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カプコンとコーエーの特許侵害訴訟。地裁ではコーエーが勝ったけど、大逆転が有るかも

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出典:戦国無双 総合サイト

3月29日、カプコンが知的財産高等裁判所での審決取消訴訟で勝訴した事を発表した。

この審決取消訴訟とは「この特許に書かれている発明は、出願前から世の中に広まっていたものである。だから特許は無効だ」と、一度登録された特許を無効にするように訴えるものである。

審決取消訴訟を提訴したのは「信長の野望」「戦国無双」「三國無双」などで知られるゲーム会社・コーエーテクモゲームスである。しかし、コーエーの訴えは却下されてカプコンの特許を維持する判決が出たのである。(なお、特許庁でも特許を維持する審決がすでに出ている)

一見すると、ただカプコンの特許が維持されただけである。しかしカプコンとコーエーは審決取消訴訟とは別に、3年以上もこの特許を巡って特許侵害訴訟を続けているのである。

一審である大阪地裁ではコーエーの実質的勝訴となる判決が出ていた。しかし、今回の審決取消訴訟の結果を受けて、カプコンが控訴したら大逆転勝利する可能性が出てきた。

カプコンとコーエーの特許侵害訴訟の行方はどうなるのか、パテントマスターとして分析したい。

カプコンがコーエーを訴えた特許侵害訴訟は、地裁でコーエーの実質的勝訴

カプコンがコーエーから訴えられた審決取消訴訟で勝訴した件は、それだけを見ていても全体はわからない。

両者の争いは、2014年にカプコンがコーエーを特許侵害で訴えた事からスタートしている。もう4年近く前の話である。

カプコンは特許3350773号がコーエーが販売する「三国無双」「戦国無双」など「無双」シリーズのゲームで無断で使われており、特許侵害であると主張した。なお、この特許はゲームプレイ中に前作のゲームを読み込ませると新しいキャラクタがプレイできるなどの特典がもらえるという発明である。

さらに、特許3295771号もホラーゲーム「零」シリーズが侵害していると主張した。なお、この特許はゲーム中の特定の場面でコントローラが振動するという発明である。

カプコンはこれらが侵害しているゲームの販売差し止めと、約9億8000万円の賠償を求めて大阪地裁に提訴したのである。

特に特許3350773号が侵害したとする「無双」シリーズは「真・三國無双」を先駆けに「三国無双」「戦国無双」で数々のナンバリング作品がいずれも大ヒットし、「ガンダム無双」や「ワンピース海賊無双」などのタイアップ作品もある。これらが販売停止になったら大勢のゲームファンに影響して大問題になると提訴された当時に話題になっていたのを今私も思い出した。

この裁判は3年以上続いたが、2017年の12月にようやく判決が出た。その結果は「無双」シリーズの特許侵害の主張は却下するが、ホラーゲーム「零」シリーズの特許侵害は認めると言うものであった。

賠償金のほとんどが「無双」シリーズへのものであったため、「零」シリーズだけの賠償金は517万円となり請求額の9億8000万円には程遠い。裁判としてはカプコンの勝訴と言えるかもしれないが、実質的にはコーエーの勝利である。

カプコンは「一部、主張が認められず、控訴を検討する」と、コーエーは「実質的には勝訴と受け止めている。一部認められなかった点については対応を検討したい」とコメントしている事からもそれが伝わってくる。

大阪地裁は特許3350773号がファミコンソフト時代からあったシステムと認定

大阪地裁が特許3350773号を無効と判断したのは2017年12月14日だが、実は既に特許庁で特許無効審判を却下し特許を維持する審決が出ていた(2017年3月24日)。

つまり、同じ特許に対して大阪地裁と特許庁で異なる判決が出た事になる。なぜそうなったのか詳しく見てみよう。

特許3350773号

【目的】 たとえばシリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えてゆくことによって、豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにする。

【構成】 プログラムおよび/またはデータを記憶するCD-ROM1,2,3 などの記憶媒体を、ゲーム機Sなどの情報処理装置に装填してシステムを作動させる方法であって、複数種類の記憶媒体が準備されており、そのうちの少なくとも一つの記憶媒体には所定のキーC1,C2,C3が記憶されており、選択されたいずれかの記憶媒体が情報処理装置に装填されるとき、上記情報処理装置Sが上記所定のキーC1,C2,C3を読み込んでいるか否かにしたがって、当該記憶媒体に記憶されているプログラムおよび/またはデータの使用範囲が変更されるようにする。

これはコーエーのゲームで「MIX JOY」と呼ばれる機能を指している発明である。

コーエーのゲーム、例えば「戦国無双3」と「戦国無双3 猛将伝」という連作のタイトルがある。「猛将伝」は「戦国無双3」の新ストーリーであり、単独では「戦国無双3」のストーリーは遊べない。そこで、両方を購入してくれた人にまとめて遊べるような「特典」を提供するのが「MIX JOY」である。

「猛将伝」をプレイ中に一旦ディスクを取り出し、そこに「戦国無双3」のディスクを入れてまた「猛将伝」のディスクに戻す。すると、「戦国無双3」のセーブデータやストーリーが引き継がれ、まとめて2つのゲームを遊べるようになるのだ。

