経済

赤字1600億円の衝撃。リコーはいつ・どこで・何を間違えたのか?(前編)

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出典:RICOH SP C261

ずいぶんと久しぶりにブログを書いている気がする。

3月は確定申告やら年度末の追い込み仕事やら忙しかった上に、森友の文書改竄問題で何かを書きたいと思ってもあまりにも私の常識を超えた事態に頭が付いていかず、なかなか筆が進まなかったのである。

そんな中、「リコーが1800億円の減損処理。創業以来最大の赤字1600億円に」というニュースが飛び込んで来た。

気づいている人はとっくに気づいているだろうが、私が前に働いていた「大手事務機器メーカー」とは株式会社リコーである。2005年4月1日に入社し、2016年4月10日をもって退社した。丸々11年間、思う存分に働き、成長させていただいた。私にとっては今でも感謝と愛着がある、大好きな会社である。

そんなリコーが経営破綻すらしかねない大ピンチに陥っている。しかしリコーの業績不振を報じるマスコミは「ペーパーレス化で事務機器の収益力が低下」「新規事業を開拓し、脱コピー機依存ができるか」と当たり前の事しか書いてない。

なぜ名門企業であるリコーがこれほどまでに苦しんでいるのか?

リコーはいつ・どこで・何を間違え、これからどうすれば良いのか?

中の人として11年間苦楽を共にして来た私だからこそ書ける事を、愛すべき古巣のために伝えたい。

<1996年〜2007年> 桜井社長時代は右肩上がりの絶好調

私がリコーに入社した2005年は桜井正光社長の下、絶好調の一言であった。

桜井社長が就任したのは1996年であるが、その頃のリコーは売上1兆円程度の企業であった。それがデジタル化の波に乗ってデジタル複合機がどんどん売上を伸ばし、あれよあれよという間に2兆円オーバー。就任当時の2倍以上に押し上げてしまった。

図 リコーの売上と営業利益の推移(2001年〜2017年)

桜井社長は2007年に会長に退き、その後は経済同友会代表幹事を務められるなどグローバルに活躍されて行く。桜井社長時代は本当に良い事しか無かったし、桜井さんを悪く言う人には会った事が無い。

なお、私の世代は入社して直ぐが業績のピークになっているため、未だにボーナスの最高額が入社2年目だったなんて言う輩がゴロゴロしている。そうやって桜井社長時代は良き思い出としてますます伝説になっていくのである。

さて、桜井社長に代わって新たに就任したのが近藤史朗社長である。近藤社長は初の技術者出身の社長になった桜井さんと同じく、戸田事業所でFAXの開発を行なっていたエンジニア出身である。

「FAXといえばリコー」と呼ばれるくらいのトップ製品を作ってきた実績、そして90年代のアナログコピー機からデジタル複合機への革新を上手くリードした実績を買われて複合機事業のトップになっていた人だ。

エンジニア出身の社長という事で、私がいた開発部署では「俺は近藤さんと一緒に仕事してたんだ」と言う人も多く、評判は良かった。

ちなみにであるが、私はあまり良い印象を持っていなかった。2005年の入社式の後、役員と新人が一緒にテーブルを囲んで談笑するというレセプションがあったのだが、新人の間である役員が話題になった。

「リコーの利益は1000億円。だが私の事業部は1500億円稼いでいる。リコーを支えているのは私なんだ」という偉そうな発言をして新人をドン引きさせた役員がいたという話だ。

私はテーブルが違ったのだが、状況的にどう見ても当時の複合機事業部のトップだった近藤社長だと思う。まあ、全くの根拠の無い伝聞話である事だけはお伝えしたい。

そんな事もあり期待と不安が入り混じった近藤社長の1年目だったが、見事に売上2兆2199億円、営業利益1815億円と歴代最高の数字になった。そう、近藤社長はスタートダッシュだけは良かったのだ。

<2008年> アイコン買収は高評価。だがリーマン・ショックで全て吹き飛ぶ

そんな好調なスタートダッシュに気を良くした近藤社長は得意のデジタル複合機事業を拡大すべく、さらなる攻勢を見せる。

それが2008年8月27日に発表した、アメリカの独立系販売会社アイコンの買収である。アイコンは販売額の6割をキヤノン製品が占める非リコー系の販売会社であった。しかしアイコンは欧米を中心に4400億円の売り上げを誇る巨大な販売サービス網を持っている魅力的な企業であった。

