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映画評『空飛ぶタイヤ』。正義を貫くには転職力が必要

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出典:YouTube 映画『空飛ぶタイヤ』予告編

ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故。

整備不良を疑われた運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)は、車両の欠陥に気づき、製造元である大手自動車会社のホープ自動車カスタマー戦略課課長・沢田悠太(ディーン・フジオカ)に再調査を要求。

同じころ、ホープ銀行の本店営業本部・井崎一亮(高橋一生)は、グループ会社であるホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、独自の調査を開始する。それぞれが突き止めた先にあった真実は大企業の“リコール隠し”―。

原作は、累計180万部を突破した池井戸潤による大ベストセラー「空飛ぶタイヤ」。「半沢直樹」「花咲舞」「下町ロケット」「陸王」など大ヒット連発の池井戸作品であるが、意外な事に今作が初の映画化である。

僕が人生で最もハマったドラマは「半沢直樹」であるし、池井戸作品はサラリーマンの、エンジニアの琴線をこれでもかとくすぐるため毎回ドはまりである。そのため、親友Y・後輩Yに誘われた時はを二つ返事で引き受けた。そして6月23日(土)、雨が降りしきる中ゴジラヘッドでお馴染みのTOHOシネマズ 新宿に赴いた。

公開2週目であるが満席の盛況ぶり。私も期待値MAXで観始めたが、どんどんスクリーンに引き込まれ、あっというまにエンドロールを迎えてしまった。大満足の2時間であった。

映画を観終わった私はしばし余韻にふけりながら、ふと「もし自分がリコール隠しをしていたホープ自動車の社員だったらどうだっただろう?」と考えていた。

正直な思いとして、私はあっさりと警察に内部告発をして事件を終わらせた自信がある(面白い映画にはならないけど)。なぜなら、私には「いつだって会社を辞める事になっても構わない自信」があるからだ。

岸部一徳のイヤらしさとディーン・フジオカの苦悩はサラリーマンの琴線揺さぶりまくり

「空飛ぶタイヤ」は実際に2002年に起きた「横浜母子3人死傷事故」と2004年に発覚した「三菱自動車工業のリコール隠し」をモデルにしている。

ストーリーはホープ自動車と対決していく長瀬智也と、ホープ自動車の闇と自分の立場の板挟みになるディーン・フジオカの視点で進んでいく。だが大企業でサラリーマンエンジニアをしていた私としては、リコール隠しに気付きがらも自分の会社を守るために何とかしようともがくディーン・フジオカやムロツヨシ、中村蒼の方に感情移入してしまった。

ディーン・フジオカは長瀬智也に問題を指摘されたとき、本当に何も知らなかった。自分の会社に問題が有ると言われて「典型的なクレーマーだな」、そしてリコール隠しの可能性が浮上しても「まさかそんなはずは無いだろう」と真っ先に思ってしまうディーン・フジオカの心理は実にリアルだ。

合理的に考えると「リコール隠し」はデメリットしかない。

「リコールはコストが掛かるが、リコール隠しが明らかになれば会社そのものが傾く。どう考えても公表した方が損失の期待値が少ない」

「真実を知っている社員が何百人もいるのにいつまでも秘密を守り続けられるはずが無い」

と普通のサラリーマンは考える。

三菱自動車のリコール隠しの後も神戸製鋼やスバルなど組織ぐるみの隠蔽が次々に明らかになっているが、ほとんどの社員は「隠蔽なんてとんでもない」と考えている。皮肉な事にだからこそ「私の会社では起きるはずが無い」と皆が考え、追及が遅れ、隠蔽が実行されるのだ。

なので隠蔽に携わるのは役員の一部と少数の部長、課長クラスによる場合が多い。彼らは自分の会社では「成功した人間」であるが今さら他の会社にも行けない。なので、自分の地位を守る事は残りの人生を守る事であり、とてつもない力を発揮する。

そんな常務・狩野威を演じた岸部一徳のイヤらしさがまた実にリアルだ。杜撰な経営計画を出しながらも「そこは信頼関係で」となあなあで済まそうとしてきたリ、無駄に豪華な椅子に座っていたり、「人事のムチとアメ」を駆使して懐柔していくやり方は「こんな上司、いたなあ」とサラリーマン時代の記憶を強烈に揺さぶってくる。

そしてリコール隠しは有ってはならないと思いながらも「まずは自分の部署に責任が及ばないように」「なんで俺が起こした問題じゃないのにこんなに責められる。もうやってられるか」「プライド捨ててでも、花形部署に行けるチャンスを」と正義と組織の論理の間で苦悩するディーン・フジオカは「お前こそ主人公だ」とバリバリに感情移入してしまった。

転職力を持った社員にはどんな脅迫も懐柔も無意味

しかし本当に池井戸作品が描くサラリーマンはリアルだ。会社モノの作品は昔からたくさん有るけど、大体は勧善懲悪の物語だ。池井戸作品はそれだけでなく、サラリーマンの強さと弱さ、何より「プライド」を絶妙に描けているのが素晴らしい。