この「MIX JOY」機能は特許3350773号と一致していると言って良い。

コーエーは特許庁や大阪地裁において、「この特許3350773号は、ファミコン時代から存在する機能であり、全く新しくない。特許は無効である」と主張したのだ。

そして、大阪地裁はファミコンソフト「魔洞戦記DD I」と「勇士の紋章DD II」にあるレベルアップ機能が特許3350773号と同じ発明であると認めたのだ。

これらのファミコンソフトは「ディープダンジョン(DD)」シリーズと呼ばれる連作である。2作目の「勇士の紋章DD II」では、1作目の「魔洞戦記DD I」をプレイし、レベルが16以上であるデータを入力する(ファミコンなので、特定の名前を入力する)と、最初からレベル2からスタートできる。また神殿で祈るとアイテム「くさのつゆ」「しろきのこ」が1つ増えたり、神殿で祈った時に異なるメッセージが表示されたりする。

コーエーはこの機能が特許3350773号が示す「ゲームソフト間でデータを移動し、ゲームを拡張する」と同じであり、昔から存在すると主張した。そしてカプコンは「特許はゲームを『拡張』させる発明である。ディープダンジョンはゲームが変化しただけで『拡張』ではない」と主張した。

大阪地裁はコーエー側の主張を支持した。判決において、特許3350773号はファミコン時代からある発明であり、無効であるとしたのだ。

資料:大阪地裁 別紙A(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/332/087332_option1.pdf)

特許庁はゲームソフトが「CD-ROM」である点に注目し、カプコンを支持

この大阪地裁の判断はそれなりに筋が通っているように思えるが、特許庁はカプコンの主張を支持するという逆の見解を示した。

その切り札になったのが、ゲームを遊んだ「痕迹」である。

カプコンは「ディープダンジョン」と特許3350773号の相違点として、「ディープダンジョンは第1作をプレイして、ゲームソフトだけでなくそのプレイデータも用いないと第2作で拡張ゲームを遊べない」「特許3350773号は第1作と第2作のゲームディスクがあるだけで拡張ゲームを遊べる。ここが違う」と主張していた。

特許庁はこの「第1作をプレイしたそのプレイデータ」を『痕迹』と表現し、ファミコンソフトとCD-ROMを前提とした特許3350773号の違いになると認定した。

「ディープダンジョン」ではレベル16になるまでかなり第1作をやりこまないと第2作で拡張ゲームが遊べない。しかし特許3350773号はただゲームを買うだけで良い。これが前者は「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」を目的としているが、後者は「ユーザに前作の購入を促す」を目的としており、発想の点から異なっていると認定した。

さらに「ディープダンジョン」でレベル16までプレイしたデータを引き継ぐには、第2作がデータを記録する事のできる「書き換え可能メモリ」である事が必須である。つまり、ファミコンカセットのようなRAM(ランダムアクセスメモリ)だ。しかし、特許3350773号はCD-ROMのように書き換えできないゲームソフトを前提としている。

この書き換えできないゲームシステムでソフト間でデータを引き継ぐ機能はファミコン時代には無かったものであり、それを実現した特許3350773号には進歩性があると特許庁は判断したのである。

これが特許庁が逆転(時系列的には大阪地裁の前だけど)でカプコンの特許が有効とした理由である。知財高裁の判決はまだ確認できていないが、恐らく同様の理由であると推察する。

現状、大阪地裁と知財高裁で判断が異なっているが、第2審である知財高裁で特許が有効と判断されたのはカプコンにとって非常に有利だ。

カプコンが控訴した場合、特許侵害訴訟の第2審はカプコンにとって有利な展開で進む事が予想される。

カプコン、コーエー、両者が知恵を出し尽くしている見応えのある特許訴訟

しかし、これまでに任天堂VSコロプラグリーVSスーパーセルなどのゲーム会社の特許訴訟について記事を書いてきたが、このカプコンVSコーエーはかなり見応えがある。

訴えたれたコーエーはしっかりと相手特許を分析し、無効化を訴えている。この特許3350773号は1994年の出願なので、それを無効化しようとするとかなり古い資料を当たる必要がある。電子データなどほとんど無いファミコン時代のシステムを研究するのは大変だっただろうが、大阪地裁を納得させるレベルまで達していた。

これに比べたら、コロプラが訴えられた任天堂の特許は10年くらい新しいので、無効化資料を探すのはもっと簡単なのである(特許の中身にもよるけど)。

またカプコンも自社の特許の特徴をしっかりと把握し、大阪地裁で特許を無効と認定された判断を特許庁・知財高裁でひっくり返してしまった。

このカプコンとコーエーの特許訴訟、恐らく控訴審が行われると思う。現状ではカプコンにかなり有利になったと思うが、まだまだどう転ぶかわからない。特許訴訟を勉強する意味では非常に良い題材だ。

何より、カプコンの特許は既に20年の期間満了(2014年12月9日まで)しているので、裁判の結果がどうなろうが新作ゲームが発売中止になるといった恐れが無い。最大で賠償金10億円がどうなるかという争いである。

白猫プロジェクトのユーザーがどうなるかという心配をしなければいけないコロプラの訴訟とは違って、安心して見ていられるのだ。

まあ、逆に言えば、カプコンとコーエーは戦う意味が無くなっているのかもしれないけど。

参照:HUFFPOST・2014/08/26朝日新聞・2017/12/14INSIDE・2014/08/27INSIDE・2017/12/14弁理士Tajの発明研究ブログGAME Watch・2018/03/29INSIDE・2018/03/29ファミ通.COM・2018/03/29ディープダンジョン Wikipedia



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author : 宮寺達也



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