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ハリルホジッチ監督の解任劇には、成果でなく空気を読む奴が出世する日本の人事制度が凝縮されている

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出典:Wikipedia ヴァヒド・ハリルホジッチ

4月9日、ロシアW杯をもう2ヶ月前としたこの時期になってサッカー日本代表のヴァヒド・ハリルホジッチ監督が解任された。

最初はニュース速報で「解任される」という事実だけが飛び込んで来たのだが、まず思ったのは「いや、なんでやねん」。

私はソフトテニス選手であり、観戦は野球が専門だ。なのでサッカーにはそこまで詳しくは無い。だが、そうはいってもドーハの悲劇の前から25年以上サッカー日本代表の試合を見て来た。あの時期を思えばW杯に出れるだけでも素晴らしいのに、今大会予選は今までまったく勝てなかったオーストラリアを破っての1位通過である。

直近のベルギー遠征での親善試合の結果は悪かったが、あくまで本番を見据えた「テストマッチ」。まさかこんな結果を理由に代えるのは正気の沙汰では無い。

そう思いながら田嶋会長のハリルホジッチ監督解任に関する記者会見を見ていたのだが、ますます解任の理由がわからなくなってしまった。

ただ伝わって来たのは、日本サッカー協会の人事制度が「成果より空気を読む事を重視する」という、極めて日本の大企業的である事だ。

日本サッカー協会の田嶋会長による記者会見は、何度読んでも本当に「なぜハリル監督が解任されたのか」がさっぱりわからない。

田嶋幸三(日本サッカー協会 会長)

試合の勝ち負けだけで監督更迭を決めているわけではありません。

皆さんのご意見があったから、それで決めたわけでもありません。

選手やさまざまな方の意見は聞きましたが、もちろんそれで決めているわけでもありません。

ただマリ戦、ウクライナ戦の後、選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきたということ。

そして、今までのさまざまなことを総合的に評価して、この結論に達しました。

私は、1パーセントでも、2パーセントでも、W杯で勝つ可能性を追い求めていきたいと思っています。そのために、この決断をいたしました。

田嶋会長の記者会見では「それだけではありません」を連発の上、「総合的に決めました」としている。こんなもの「文句がある相手を煙に巻く時の常套句」である。

ただこの常套句はリコー勤務時代によ〜く聞いた。年功序列・終身雇用の日本の大企業では上が詰まっているので若手をなかなか昇格させる事ができない。なので、だらだら働き成果も出さないおっさんがいる中、若手はしっかりと働き成果を出しても昇格できない。

しかし、人事制度は「成果主義」と謳っている。当然、若手は期末面談で文句爆発だ。そんな時に上司が繰り出すマジックワードが「総合的に判断して」である。

日本代表の監督を決める権限はサッカー協会にある。なのでどんな理由であろうがいつであろうが、解任する事自体は良い。だが、理由ははっきりさせなければいけない。ふわふわした理由で昇格させない企業から優秀な若手が逃げ出すように、ふわふわした理由で解任する国には優秀な監督は来てくれないからだ。

W杯予選1位通過という成果に目を向けず、「総合的」に解任する日本的人事

だが記者会見で明白に「感じる」のは、ハリル監督解任の理由は総合的でもなんでもなく、「選手とのコミュニケーションや信頼関係が薄れてきた」だけである事だ。

「試合の勝ち負け」で言えば、アジア予選では初戦でUAEに負けたりしたが、史上初のオーストラリアを破っての1位通過だ。16強に進出した2010年南アフリカW杯では2位通過だったし、2014年ブラジルW杯も1位通過だったがヨルダンに敗北している。アジア予選という本番の結果で言えば、前任者以上であり解任される理由が無い。

