村京太郎のトラベルミステリーや赤川次郎の「三毛猫ホームズ」シリーズが家には沢山あった。そこで僕は
「どうせ推理小説を読むなら本物だ。三毛猫じゃなくて、正真正銘の『シャーロックホームズ』を僕は読む」
と思い立ち、お母さんにクリスマスプレゼントとして「シャーロックホームズの本」をお願いした。
そして12月24日、本屋に勤めていたお母さんが帰って来た。手には本を包んだ紙袋がある。
お母さん「はい、これシャーロックホームズの本」
僕 「ありがとうお母さん」
僕は待ちきれずに受け取ってすぐに紙袋を破いた。しかしそんな僕の目に飛び込んできたのは「ズッコケ三人組の推理教室」と書かれた1冊の本であった・・・
僕 「なにこれ、お母さん。シャーロックホームズじゃないよ」
お母さん「え、だって本に『シャーロックホームズの緋色の研究』って書いてあったから」
僕 「これ違うよ。シャーロックホームズじゃないよ。なんでこんなの買ってきたの」(泣いて抗議)
お母さん「お母さん、『シャーロックホームズの本』って聞いたから… ごめんね達也」
魅力は必然。「僕にでも出来そうな」「僕にも起こりそうな」心奪われる
僕は怒っていた・もう本当に破って捨ててやろうかというくらい。実際、シャーロックホームズじゃ無いし。
確かに本のあらすじには「シャーロック・ホームズを読んで、すっかり名探偵気取りのハカセ」と書いてある。
違う違う、僕は「シャーロックホームズ」を読みたいんであって、「シャーロックホームズを読んだ奴の話」を読みたいんじゃない。
これを「まあ確かに『シャーロックホームズの(に関係する)本』には違いない。『シャーロックホームズが欲しい』と言うべきだった」と理解したのは中学生になってからである。なお、中学2年生の宮寺少年は念願のシャーロックホームズを全巻読破し、その内容を研究した発表で金賞を獲るのだがそれはまた別の話である。
さて、僕はもう泣きながらお母さんに抗議した訳だが、あいにくその本はハードカバーの単行本なので破る事もかなわず。。。僕はお母さんを恨みながらもとりあえず部屋に持って帰って放置していた。
そしてしばらく経ったある日、ふと放置していた「ズッコケ三人組の推理教室」が目に留まった。なんか今さら読むのもシャクに思ったけど、別に読んでもお母さんにバレないしなと思って読んでみた。
そしてドはまり。
ストーリーは全くシャーロックホームズじゃないけど、ほとんど同い年のハチベエ、ハカセ、モーちゃんが繰り広げる物語に夢中になったのだ。読み終わってすぐ、あれだけお母さんに文句言ったのをすっかり忘れて僕はもっとズッコケ三人組が読みたくなった。
それから文庫版になっている過去作、ハードカバーの最新作をどっさり買ってもらい、ズッコケ三人組ワールドに大夢中になったのだ。
ズッコケ三人組の魅力は何といっても「空想を刺激されるハチベエ、ハカセ、モーちゃんの大活躍」である。
探偵となって身近な事件を解決したり、児童会長選挙を戦ったり、クラスの女の子を好きになったり、夏休みに遭難したりといった等身大の事件。さらには江戸時代にタイムスリップしたり、宇宙に行ったり、幽霊に憑依されたり、と広大なSFの事件まで。本当に多種多様の事件、冒険が描かれる。
しかしどれも「僕にでも出来そうな大活躍」「もしかしたら僕にも起こりそうな」と空想を刺激される。ドラゴンボールのような作品世界にのめりこむのではなく、「自分だったら」ととにかく空想が広がる。こんな娯楽が有ったなんて!
こうしてすっかりズッコケ三人組にハマった僕は、なんと公式ファンクラブ(ズッコケファンクラブ)の会員にまでなってしまう(ファンクラブ会員証、ファンクラブ手帳、会報誌『ズッコケタイムス』が貰えるのだ)。
そんなズッコケファンクラブへの入会試験問題「ズッコケ常識テスト」がこれだ。ネットがある今なら一瞬でわかるけど、当時は難しかった。お父さんに協力してもらい、なんとかわかったけど。
ズッコケ常識テスト 「ハチベエ、ハカセ、モーちゃん達が住んでいる稲穂県ミドリ市花山町は日本のある町がモデルになっています。それはどこでしょう?」
プレゼントに当然。「ズッコケ三人組」で活字を読む力と想像力が磨かれる
今の世の中には娯楽が溢れている。
小学生でもスマートフォンを持つ時代だ。ネットサーフィンをするだけで圧倒的な情報が手に入る上、無料で遊べるゲームも満載だ。ファミコンが革命的な時代の進歩に思っていた私たちの少年時代とは全く違う。
しかし、どんな時代でも子どもの頭脳の成長に必要なものは同じだと思う。
それが「自分で考える」事である。
確かにスマートフォンやNintendo Switchなども良い。だけど、どうしても脳が受け身になってしまう側面が有ると思う。特にスマホゲームやユーチュブ動画なんて最たるものだろう。
活字は良いぞ。
本当に最小限の情報しか無いから、そこで描かれている世界は自分の脳で想像し創造するしかない。ましてやズッコケ三人組のように「現実の僕も」と空想を刺激される作品ならなおさらだ。
ズッコケ三人組にハマった子どもたちは必ずや将来、文章能力に優れ、発想力豊かな大人に育つだろう。私がその例になっているとは言わないが、確信めいた自信が有る。
なのでもう明日に迫ったクリスマスプレゼントには是非ともズッコケ三人組シリーズを買ってあげて欲しい。お子さんは最初は「何これ?こんなの欲しくない」とグズるかもしれないけど、絶対にハマる事受けあいだ。
しかし改めて思い出すと、せっかくお母さんが買ってくれたクリスマスプレゼントを「なんでこんなの買ってきたの」と泣きながら抗議した上、数日後にはケロッとして「続きが読みたい」とぬかした僕は本当にクソガキだった。
そんなクソガキの御願いに応えてズッコケ三人組を次々に買ってくれたお母さん。本当はどう思っていたんだろう?この正月に帰省する時に聞いてみよう。