3月になかなかブログの筆が進まなかった理由として、森友文書の改竄問題がある。何か書きたいと思っていたのだが、特に3月10日に財務省が書き換えを認めた時点であまりにも私の常識を超えた事態に頭が付いていかず、ネタが浮かんではボツになってしまったのである。
ブログ没タイトル(ネタ帳より)
「森友問題は所詮8億円の話。そんな事より国会で90兆円の予算を審議しろよ」
「森友文書の改ざんが有ったかどうか、朝日新聞の報道では判断できない」
「森友文書の改ざんが明らかに。今後の文書管理方法を考える」
日々更新されていく情報と、それが全く自分の常識を超えていたためどんどん書くのを諦めていった訳である。
今、そんな私が森友問題に思うのは
「文書改竄を起こした財務省理財局の役人の気持ちが全然理解できない。民間企業でも不祥事は起きるけど、違い過ぎる」
という事だ。
民間企業にも不祥事はあるが、社員のリスクはそこまで大きく無い
もちろん民間企業にも不祥事はある。ちょっと思い出すだけでも三菱マテリアルの品質不正、神戸製鋼の製品データ改ざん、三菱自動車の燃費データ不正、数えだせばキリが無い。
しかし、これらの不正はリスクとリターンのバランスが取れているという点で擁護は全くできなくても理解はできる。
これらの不正に共通するのは「売上増につながる」「開発期間短縮につながる」など、自分たちの給料が増えたり、仕事が減ったりするという直接的なリターンが見込まれるのだ。
また、「不正をするリスクが低い」という特徴もある。
製品を出荷するためには、様々な検査をパスしたり、規格に適合する必要がある。そのための試験は外部の機関で行うものもあるが、中には社内で測定したレポートを提出すればOKのものも多い。後者の場合、簡単に偽造が出来る上にバレにくいので不正の誘惑に駆られやすい。
日々、過酷な品質要求や開発日程との戦いの中で疲弊し、「どうせ改ざんしてもバレない」と安易な気持ちでデータ不正に手を出してしまうのだと想像できる。
また、そもそもデータ不正が起きても責任を取るのは経営者である。データ不正を犯した社員も減俸や戒告のような処分は下るだろうが、懲戒免職まではいかないだろう。
しかし、森友文書の改竄は違う。
森友文書の改竄はリスクとリターンのバランスがおかしい
そもそも公文書は改竄したら刑法第155条「公文書偽造等の罪」に問われるのだ。実際、指示したかどうかに関わらず、佐川元局長は退職処分になっている。今後、関わった役人も懲戒免職になり、刑事罰を問われるだろう。
おまけに森友文書の改竄は国会で追及が始まった2017年以降に行われている。既に検察や国交省、会計検査院に提出した文書を改竄するのだから、バレるに決まっている。
さらには改竄の内容が「政治家の名前」とか「森友学園が『安倍昭恵総理夫人をからお言葉をいただいた』と発言した」といった交渉の経緯を消しただけである。普通に考えて、残しても問題無かった内容だと思う。
交渉の過程で賄賂をもらったとか明らかな犯罪を隠したとか、実際に森友学園に売却する価格を修正したとか、土地売却そのものの事件性に関わるような話はなかった。
問題が明らかになるにつれて「財務省はこんな小さな事のために犯罪に手を染めたのか」と思ってしまう。
民間企業で同じ懲戒免職になりそうな悪事と言ったら「経理が会計を誤魔化して、お金を持ち逃げした」とかだ。
不正会計ならばお金に目がくらむというわかりやすいリターンがあるが、森友の文書改竄では何のリターンも想像できない。せいぜいが上司の覚えが良くなる程度では。
森友文書の改竄は、役人がそんな小さなリターンのために刑法を犯すリスクを取ったのだ。
このリスクとリターンのバランス感覚の悪さが、いまだにどうしてもわからない。
トップの指示ではなく、自発的にやるあたりはわかる
ただ、リアルに想像できたのは「安倍総理や麻生外務大臣の指示ではなく、理財局が独自に判断して不正を犯した」(3月28日時点での佐川氏の国会答弁に基づいて書いている)点だ。
これは民間企業でも同じだが、トップが「経営が苦しいから品質不正をしろ」「開発が厳しいからデータ不正をしろ」なんて言う事はまず無い。最終的に責任を取るのは社員ではなく経営陣なのだから、むしろ「頼むから、開発がヤバかったらちゃんと報告してくれ。怒らないから」と思っているものだ。
様々な不祥事で経営陣が頭を下げているが、内心では「なんで俺が謝るんだ」と思っているだろう。
日本の大企業は終身雇用なので、社員にとって会社が潰れたら自分の人生が危なくなるのと同じである。だから、「会社のためを思って、自発的にデータ不正をする」のである。
まあ、本当に会社のためを思っているなら不正なんかすんなって話なんだけど。「データ不正しても現場を知らないトップは気づかない」「不正ばバレても、大した処罰はされない」というモラルハザードが不正の誘惑になっているのだ。
やっぱり役人も「嫌なら辞める」が常識になる社会へ
そして、これが本当に大事な事であるが「本当に優秀な人は不正を犯さない」。
優秀な人はデータ不正を犯す事の無い素晴らしい開発ができると言う訳ではなく、不正をするくらいなら転職して違う会社に行ってしまうのだ。
確かに民間企業でのデータ不正は懲戒解雇までには行きにくいが、それでも何らかの処分は下る。そうすればキャリアに傷がつき、今後の転職などに不利になってしまう。
そのため、いつでも転職できるような優秀な社員は不正を犯すリスクが大きく歯止めになるのだ。
今回の森友文書の改竄問題を見ていて、なんでこんなリスクとリターンのバランスが悪過ぎる不正を犯したのかまだ理解できていない。
しかし、根本的な対策は民間と同じではないか。
「不正を犯してしまうと、自分の今後の人生にリスクが大き過ぎる。だから止めよう」と役人が思えるような環境にする事だ。
あらゆる問題解決の基本だと思うが、責任を個人に求めても再発するだけである。不正を犯さない環境作りが大切なのだ。
決済の電子化など不正がしにくくなる環境作りも大切だ。だが、例えば改竄がしにくくなったので、決済文書には際どい事は何も残しませんになったら意味が無い。
内部リークをしても昇進に響かないように通報制度を改善するとか、嫌になったらいつでも辞められるよう転職市場を整備するとか、そういう役人の立場に立った環境作りが必要だと思う。
参照:森友文書、財務省が書き換えか 「特例」など文言消える、【詳報長官辞任】佐川氏辞任、最大の理由は「決裁文書」、朝日新聞関係者が語った「森友文書」書き換え問題、NHK NEWS WEB、決裁文書の「書き換え」は日常的だったのか、財務省の文書改変問題について思うところなど