「皆さんのご意見」で決まるなら、2010年の岡田監督が真っ先に解任されていただろう。

「選手やさまざまな方の意見」で決まるなら、2002年日韓W杯のトルシエ監督すらも解任されていただろう。

「マリ戦、ウクライナ戦」で決まるなら、試合が終わった3月27日に解任されたはずだ。そもそもウクライナはW杯に出場しないとはいえ、FIFAランキング35位の強豪である。FIFAランキング55位(試合当時)の日本より格上なんだけど。

つまり、田嶋会長が「総合的」に含めたこれらの理由はフェイクである。本当に解任する理由があるけどそれを直接説明したら非難轟々になりそうなので、他のふんわりとした理由もまぶせて本当の理由を薄めようとしたと考えるのが自然だ。

本当の理由が明かされる日は来ないかもしれないが、

・ビッグ3と言われる本田、香川、岡崎が代表漏れしそうになり、スポンサーが怒った

本田が中心になり、香川、岡崎、乾、吉田が田嶋会長宛てに直訴メールを送った

・中心選手(と田嶋会長が思っている)が監督と不仲な事を理由に代表落ちしそうなのは、田嶋会長の思いとしてもスポンサーのためにも有り得ないのでハリル監督解任を決断

と言ったところだと思っている。

この本音にハリル監督の戦術や実績が一切含まれて無いのが悲しい。

これは、どんなに成果をあげても「周りとの協調性が足りない」とか「お前は周りがまだ頑張っているのに、1人だけ空気を読まずにさっさと帰ってしまう」とか、理不尽な理由で昇進できない日本の大企業のようではないか。心から悲しくなる。

コミニュケーションを理由に解任するのは、「空気読め」という日本の最もダメな部分

私がハリル監督解任がたまらなく悲しいのは、「我が社は成果主義だけど成果なんて関係ねえ。空気読め」という理不尽な理由で昇進・昇格を阻まれて来た自分が重なるからだ。

ハリル監督は予選を1位通過するという結果を残し、ただただW杯本番を見据えて来た。負けても良い試合は新戦力や戦術をテストするなど、最大限利用して来た。

明日の仕事で結果を残すために準備が完了したので、ダラダラ仕事しているバカな同僚を放っておいて先に帰ろうとしたら、「お前は周りの空気が読めない。だから仕事を外す」と言われたようなものだ。実際に近い経験(本音でプロジェクトの不備を指摘したら外された)をしたので、身につまされる。

みんな言っている事であるが、親善試合(テストマッチ)の結果なんてどうでも良い。ドイツW杯(ジーコ監督)は直前のテストマッチで強豪ドイツに2-2と引き分けたが本番はボロボロ。南アフリカW杯(岡田監督)はやはり直前のテストマッチで宿敵・韓国に0-2で負けたが本番は見事に16強。ブラジルW杯(ザック監督)はコスタリカ、ザンビアと連勝して臨んだが本番はボロボロ。

そんな「テストマッチ弁慶」から脱却すべく、ブラジルW杯本番で実績を残したハリル監督を招聘したのではないか。本当ならば、ハリル監督のロシアW杯は日本サッカー史上初めて「W杯で勝利経験(しかもGL通過)がある監督で臨むW杯」になるはずだった。

W杯を率いた経験を元に16強進出と結果を残したトルシエ、岡田監督もそれまでのW杯で勝利した経験は無かった。

ハリル監督はW杯本番ではテストマッチの結果など気にもせず、これまでのW杯の勝利経験から相手を分析し戦術を編み出し、ブラジルW杯でも見せた毎試合スタメンが違うような変幻自在の戦術を披露してくれただろう。

もちろんスタメンは固定されないし、戦術に合わない選手は呼ばれないので、試合に出れない選手からは不満が出る。でも、枠は23人で同じなんだから「代わりに出れる選手もいる」のだ。ハリル監督になって出れるようになった選手からは満足感も信頼感も有っただろう。出たくても試合に出れない選手が発生するのはどの監督でも同じ話だ。その選手とのコミニュケーションが上手く行っていた監督なんていないだろう。

