特許

freeeがマネーフォワードを特許侵害で提訴。人工知能は特許になるのか?

投稿日:

出典:TechCrunch Japan

「クラウド会計ソフト freee」で知られるfreee株式会社が、株式会社マネーフォワードの「MFクラウド会計」が自社の特許を侵害しているとして、差止請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。マネーフォワードは「フリー株式会社の主張は失当であり、特許侵害の事実は一切ないものと判断する」と反論し、全面対決の様相を呈している(出典:INTERNET Watch)。

私は2016年に独立したので、もうすぐ人生初の青色申告を控えている。そのために、「freee」とマネーフォワードの「MFクラウド確定申告」のどちらにしようか考えていたところだ。他人事とは思えない。

ドワンゴとFC2の特許訴訟に引き続き、この特許訴訟はどちらが勝つのか、パテントマスターとして詳しく追求したい。


freeeの特許を調べてみた

今回の特許訴訟では、freee株式会社のプレスリリースで「勘定科目の自動仕訳に関して保有する特許第5503795号(以下、本件特許)をMFクラウド会計が侵害している」と、対象特許が明らかになっている。

本件特許を特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で調べてみた。
本件特許は、freeeの創業者であり代表取締役の佐々木大輔氏、共同創業者でCTOの横路隆氏、開発本部長の平栗遵宜氏の3名が発明者になっている。出願日も2013年10月17日と、freee創業後の最初の特許出願である。このことから、freeeの会計ソフトのアルゴリズムの根幹を成す特許であり、相当に思い入れが強い発明であるとわかる。

その発明の内容は、「取引データを参照して勘定科目に自動仕訳するときに、複数のキーワードが含まれる場合、キーワードに優先順位を設定し、優先順位の最も高いキーワードで自動仕訳する」会計ソフトのアルゴリズムである。

人口知能の技術としては基本的な発明であり、会計ソフトに限ればかなり権利範囲の広い特許だ。
「MFクラウド会計」の説明を読むと、「明細データの自動取得、仕訳の自動入力で、これまで時間がかかっていた会計業務がラクになります。」とアピールしており、freeeの特許の技術範囲に一致している可能性が非常に高い。freeeが特許侵害を主張する気持ちは良くわかる。

しかし、私はこのままfreeeが特許侵害訴訟で簡単に勝利するとは思わない。現時点で明らかになっている情報からの判断であるが、2つの理由から勝敗は5分5分と考えている。

勝敗は5分5分と予想する理由

その1 マネーフォワードも自動仕訳を開発していた

マネーフォワードが「MFクラウド会計」の原型となるサービス「マネーフォワード For BUSINESS」をリリースしたのは、2013年11月29日である(同社プレスリリース)。freeeの特許出願が2013年10月17日であるので、確かにマネーフォワードが後発である。

しかし、マネーフォワードは2013年9月10日にこのサービスのリリースを予告しており、その中で「金融機関のデータを自動取得し、仕訳も自動で行うことができる」とアピールしている。つまり、freeeの特許出願前にマネーフォワードも自動仕訳の技術を開発していたことがわかる。

特許法29条において「出願時点で公然に知られた発明」は特許を受けることができないと定められている。要するに、特許を出願したときに誰かが雑誌・インターネット・論文・特許なり、何らかの形で同じ発明を発表していたら、特許を認められない。これは、特許権が認められた後からでも、改めて主張することができる。

本件特許の審査経過を確認すると、類似分野で先に出願された特許文献と比較してOKと認定されている。特許以外の発表はチェックしていない。

マネーフォワードが2013年10月17日の前にサービスをリリースしていたら、間違いなく「freeeの自動仕訳は公表済みの発明で、特許は無効」と断定できるので、わずか1ヶ月の差で遅れをとったのは事実だ。

しかし、リリース前にウェブで開発版を公開していたり、ソースコードを公開していたり、自動仕訳の技術の詳細を説明した文書があれば、裁判を通じて特許は無効と主張できる。そうなれば、freeeが敗訴する可能性が出てくる。

