特許

任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第5回戦。後出し無効資料でコロプラが会心の一撃

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出典:ドラゴンクエスト“ロト伝説”シリーズ 公式プロモーションサイト

前回の記事では特許1「ぷにコン」を巡る争いの中、コロプラがこっそりぷにコンの仕様変更をしている事が明らかになった。

任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第5回戦。ユーザに内緒で『ぷにコン』の仕様が変わっていた!

しかしこの仕様変更はコロプラに有利になるどころか、「信長の野望Online」を持ち出して「特許1は無効だ」と第4回戦で主張していた事への特大ブーメランになっていた。

さて、前回までの記事を読んでいた人は「任天堂の勝ちで決まりだ」と思った方が多いだろう。私もそう思っていた。

しかし、第4回戦でコロプラが往年の名ゲームを大量に持ち出して「任天堂の特許6件は全て無効だ」と訴えた作戦は、一部で「会心の一撃」になっていた事がわかった。

数撃ちゃ当たるという事か、それともこれがコロプラ弁護団の実力なのか、「会心の一撃」に対する任天堂の反論も含めて非常にスリリングな展開になっている。

任天堂は特許3「スリープ機能」を訂正。権利範囲をあえて狭める作戦に

特許3「スリープ機能」については、第4回戦でコロプラから

・Windows向けゲームソフト「Microsoft Flight Simulator 2000 Professional」(2000年1月12日にマイクロソフト株式会社から発売)

・GBA向けゲームソフト「スーパーマリオアドバンス」(2001年3月21日に任天堂から発売)

のスタンバイモード、スリープモードの動作と一致している。これらのゲームは特許3の出願前に発売されており特許3は新規性が無く無効である、との主張がなされていた。

私はこれを見たとき「どう考えても後付けで組み合わせたものであり、ニンテンドーDS以降のタッチパネルを用いた操作システムの特許3とは一致しない。任天堂はきっと反論する」と考えていた。

しかし、これは私の想像を超えて「コロプラの会心の一撃」だったようだ。任天堂は特許3を以下のように訂正すると原告準備書面(6)で表明した。

本件特許権3 特許4010533号「スリープから復帰する時に確認画面を表示し、スリープ直前の画面から再開(スリープ機能)」

原告準備書面(6) 本件特許権3関連 平成30年11月22日

第3 無効論 / 1 訂正の再抗弁 / (1)訂正の内容

(訂正前)

【請求項11】

内部消費電力を抑える省電力モードを備えるゲーム機であって、

そのハウジング表面に設けられ、ユーザの操作によって操作信号を発生させる操作スイッチと、

前記省電力モード中に、前記操作スイッチから発生する第1の操作信号が予め設定された第1段目の復帰条件と一致するか判定する第1の復帰判定手段と、

前記第1の復帰判定手段で前記第1の操作信号が前記第1段目の復帰条件と一致すると判定されたとき、前記省電力モードを解除する省電力モード解除手段と、

前記省電力モード解除手段で前記省電力モードが解除された後、第2段目の復帰条件を表示装置に表示する復帰条件表示手段と、

前記操作スイッチから発生する第2の操作信号が前記第2段目の復帰条件と一致するか判定する第2の復帰判定手段と、

前記第2の復帰判定手段で前記第2の操作信号が前記第2段目の復帰条件と一致すると判定されたとき、前記省電力モードに移行する直前に前記ゲーム機で処理されていたゲーム処理モードに復帰させるゲーム処理モード復帰手段とを備える、ゲーム機。

(訂正後)

【請求項11】

内部消費電力を抑える省電力モードを備えるゲーム機であって、

そのハウジング表面に設けられ、ユーザの操作によって操作信号を発生させる操作スイッチと、

ゲーム処理モード中に前記操作スイッチから発生する操作信号が前記省電力モードに移行するための信号であると判定されたとき、前記省電力モードに移行させる第1の省電力モード移行手段と、

前記省電力モード中に、前記操作スイッチから発生する第1の操作信号が予め設定された第1段目の復帰条件と一致するか判定する第1の復帰判定手段と、

前記第1の復帰判定手段で前記第1の操作信号が前記第1段目の復帰条件と一致すると判定されたとき、前記省電力モードを解除する省電力モード解除手段と、

前記省電力モード解除手段で前記省電力モードが解除された後、第2段目の復帰条件を表示装置に表示する復帰条件表示手段と、

前記操作スイッチから発生する第2の操作信号が前記第2段目の復帰条件と一致するか判定する第2の復帰判定手段と、

前記第2の復帰判定手段で前記第2の操作信号が前記第2段目の復帰条件と一致すると判定されたとき、前記省電力モードに移行する直前に前記ゲーム機で処理されていたゲーム処理モードに復帰させるゲーム処理モード復帰手段と、

前記ゲーム処理モード中に前記操作スイッチからの入力情報がない状態が一定時間以上継続したとき、および、前記第2段目の復帰条件の表示中に前記操作スイッチからの入力がない状態が一定時間以上継続したとき、前記省電力モードに移行させる第2の省電力モード移行手段と

を備える、ゲーム機。

このように、任天堂は特許3について下線で示された箇所を「追加」し、あえて特許の範囲を狭めると宣言したのだ。

なお、この特許の変化をわかりやすく説明すると、

(訂正前)
スリープから復帰したら、確認画面を表示する。

(訂正後)
一定時間操作が無かったらスリープに移行する。スリープから復帰したら、確認画面を表示する。確認画面の表示中に一定時間操作が無いとまたスリープに移行する。

