前回のブログでは、己の政治的利益のために他人を冤罪に陥れても構わない、極めて低レベルな東京都議会の人権意識について明らかした。
偽証で告発された浜渦元副知事が不起訴に。都議会議員の人権意識は中世の魔女狩りレベル
だがどうやら日本の首都・東京都議会だけではなく、国権の最高機関である国会も同じだったようだ。
3月27日、森友文書の改ざん問題で当時の財務省理財局長であった佐川宣寿氏の証人喚問が行われた。NHKだけでなく民法各局が生中継する異例の注目の高さであったが、案の定というか、佐川氏は政権の指示を明確に否定しつつ、文書改ざんとの関わりについては「刑事訴追の恐れ」を理由に証言を拒否した。
安倍総理に5年以上の長期政権を許している野党は千載一遇のチャンスとばかりに攻撃したが、どうも肩透かしに終わったようだ。「隠し球がある」とか言ってたけど無かったし、証人喚問後は「疑惑は深まった」とオウム返しするだけで打つ手が残っていないようである。
すると、野党は意地でも佐川氏が悪人で無ければ困るとばかりに「佐川氏は正当な理由なく証言を拒んだので、議院証言法違反で告発する」と言い出した。
全くナンセンスである。佐川氏の証言拒否はその「議院証言法」で定められた正当な権利である。
議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律
議院証言法とは聞き慣れない名前であろう。私もこのニュースで初めて知った。正式名称を「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律」と言い、昭和22年に施行された由緒正しい法律だ。
証人喚問など、国会で証言する際の様々な規定が定められている。
その中にはいわゆる偽証罪も定められている。証人喚問では「良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓う」という宣誓書にサインしなければいけない。その上で虚偽の証言をした場合「三月以上十年以下の懲役に処する」(第6条)と定められている。
ここら辺は百条委員会と同じである(正しくは、百条委員会が国会の証人喚問と同じである訳だが)。
佐川氏はその証人喚問の場で宣誓書にサインし、
「まさに今、捜査の対象になっていると考えられますので、刑事訴追を受ける恐れがありますので答弁を差し控えさせていただきたいと思います」
という証言を46回も連発した。この「刑事訴追を受ける恐れ」は今年の流行語大賞を狙えそうな勢いだ。
「刑事訴追を受ける恐れ」とは、検察に起訴される可能性があるという事だ。
森友文書の改ざんは公文書偽造罪の恐れがあり、現在は大阪地検が捜査している。つまり佐川氏が森友文書の改ざんの実行に関りを持っている事を証言した場合、大阪地検に証拠として採用され起訴されてしまう可能性がある。
佐川氏はそのため「刑事訴追を受ける恐れ」を理由に答弁を拒否したのだ。
「あれだけ日本を騒がせた問題なのに、保身のために答えない佐川氏はずるい」と思う人もいるだろうが、何を隠そう、当の議院証言法で定められた国民の権利である。
議院証言法
第1条第5項1号「第四条第一項に規定する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓又は証言を拒むことができること」
第1条第5項3号「正当の理由がなくて宣誓又は証言を拒んだときは刑罰に処せられること」
野党は佐川氏を議院証言法違反で告発しようとしているが何のことは無い、佐川氏を守るのもまた議院証言法なのだ。
佐川氏の証言は刑事訴追の恐れがあるし、拒否は憲法でも定められた正当な権利
もちろん告発を目指す野党の議員には弁護士資格を持つ人も多く、この程度はわかっている。
立憲民主党の枝野代表は
「改ざん前の文書に安倍昭恵さんの名前を見たときどう思ったんですか。これにどう答えようが彼が罪に問われる可能性はない。議院証言法違反の証言拒否なんです」
と名古屋市内で演説し、佐川氏の証言拒否は刑事訴追の恐れの無いものまで含まれており不当だと主張している。
その他には「佐川氏が決裁文書を読んだかどうか」について証言拒否をしたのも正当な理由では無く、議院証言法違反としている。
なお正当の理由が無く証言拒否した場合は、「一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する」(第7条)と定められている。これが野党が告発するというロジックだ。