その2 freeeの自動仕訳は常識的な技術と主張する

特許法29条で、特許を受ける条件には「出願時点で公然に知られていない」ことに加えて、「同業者が容易に発明をすることができない」ことがある。

本件特許は、出願時点では「クラウドで、仕訳処理を行う」というさらに広い権利範囲を狙っていた。特許庁による審査の過程で「キーワードの優先ルール」に限定した権利のみがOKと認定され、最終的な権利範囲になっている。

「キーワードに優先ルールを設定し、最も高いものを採用する」というアルゴリズムが「容易に発明できない」と言われると、違和感を持つ人もいるだろう。実は私もだ。

この「容易か否か」は、特許侵害の裁判において非常に揉めるポイントだ。
特許の審査は基本的に一人の審査官が担当し、「容易か否か」は審査官の知識・経験に委ねられており、審査官によって認定の幅がかなり異なる。

マネーフォワードは裁判で「freeeの特許はビッグデータに優先順位を設定し、自動で判別するという人工知能の基本的なアルゴリズムであり、同業者が容易に発明できる」と主張するだろう。

私はこの主張が通る可能性は高く、freeeが敗訴するのではと予想している。しかし、裁判官によってもまた判断が分かれるところなので、5分5分だと思う。

なお、マネーフォワードが自社のプログラムは優先順位の最も高いキーワードではなく、其の他の条件で自動仕訳している、という主張も考えられる。勘定科目の自動仕訳という概念を考えると苦しい気がするが、可能性はある。これは裁判の経過で明らかになると思う。

また、freeeは2016年12月までに5件の特許を出願し、2件の特許を取得している。2件目の特許第5936284号も勘定科目の自動仕訳の発明であるが、こちらについて侵害を主張していないのは気になる。続報を注視したい。

結論:どっちが勝つかはわからないが、人口知能の普及にインパクト大

今回の特許訴訟の結果は、広範な人口知能の特許に影響を与えるだろう。人口知能を用いて、優先順位を設定し、動作や作業を自動化する特許は会計ソフト以外にも多数存在する。かくいう私も、メーカー勤務時代にそういう特許を取得したことがある。

freeeの特許が容易に発明できるものであり無効と判断されれば、同様の人工知能関連の特許が多数、無効になる可能性が出てくる。

そうなると、人口知能を用いたアルゴリズムが使い放題になり普及が加速するという期待もできるし、人口知能の特許を取得してきた中小企業の優位が無くなり、AppleやGoogleのような巨大企業に一気に駆逐されるという恐れもある。

そのため、どちらが勝つか目が離せない特許訴訟だ。続報が出たら、また考察を行いたい。

また私も勉強させていただきたいので、弁理士の方や人工知能の特許に詳しい方による優れた考察をお待ちしている。


※この記事は、2016年12月09日にアゴラに投稿・掲載された記事を再掲したものになります。

-特許
-,

author : 宮寺達也

オススメ商品
                                                                                                 

  1. […] 本特許訴訟は以前の記事、「freeeがマネーフォワードを特許侵害で提訴。人工知能は特許になるのか?」で取り上げており、私も結果に注目していた。 […]

comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

ドワンゴがFC2を特許侵害で提訴。勝つのはどっちだ?

出典:ITmedia ビジネスオンライン ニコニコ動画を運営しているドワンゴが11月15日、FC2動画等のコメント機能がドワンゴの特許を侵害しているとして、運営元のFC2とホームページシステム(大阪市 …

特許出願数の減少はゆとり教育とは関係無い

出典:イラストAC 山田肇氏の記事を拝見したが、私も「理数系科目の授業時間減少によって研究開発力が低下」したとの神戸大学の研究結果には大いに疑問である。 実際に事務機器メーカーで特許出願を多数行い、退 …

伊藤園VSカゴメ。トマトジュース特許バトルの“真相“は?

出典:写真AC 6月8日、トマトジュースの作り方をめぐって、食品メーカーの「カゴメ」が大手飲料メーカー「伊藤園」が持つ特許は無効だと訴えた裁判で、知財高裁は伊藤園の特許を無効とする判決を出した。カゴメ …

クラウド会計特許バトル。freeeは自滅で初戦を落とした

画像出典:TechCrunch Japan 7月27日、クラウド会計ソフトの特許侵害を巡ってfreeeがマネーフォワードを提訴していた特許訴訟の判決が東京地裁で下された。 判決はfreee側の請求を棄 …













2017年9月
« 8月    
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930