ジャーナリズム

世界報道写真展2018に行って、日本に生まれた幸運を再確認したよ

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出典:朝日新聞・世界報道写真展2018

前回の記事で親友Y・後輩Yと一緒に映画「空飛ぶタイヤ」を観に行った事を書いたのだけど、実はその日の本命は映画では無く、世界報道写真展2018であった。

親友Yと後輩Yとは毎年6月か7月に世界報道写真展を鑑賞に行くのが恒例になっている。2015年に2人とも神奈川に引っ越して来てからの恒例行事なので、今年でもう4回目である。2人は大阪時代から大阪展に行っていたのだが、神奈川に来て東京展に行くようになったタイミングでお誘いの声が掛かったわけだ。

最初はそんなに興味が有ったわけでは無かった。ぶっちゃけると「どうせ戦争とか貧困とかをおどろおどろしく撮った写真を飾って、『平和を考えよう』みたいな左翼思想丸出しのイベントでしょ」的な冷めた目で捉えていた。

ところが実際に行って数々の写真を観るにつれて、どんどんそんな単純なイベントでは無いと思うようになっていった。世界中のジャーナリストが知恵と勇気と行動力を振り絞って撮った写真の数々が、改めて世界の広さ・奥深さを私に教えてくれる。

インターネットが発達し世界中で起きている事が一瞬でわかるようになった現在でも、自分が普段見聞きしている世界はほんの一部でしかない。

「世界は広い」

毎回行く度にそんな当たり前の事を思い出す。そして、そんな広い世界の中で日本は何もかもにおいて恵まれた国だ。そんな国に生まれた幸運を再確認するのだ。

世界報道写真展2018。戦争やテロはまだまだ「今そこにある恐怖」

世界報道写真展は1955年から続く世界最大のドキュメンタリー、報道写真の展覧会である。第61回目を迎える今回は125の国と地域から4,548人のフォトグラファーが参加しており、73,044点の応募がある。会場ではその中から選び抜かれた62組の受賞作品が飾られている。

「現代社会の問題」、「一般ニュース」、「長期取材」、「自然」、「人々」、「スポーツ」、「スポットニュース」、「環境」の8部門が有るので、決して戦争の写真ばかりでは無い。しかし、やはりどうしても戦争やテロ、命が失われる瞬間を切り取った絵に釘付けになる。

昨年まではシリア内戦とそこからのEUへの難民を撮ったものが多かったが、今年はほとんど無かった。代わりにイスラム国に占拠されたイラク北部モスルでの戦闘、ミャンマーで迫害されて逃げているロヒンギャ難民を撮ったものなどが増えていた。

どの写真もジャーナリストが命の危険を省みずに「今、命が失われている本当の現場」まで入り込んで撮っているため、圧倒的なリアリティーが有る。必ずしも画質が良い写真ばかりでは無いが、そんな事はほとんど気にならない。普段の生活では絶対に目の前に現れる事が無い「瞬間」が叩きつけられる事で、自分の頭の中が広がったような感覚を覚え、写真が切り取る世界に引き込まれてしまう。

私は生まれてから今まで大切な人を何人か亡くしたし、中には理不尽な死も有った。だけど、いつも悲しむ余裕が有った。他人の死から自分の死を連想する事は無かった。戦争やテロは大勢の他人の死の悲しみであり、それ以上に自分の死の恐怖である。死が身近に有っても、死ぬのが怖くない人はいない。悲しみと恐怖に押し潰されそうになりながらも、生きるために動いている。

その姿にはどんな泣ける映画や圧倒的な風景を観た時とはまた違う感傷が有る。仕事の悩みとかが本当にちっぽけなものに感じてくる。

W杯で観る国々の現実

そして戦争やテロだけではなく、貧困や人権侵害に苦しむ人々の姿も有る。

コロンビアの犯罪集団、いつの間にか解散していた元FARC(コロンビア革命軍)の残党、セルビアの難民、ロシアのセックスワーカー、ナイジェリアで過激派に誘拐された少女達。日本で貧困に喘いでいたり治安が悪かったとしても、そこまでは有り得ない人々の苦しむ姿が有る。

そしてこれらの国々は、この6月にロシアW杯で毎日華麗にサッカーをしているスーパースター達の母国である。とてもまともにサッカーが出来るとは思えないような彼らの母国の現実に気付かされる。