そんな選手とのコミニュケーションを理由に解任されるのは、まるで仕事ができなくてサボっている社員を注意したら「空気読め」と逆に上司から説教されるような、日本の最もダメな部分ではないか。

どんなにアホらしくても本音を明かさなければ、次の監督が来てくれない

私はハリル監督の戦術で戦うロシアW杯が見たかった。だから解任は本当に残念だ。

「理由はともかく、ハリル監督は結果が出てなかったからしょうがない」

そんな意見も見るけど、本当にそうだろうか。W杯本番までは絶好調だったと言われるザック監督もコンフェデレーションズ杯で3戦全敗して「世界で通用しない」「アジアレベル」と散々に言われていた。

アジア予選で1位通過ができず、直前のテストマッチで韓国に負けた岡田監督はハリル監督の比では無いバッシングの嵐だった。

テストマッチを含めて日本が強豪相手に連戦連勝で、どの選手からも監督を賞賛する声ばかりで、監督解任論なんて欠片も無く臨んだW杯なんて無かった気がするんだけど。

ハリル監督が唯一違うのは「本田、香川、岡崎」というビッグ3と呼ばれる「有名選手」と反りが合わなかった、それだけである。

それが本当の理由ならばそう明らかにすれば良いし、ハリル監督にも「解任か、3人を使うか」と詰め寄れば良いはずだ。そういう努力をせずにまず解任したと言う事は日本サッカー協会も後ろめたいと思っているからでは無いか。

だが、どんなに後ろめたくても、本音を明らかにしないと未来に繋がらない。

このままでは日本のサッカー界は「試合で勝つより、調子が悪くてもスポンサーに配慮して有名選手を使わなきゃクビになる」「どんなに本戦で結果を残しても、テストマッチで負ければクビになる」という悪い噂が海外の有力監督に流れて敬遠されるだろう。いや、日本の有力な監督にも敬遠されそうだ。

岡田武史氏がハリル監督解任の直前にS旧コートライセンスを返上して監督引退したのは偶然では無いだろう。

このままでは2022年のカタールW杯は「結果よりも、空気を重視する」日本人監督で臨むことになる。そうなったら、予選通過も怪しくなるのでは無いか。今の若いサッカーファンには馴染みがないかもしれないけど、やっぱり日本はW杯に出るだけでも凄い事なんだ。

油断したら、またドーハの悲劇以前のW杯にすら出れないあの時代に戻ってしまうかもしれない。実際、ついこの間W杯で優勝したイタリアや準優勝したオランダが出れなくなるくらい、世界のサッカーの進歩は速いのだ。

これからもW杯に出続け、そしていつか勝つためには世界のサッカーに追いつき追い越さなければいけない。そのために世界を知る監督の招聘は不可欠だ。

志半ばに解任されてしまったハリル監督のためにも、そしてこれから日本代表監督を務めてくれるはずの方々のためにも、日本サッカー協会はハリル監督解任の理由をしっかりと明かして欲しい。

今や日本の中でも通じなくなっている「空気読め」が、世界に通用するはずが無いのだ。世界で日本サッカーが勝つためには、サッカー協会も世界レベルにならなくてはいけないのは当然だ。

20年後、「あのハリル解任がターニングポイントだったな」といわれないように。

参照:Wikipedia ヴァヒド・ハリルホジッチ田嶋会長「勝つ可能性を追い求めた結果」 ハリルホジッチ監督解任に関する記者会見ハリル解任、背景に本田圭佑ら5人からの「直訴メール」スポーツ報知・4/10スポーツ報知・4/11スポーツ報知・4/12日刊スポーツ・4/10日刊スポーツ・4/11日刊スポーツ・4/12日刊スポーツ・4/13日刊スポーツ・4/14突然奪われたW杯での楽しみ ハリル監督の電撃解任は何をもたらすか残念なハリル解任劇 今後誰が日本代表の監督を受けるのか…



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-スポーツ

author : 宮寺達也



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