だけど、もし私がディーン・フジオカやムロツヨシ、中村蒼の立場だったら簡単に事件を終わらせられた自信が有る。

ではなぜディーン・フジオカ達には出来ない事が私には出来るのか、違いは一つしかない。「転職する気が有るか無いか」だけだ。何か有ったら転職する気満タンの私にとってリコール隠しのような不祥事を隠蔽する事はリスクだけであり、メリットが何も無いからだ。

「いつ会社を辞めても良いと思っている」私には、『左遷するぞ』『クビにするぞ』『黙っていてくれたら出世させてあげる』なんて脅しもアメも一切心に響かない。

もし私がディーン・フジオカ達の立場だったら適当に岸部一徳を初めとしたリコール隠しの主犯連中に近づいて、証拠が集まったところで警察に通報する。その後は人事で報復されたら転職するし、何事も無ければ仕事を続けるし、もし褒められたらもっと仕事を頑張っても良い。ケセラセラである。

映画の中でディーン・フジオカ達は様々な理由で「ホープ自動車に残りたい」と思っている。そのため、「処分されない」「自分が告発したとバレない」「給料が下がらない」前提でリコール隠しをなんとか暴き告発しようともがいているが、出来る事が限られているため岸部一徳の妨害に屈してしまうのだ。

いつでも他の会社に転職出来る自信がある社員は無敵だ。結局、上司が出来る事は「その会社内限定」の嫌がらせなので、会社を離れたら全くの無力である。オリンパスが長年不正会計を続けてきた不祥事が、イギリス人経営者マイケル・ウッドフォードに代わった途端にあっさりとバレたのと同じだ。

ディーン・フジオカ達に転職力があり、「脅してもなだめても無駄です。転職しますよ」と言えていれば事件は開始20分で終わっていた。まあ、そしたら映画としては面白くは無いんだけど。

映画が良かった人はWOWOW版のドラマもおススメ

とまあ、映画「空飛ぶタイヤ」を観て色んな事を思ってしまったが面白かったのは間違いない。ただ、ちょっと詰め込み過ぎでは無いかと感じた。

その事を親友Yに聞いてみると、「WOWOWのドラマ版は全5話でもっとじっくりと登場人物を描いていた。個人的にはあっちの方が面白かった」と言われた。

確かに長瀬智也は終始良い人って感じだったのであるシーンで突然切れたのには違和感が有ったし、高橋一生はメインキャストなのに限りなく存在感が無かったし、品質保証部課長(和田聰宏)もイヤらしそうな奴だったがほとんど出番が無かった。

重厚な作品なので、2時間の映画ではどうしても人物の内面を深く掘り下げることが出来なかったのだろう。

親友Yいわく、「WOWOWのドラマ版は主人公の赤松を演じる仲村トオルの中小企業の社長感、狩野常務役の國村隼のイヤらしさも抜群で、それに加えて品質保証部課長(相島一之)もイヤらしい。もっと心揺さぶられる。オレは泣いてしまった」との事だ。

映画を観た人はもっと作品を掘り下げるために、まだ観ていない人も予習のためにドラマ版「空飛ぶタイヤ」を観ると良いだろう。2009年の作品なのでとっくの昔にDVD化されていてレンタルも出来るし、動画配信サービスParaviで観る事も出来る。もちろん私も観るつもりだ。

ちなみに映画でストーリーとは関係無いけどどうしても気になった事が2つ有った。これから映画を観る人は是非とも注目して欲しい。

1. 長瀬智也が被害者遺族に謝罪に行き、亡くなった女性の夫に「整備不良を否認しているんですよね。なぜ責任を認めない。あなたたちは人間として最低だ」と詰め寄られる心揺さぶられるシーンが有る。夫を演じているのはどう見ても濱田岳だと思ったがエンドロールを探してもどこにも名前が見つからない・・・

2. 長瀬智也に重要な情報を提供するのが、我が故郷・富山の会社(富山ロジスティクス)の相沢寛久(佐々木蔵之介)である。佐々木蔵之介が頑張って富山弁を喋っているのだが、違和感バリバリで有った。同じ富山出身の後輩Yとの採点は「10点中1点」。

語尾に「~やちゃ」「~られ」と付けてて文法は合ってるんだけど、佐々木蔵之介の喋りが綺麗過ぎて語尾以外は標準語にしか聞こえない。なんか下手な関西弁を喋る外国人みたいだった。。。

映画「空飛ぶタイヤ」はリンク先の劇場にて絶賛公開中です。

(70点)

参照:「空飛ぶタイヤ」映画公式サイトWikipedia 空飛ぶタイヤWikipedia 三菱リコール隠しWOWOW連続ドラマ「空飛ぶタイヤ」Wikipedia オリンパス事件



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author : 宮寺達也

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