だがしかし、佐川氏は森友文書の改ざんが有った当時、改ざんを実行した理財局のトップ(理財局長)だった人だ。その立場上、「文書改ざんを知っていた」だけでも公文書偽造罪で起訴される可能性がある。いくら野党議員に弁護士がいるといっても、これが真っ当なロジックだとしか考えられない。
そのため佐川氏は文書改ざんが行われた部署のトップとしての責任は認めているが、刑事責任に繋がる自信の関与は一切証言していない。「文書をいつ見たか」「文書を見てどう感じたか」、これすら「文書改ざんを知っていたかどうか」に繋がる情報であり、刑事訴追の恐れが発生するからだ。
佐川氏の証言拒否は「真実を語って欲しかった」と思っている人には残念かもしれないが、議院証言法で定められた正当な権利だ。さらには
日本国憲法第38条 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」
と、憲法でも保証された権利である。刑事事件の真実とは被疑者に無理矢理の証言を期待するのでは無く、それを追及する人が証拠を揃える事によって証明するものだ。
森友文書の改ざんの真実が知りたい人は、佐川氏ではなく証拠を揃えて追及するはずの野党こそを責めなければいけないのだ。
野党は告発が却下される前提で無知な国民にアピールしているだけ
では、なぜ野党は無理筋とわかっていながら議院証言法での告発を目指しているのか。
それは「却下される事がわかっているから」であろう。
佐川氏を議院証言法で告発する場合、衆議院予算委員会の出席者の2/3以上の賛成が必要になる。自民・公明の与党で2/3議席を確保している現在、そもそも野党の動議は却下される。告発はまず不可能だ。
野党はそれを見越した上で「自民党は卑怯にも証言拒否した佐川氏を庇いましたよ~。やっぱり官邸の指示が有ったんじゃないですか」と国民にアピールするつもりなのではないか。何らかの情勢の変化が有って、与党も賛成に回ったとしても別に佐川氏が冤罪で刑に服すだけであり自分たちは痛くも痒くも無い。どう転んでも政権にダメージを与えられるとほくそ笑んでいそうだ。
だがどんな理由であれ、自分の政治的利益のために誰かに冤罪を被せるなんてことは許されない。それは近代社会の在り方ではない。中世の人民裁判であり、魔女狩りだ。
だが野党は「証人喚問で官邸の指示を自白したら有罪。黙っていたら証言拒否で有罪」と中世の魔女裁判を堂々と行っている。
しかし、バカにされた話である。この作戦を野党が行うのはそれで国民が騙されるとわかっているからだ。現実に、東京都の百条委員会で浜渦氏を魔女狩りした結果、与党の自民党は都議選で大敗した(前回ブログ)。野党は19年春の統一地方選、参議院選挙に向けて、都議選の再来を狙っているのであろう。
私は森友文書の改ざんは大問題だと思っている。自衛隊のイラク日報の発覚も含め、民主主義の根幹を担う公文書の管理が大ピンチである。私は安倍総理、麻生副総理が個人的に好きであり、安倍政権には好意的だ。しかし、それでも文書改ざんは内閣総辞職になっても仕方のない大問題だと思っている。
野党が森友とかしょーも無い事に拘らず、文書管理の不備を指摘し、原因を追究し、改善案を提案するといった真っ当な方法で国会に臨んだ場合、内閣総辞職も有り得たと思っている。
しかし、すっかりそんなムードも萎んでしまった。これも「真実を明らかにする」ではなく「佐川氏を悪人にする」という音喜多都議レベルの本末転倒な政治活動を、あろうことか野党の国会議員がしてしまったためである。
強い野党は与党に緊張感を生み、政治に力を与えてくれる。消費税増や働き方改革など、日本必要な改革が進まない問題は与党だけではなく、弱すぎる野党の責任も大きい。
野党には「ネクストキャビネット」とか言って、いつでも政権状態できるぞと緊張感を出していた2008年ごろを思い出して欲しい。
参照:議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律、Wikipedia 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律、産経新聞・3/11、サンスポ・3/28、産経新聞・3/30、TBS NEWS・3/31(http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3331182.html)、テレ朝news・4/2、JIJI.COM・4/3(https://www.jiji.com/jc/article?k=2018040300933&g=pol)、FNN PRIME・4/3、佐川氏証人喚問 全記録