そのためキヤノンも買収に意欲を見せており、キヤノンとリコーの買収争いの結果、1700億円という過去最高の企業買収になったのだ。しかし10年経ってアイコンが経営不振になり、資産価値を1400億円下げざるを得なくなった。それがそのまま巨額の赤字に繋がっている。

しかし、私はアイコン買収を決断した2008年の近藤社長の判断が間違っていたとは思わない。

事実、株式市場も好意的だった。アイコン買収を発表した直後の株価は、リコーが50円高の1777円、キヤノンが260円安の4790円とリコーの決断が評価されていた。

2008年といえばまだiPhoneも初代が出たくらいで、業務の中心はデスクトップPC。デジタルデータがどんどん増えており、それを印刷する複合機の需要は高まっていた。リコーは売上の半分を国内市場に頼っており、ライバルのキヤノン、富士ゼロックスに比べて海外展開が弱かった。アイコン買収で一気に米国市場でジャンプアップするチャンスだったのだ。

減損処理を発表した山下社長は「アイコン社のノウハウには価値があり、高値づかみとは思わない」と強調していたが、決して強がりではない。

全てを吹き飛ばしたのは、アイコン買収からわずか2週間後に起きたあの「リーマン・ショック」である。

<2008年〜2011年> リーマン・ショックから立ち直れず、創業以来初のリストラを断行

2008年のリーマン・ショックの凄まじさはまだ覚えている。

日経平均株価が1万2000円台から7000円台まで滝を下るように落ちて行ったが、それはリコーも例外では無かった。

リーマン・ショックが起きる直前までの年間決算予測は売上2兆1500億円、営業利益1500億円と前年に記録した最高益に迫る勢いだった。それがまるで溶けるように崩れ落ちて行った。

社内では1ヶ月毎に決算予測が回ってくるのだが、10月から2月まで1ヶ月毎に200億円ずつ減って行った。最終的には売上は2兆916億円と微減で済んだが、営業利益は745億円と半減、最終利益は65億円と前年の1064億円から1/10以下になってしまった。

リコーは配当で270億円ほどを拠出するので、実質の大赤字である。翌年のボーナスはもちろん雀の涙であり、まさかの入社1年目の自分に負けてしまった。

そこから就任2年目の近藤社長の憂鬱は続く。大不況で皆が節約・緊縮を徹底したため、カラーコピーなんて贅沢はとんでもないと言う空気が蔓延していた。笑い話ではなく、リコー社内でもカラーコピーが制限されたものだ。

売り上げは2兆円を切ったまま回復せず、営業利益もジリジリ下がって行く。このままでは赤字必至になったところで近藤社長が決断したのがリコー創業以来初となるリストラだ。

<2012年〜2013年> ブラック企業と呼ばれたが、リストラが功を奏して業績回復

リストラが行われたのは2011年の秋。半数近い社員が早期退職に応募した部署もあったが、私がいた設計部署は20人ほどいる中で1人か2人が応募する程度だと聞いていた。自分が対象年齢で無かったというのもあって、どこか他人事だった。

しかし、直ぐに私は見通しの甘さを後悔する事になる。私の部署で1名しかいない対象者が、私が新人時代から直属の上司としてお世話になっていたKさんだったのだ。

Kさんは極めて優秀な人であったのだが、当時のバカ課長と折り合いが悪かった。これは噂で聞いた話でしかないが、リコーのリストラはIBMのリストラマニュアルを参考にしていた。

IBMのマニュアルでは人事評価が一定以下の社員を問答無用で退職強要するというものである。リコーの人事評価は7段階(S→A+→A→B+→B→B-→C)であったが、直近の半期の人事評価がCであった人を問答無用でターゲットにしたと言う。

この7段階の人事評価なんて、はっきり言って何の意味も無い。バカな課長が自分の気分で適当につけるだけのものでしか無い。可愛い部下にはB+を付けて昇進させるし、ムカつく部下はB-を付けてなかなか昇進させない。そして、特に年齢の近いベテランで気に食わない人にCを付けて管理職昇格の道を絶つ。(ちなみに7段階と言いながら、なぜかS、A+、Aの3つはほとんどつかない)