となる。

Windows2000やGBAではスリープ復帰後に確認画面を表示する。この点は特許3に一致する。しかし放置すると自動でスリープに移行する機能は無いので、この点を追加する事で差別化を図っているのである。

特許法第126条第1項1号「特許請求の範囲の減縮」

任天堂が裁判になってから特許3を修正すると聞いたら、

「特許って出願した時が基準になるんだよね?後から修正するのってコロプラが黙ってぷにコンの仕様変更をしたのと同じで反則じゃないか!」

と思った人は多いだろう。

まあ原則としてその理解で間違いない。特許は出願日を基準として審査される。出願日を遡って特許の範囲を拡大したり、修正したりするような事は当然に許されない。

しかし幾つかの例外はある。その1つとして「後から特許の範囲を狭める」事は許されている。あくまで出願した時の情報に基づき、しかも自分たちの権利範囲が不利になるように修正する分には問題ないのだ。

これが特許法第126条第1項1号で定められている「特許請求の範囲の減縮」である。そうすると今度は、

「特許の権利範囲って広ければ広い方が有利なんでしょ?なんでわざわざそんな不利な真似をするの?」

との疑問が浮かぶだろうが、これが必要な場合の1つが「無効審判」である。

特許は、特許庁の審査において出願前に同じような技術が無いか調査され「新しく進歩している」と認定されて権利を与えられる。しかし特許審査の後に出願前に同じような技術の存在が見つかる場合がある。この場合、無効審判請求を行うと特許の権利が剥奪されてしまう(これを無効と言う)。

今回、コロプラは特許3の出願前に同じような技術(Flight Simulatorとスーパーマリオアドバンス)が存在していたと主張した。任天堂はこのままだと特許3の権利が剥奪されると判断し、Flight Simulatorとスーパーマリオアドバンスに被っている権利を放棄し、より狭めた特許にする事で無効を回避しようとしたのだ。

図にするとこんな感じである。

図 特許請求の範囲の減縮

特許3「スリープ機能」は確実に狭くなったが、白猫プロジェクトは網羅

このように、第4回戦でコロプラが大量に提出してきた無効資料の中に確実に任天堂を怯ませる「会心の一撃」が有ったのだ。

特許3は「スリープ復帰する時に確認画面を表示させる」という、白猫プロジェクトのみならずスマホアプリ全てに通用しそうなポテンシャルを持った極めて権利範囲が広く強力な特許であった。

もちろん任天堂は白猫プロジェクトの権利は網羅する範囲にまでしか狭めていないので、この特許3の権利が狭くなっても白猫プロジェクトの特許侵害の恐れは継続する。

しかし、訂正審判がそのまま通るとは限らないし、少なくとも確実に時間は稼げる。時間稼ぎを最大の目標としている感のあるコロプラにとっては有利になった。裁判開始以来、ずっと押されている感のあるコロプラであったが、第4回戦にしてようやく会心の一撃を決める事が出来たという感じか。

何より、この特許訴訟の行方を固唾を飲んで見守っている他のゲーム会社にとってはただただ自分たちのリスクが下がったので朗報だろう(裁判資料の閲覧記録の中にガンホーオンラインの名前があった。やっぱり気になるよね)。

さて、前回の記事の最後では

ただ一言でまとめるならば、「……知らなかったのか…? 任天堂からは逃げられない…!!!」って感じである。

と書いた。なので今回の記事を読んで「おいおい、任天堂が反撃されているじゃないか」と思った人もいるだろう。

確かにコロプラの反撃は会心の一撃だった。だが、任天堂はあらゆる手を駆使してそれすら無効にしようとしている。実は特許3だけでなく、特許4「相互フォロー」・特許6「フォロー登録」も特許請求の範囲の減縮を行うのだ。

特許3だけでなくこっちも合わせて考えると、任天堂が「コロプラ絶対に許さないマン」と本気を出している事がよくわかる。それはまた次回。Coming Ssoon・・・

P.S.

任天堂とコロプラの特許訴訟についての一連の記事が大変に読まれていて、ありがたい限りです。

ただ「最大限に任天堂寄りになっているように見える」との批判もたくさん貰うようになりました。

私としては裁判資料を読んだ事をそのまま書いているつもりですので、そう言われても困るというのが本音です。

しかし、コロプラと比較して任天堂の主張の方が論理的に優れていると感じているのは確かです。そして任天堂はバラバラな特許6件で侵害を主張しています。1件ごとの勝敗が5分5分としても、コロプラが勝訴できる可能性は1/64、1.6%です。単純な確率論として任天堂は最初から有利です。

そして私は特許訴訟の行方よりも、コロプラが白猫プロジェクトのユーザに対して誠実に向き合っていないように感じています。これは過去記事でもしっかり書いています。

一番大事なのは白猫プロジェクトのユーザーが安心して遊べる事でしょ

裁判前に1年間も何を交渉していたのか、本当に訴訟に負けてもサービスを継続するのか、ぷにコンの仕様変更を黙っていたのはユーザを冒涜していないか。こういった点について上場企業、そしてゲーム配信企業として極めて情報開示の姿勢が不十分だと感じており、批判的なスタンスを持っています。

しかし、この特許訴訟の行方についてはパテントマスターの名に掛けて、出来るだけ中立に取材し、情報発信したいと改めて気合を入れたいと思います。どうぞ今後の記事も読んでいただけますと幸いです。

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author : 宮寺達也



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