他にも今回のロシアW杯には出場していないが、カメルーンでレイプ被害を避けるために強制的に胸のふくらみを圧迫されている少女達、北朝鮮の国民の姿も有る。

政治経済のレベルではまだまだ先進国とは言い難い日常が広がっている国で、どうやってサッカー代表選手を揃え、強豪国と互角以上のチームが作れているのか本当に不思議になる。特に日本とも対戦したコロンビアは麻薬・誘拐・殺人が日常的に溢れている国だ。有名選手ともなればターゲットになる確率が格段に上がる訳で、代表選手になる事が単純な名誉では無く、命の危険を伴う覚悟が持っている。

そういった貧困・治安の悪さに悩む国でサッカー代表選手を目指す事は、単なるスポーツの枠を超えて人生を賭けた戦いなのだろう。もちろんそんな名誉とお金を手に入れられる選手は極々一部だけど、もしサッカーが無ければ希望すら失われている訳でどれだけ多くの人間を救っているかわからない。

FIFAや日本サッカー協会など現代のW杯には金銭が絡んだ様々な問題は有るけれど、あれだけシンプルな(敷居が低い)スポーツで世界を1つにする大会が行われているという事実の凄みを改めて感じる。

オリンピックが平和の祭典ならば、サッカーW杯は希望の祭典なんだろうと思った。

日本の写真がほとんど無い事のありがたみと、怒りを消費する虚しさ

そして、いつも戦争やテロ、貧困に怯える人達が教えてくれるのは「命あってのものだね」という事だ。

写真の中で苦しみの中必死に生きている人達は、「命」が有る事を何よりも優先し、その他の事には気にも留めていない。

服も靴もボロボロで、家は穴だらけで、目の前の死体にすら気を配っている余裕が無い。自分が生き残るために、銃弾や炎、飢えから身を守る事が何よりも優先される。自分を苦しめる原因に怒りを感じているだろうが、それを露わにする暇もない。そしてそれは被写体だけでなく、カメラマン自身もそうだ。

思うに「怒り」とは、命の危険が無くなって安心した状況で初めて感じられる心の余裕が生み出すのだろう。

そんな怒りへの思いを巡らせているときに、ふと日本の写真がほとんど無い事に気付く。今回は3枚であった。ニホンザルの芸の写真が2枚と、ごみ集積車の写真が1枚。毎回1枚2枚しか無いので(2015年は1人マクドで食べてるサラリーマンの写真が1枚だけ)いつも通り「日本は平和だな、ありがたい」と思いつつ、ふとそれでも「怒りの声」が絶えないのはなぜだろうと思った。

今に始まった事では無いが、日本では何かの事件が起きる度に国民全員が一丸となって怒りを表すような風潮がある。今年に入ってで言えば、TOKIO・山口メンバーの強制わいせつとか、日大アメフト部の殺人タックルとかである。

もちろん問題は問題だ。しかるべき処罰を受けるべきだし、怒りを感じるのは当然だ。しかし、連日連夜ニュースのトップを飾り、一億総評論家の如しで怒りのコメントをぶつけるような問題とは違うと思う。

世界ではもっと悲惨な事が起きているからと比較するまでもなく、やはり重要な問題は命が失われる問題だ。日本でもまだまだ命を失う理不尽が残っている。減ったとはいえまだ年間に4000人も交通事故で命を失うし、自殺者数は年間で2万人以上である。

この2つをカウントするだけでも、一日に65人が死んでいるのだ。社会全体として少しでも理不尽な死を減らすべく問題の原因を追及し改善していくべきだと思うが、日大アメフト部のニュースの陰に隠れてしまう。

こんな感じで日本で重大なニュースになる問題は「深刻な問題」では無い、「珍しい問題」である。確かにジャニーズのタレントが逮捕とか、殺人タックルとかは新しくて珍しい。軽い問題とは言わないが、もっと深刻な問題が有る。

出来れば深刻な問題の方を議論し、改善していく日本社会で有って欲しい。怒りを表すのは良いが、軽い問題で怒りを消費し尽くして真の問題が放置される事になっていれば残念だ。

そういう気付きを与えてくれた世界報道写真展。8月5日(日)までJR恵比寿駅近くの東京都写真美術館で公開中なので是非とも行ってみてはどうでしょう。8月以降は大阪、大分、京都、滋賀と全国を回るのでお近くの方も是非。

参照:朝日新聞・世界報道写真展2018東京都写真美術館キヤノン・世界報道写真展2018



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author : 宮寺達也



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