経済

日本人の生産性が低いのは「お客様は神様」が原因

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出典:映画「歌藝(うたげい)~終り無きわが歌の道」

日本人の生産性が低いことが問題になって久しいが、いよいよ韓国に抜かれそうだと問題提起したデービッド・アトキンソン氏の記事が話題になっている。

私は韓国に抜かれるのは時間の問題だと思っていたので特段に驚きは無いが、「日本の技術力は世界一」「今年も日本人がノーベル賞、韓国はまだゼロ」「クールジャパンは世界を席巻している」と思っていた人はショックが大きいのでは。

これから、生産性を向上するための「働き方改革」の議論が加速するだろう。私自身、メーカー勤務時代に一日中ソリティアばかりしているおじさんをたくさん見てきたので、働き方改革は必要だと考えている。

しかし、働き方改革だけでは効果は限定的だろう。なぜなら、生産性を最も下げている原因は日本企業を覆い尽くす「お客様は神様」と「助け合い」という絶対の正義だからだ。

なお、今回の記事ではまず「お客様は神様」について考察したい。「助け合い」については、また次の記事で考察する。


日本企業はとにかく「神様のクレーム」に弱い

私はメーカー勤務時代を始め、フリーエンジニアとして働いている今においても日本人の能力が低いと思ったことは無い。外国人と一緒に働いたり、特許の審査を通じて外国のエンジニアと勝負した経験からも、日本人の能力は外国人と比べて互角かそれ以上であり、劣っていると思ったことは無い。

しかし、現実には労働生産性で、アメリカには2倍近い差をつけられ、韓国に追いつかれつつある。

これは、日本人が生産性がほぼゼロの仕事に時間を掛けすぎていることが原因である。それが「お客様からのクレームへの対応」である。

メーカー勤務時代、私は特許を1件書くのに3時間程の時間を費やしていた。この特許1件が1億円の価値を産み出すと仮定すると、私の生産性は3億円/hである。我ながら素晴らしい生産性であり、ひたすら特許を書くことに専念できていたら良かったのにと思う。

しかし、現実には1年間の勤務時間の残り約3000時間を、生産性ゼロの仕事に費やしていた。それが「お客様のクレーム対応」である。

私が手がけたカラープリンターが発売された後、「モノクロ印刷だけをしたいので、カラー機能は不要」というクレームが販売チーム経由で入った。私は即座に「モノクロプリンタを買えば良いのでは無いでしょうか」と返答したが、販売チームは納得しなかった。「お客様がモノクロ印刷を求めている。カラー機能をカットできる変更をしてくれ」と上層部を通じて正式に要望が出され、私が対応することになってしまった。

それから約1年間、カラープリント機能をカットするソフトウェアの設計・テスト、カラーインクを放置することの影響評価、他社のモノクロ機能を調査し競合優位であることの説明資料の作成、「カラー機能のカット機能」の実現に丸々費やした。

なお、頑張って実現したカラー機能のカットであるが、特に評判が良いとは聞いたことがない。もちろんクレームをいただいたお客様に料金は請求しない。売り上げに貢献した効果はゼロだろう。

特許ならば3時間で1億円を生産する私は、残りの3000時間でゼロ円を生産し、トータルの生産性は3万3千円/hとなった。お客様に真摯に対応した結果が、圧倒的な生産性の減少に繋がったのだ。

「お客様は神様」だから、消費者は幸せだった

私のように理不尽なものであっても、日本企業は神様(=お客様)の期待には真摯に応えようとする。そこに費用対効果という概念は無い。しかも、「正義」と信じているので、歯止めが効かない。止めようとする人は「悪」だからだ。

生産性の高いアメリカでは、MicrosoftはWindows XPのサポートを打ち切り、Appleのスティーブ・ジョブズはiPhoneで当時圧倒的に普及していたFlashのサポートを打ち切った。

しかし、日本企業はそんな消費者への裏切りはできない。最新の複合機にもFAXを搭載し、テレビには全チャンネル録画機能が、スマートフォンにはワンセグ視聴機能が、掃除機には喋る機能が付いている。これは消費者の意見の多数決を取れば不要が勝つであろうが、少数の必要なお客様のためにメーカーのエンジニアが必死になって設計・実装・テストしているのだ。

さらに、これがサービス業になると神様度が加速する。アニメーターは年収100万円でアニメを製作している。飲食では300〜400円で24時間、美味しくて安全な食事ができる上、従業員は元気良く挨拶してくれる。池田信夫氏も書かれていたが、ガソリンを給油に行くと車を綺麗にしてくれる。コンビニではありとあらゆるサービスが手に入り、レジ打ちの従業員に質問すれば、マニュアルを見ながら必死に回答してくれる。家電量販店で値下げを交渉すれば、1時間もの時間を費やした上、赤字を覚悟でAmazonと同額まで値下げしてくれる。

これらの過剰なお客様対応を辞めれば、日本人の生産性は大いに向上するだろう。しかし、なかなか簡単では無いと思う。どんなに費用対効果が悪いと言われても、少数のお客様のために努力し、「ありがとう」と感謝の気持ちを貰うことを喜びを感じ、誇りを持っている従業員は多い。自分の経験でも、正直、気持ちが良いものだ。企業も「神対応」などと宣伝されたりする。「お客様は神様」の精神は企業・従業員・消費者の利害が一致しているからこそ、日本にずっと残っているのだ。

「お客様は神様」はもう限界、消費者も意識の変化を

アトキンソン氏が言う通り、「日本人の職人魂」「細部までこだわる」「利益ではない」「生産性や合理性ではない」というスタンスは、戦後、人口が爆発的に伸びるという「恵まれた」時代だからこそ許されたのだ。

これからの人口減少時代にも「お客様は神様」を続けて生産性が向上しないと、日本の福祉制度は破綻してしまう。そうなっては守ってきたはずの「お客様」がいなくなってしまう。「健康のためなら死ねる」に近い、典型的な本末転倒だ。

日本の生産性を向上するためには、企業はもっとドライに商品・サービスの不要なものをカットし、コストを下げ、価格を上げる必要がある。消費者からすると、機能が悪くなったものをより高い価格で買わされることになり、納得し難いだろう。

しかし、それは今までが異常で、企業と従業員の利益を削り過ぎてきただけなのだ。商品・サービスの中身をきちんと理解し、良いものにはしっかりとお金を払う習慣が根付いて欲しい。

もちろん、IPhoneのように皆が納得する魅力的な新製品を出す努力を日本企業はしなければならない。そうなれば、過剰なお客様サービス無しで、企業・従業員・消費者の利害が一致し、皆が幸せになる。

私もエンジニアの一員として、パテントマスターとして、努力を続けたい。

次回は日本人の生産性を下げている、日本企業を覆い尽くす「助け合い」という絶対の正義ついて考察したい。


※この記事は、2016年12月20日にアゴラに投稿・掲載された記事を再掲したものになります。

 

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author : 宮寺達也

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