僕は常に会社のためを思ってバカ上司に「お前はバカだ」と正直に発言していたので嫌われていたが、まあ仕事はできたので間を取ってBであった。余談だが入社してから辞めるまでの11年間、人事評価はBしか見た事が無い。

Kさんもやはりバカ課長に正論を吐いていたので、嫌われてC評価を貰いリストラ対象になったようだった。Kさんが辞める時、あまりの理不尽さに、悔しさに、寂しさに、悲しさに、人目もはばからず泣きじゃくってしまった。

とまあ一部では理不尽もあったが、リストラは会社全体としては成功だった。

1万人近い人員が削減されたのに仕事の量は全く変わらなかったが、忙しさには何の変わりも無かった。「あれだけの数の社員が、居ても居なくても同じだったんだな」と思った。

それだけ長い年月を掛けて、リコーは贅肉が溜まってしまっていたのだ。

事実、リストラを断行した2011年にはついに営業利益が180億円の赤字になってしまったが、翌年からV字回復。2年後の2013年には営業利益1203億円と、6年振りの1000億円台に戻した。

リストラで評判が悪い近藤社長であるが、それは見当違いの批判

リコーのリストラといえば、はっきり言って世間の評判は悪い。いわゆる「島流し訴訟」で敗北した結果、ブラック企業のレッテルを貼られてしまった

それがそのまま、リストラを断行した近藤社長の悪評判に繋がっている。

だがリコーで働いていた人間として、「リコーがブラック企業とはバカバカしい」としか言いようが無い。

リコーはむしろ「ホワイト過ぎ」でダメな企業だ。どれだけ長時間残業しても残業代は1分単位で完全に支給されるし、午後まるまる昼寝してても怒られないし、そいつが定時後にダラダラ残業しても誰も怒らない。残業が嫌な人は、仕事を断って定時に帰るのも自由だ。有給は取り放題で、申請して却下される事なんて全く無い。遅刻しても「すいません」と謝れば「1時間休」を申請して許される。

何より、リコーの社員には本当に良い人が多い。他の企業から転職された人も口を揃えて「リコーは良い人ばっかり」と言う。そういう優しい空気があるのだ。(ただし、私にパワハラした3人は除く)

島流し訴訟を闘って復職された人には申し訳無いが、その人たちがいなくなって困ったとか、帰って来て良かったなんて話を聞いた事は無い。ちなみに島流し訴訟では、私と同じ特許100件を取得したパテントマスターの人も物流会社に出向させられた、会社に貢献した優秀な社員を軽視していると話題になった。

その方は私が在職中に同じ職場に復職されたはずだが、恐縮だが存じ上げない。私が思う事は、特許を過去に何件出しても今のスキルとは無関係だから評価が低くても仕方が無いと言う事、スキルに自信が有るのに仕事内容に納得がいかないなら私のように転職すれば良い事、そして物流会社の仕事を下に見るような物言いは大変に失礼ではないかという事だ。

あのリストラで労働組合が無いリコーにも、外部にリコーユニオンと言う労働団体が出来た。私は労働組合が嫌でリコーを選んだくらいだし、今だにリストラの恨みつらみを吐き出したり、近藤社長の責任を追及するリコーユニオンの姿勢には全く相入れない。

近藤社長はリーマンショックで苦境に追い込まれたリコーのために、問題は多々あったが創業以来初のリストラを断行し、倒産のピンチから救ってくれた立役者で有る。

では、今回のアイコンの多額の減損処理による大赤字の責任は近藤社長以降の経営陣の責任なのか。

いや、違う。

今のリコーの大赤字の原因になったのは、リコーが決定的に間違えてしまったのは、2013年以降の近藤会長なのだ。

2013年、近藤社長は経営不振の責任を取って6年という異例の短さで社長を交代し、会長に就任した。(社内では、桜井会長が自分の会長の座と引き換えに引きずり下ろしたなんて噂が流れたが)

それからなのだ。それから社長を降りた近藤会長の「有言不実行」こそがリコーを決定的に狂わせて行く・・・

後編へ続く。

参照:リコー・ニュースリリース(3/23)日本経済新聞・3/23毎日新聞・3/23東洋経済オンライン・3/23リコー・ニュースリリース(2008/8/27)REUTERS・2008/8/28REUTERS・2008/9/1Enterprise Watch・2008/8/28リーマン・ショック Wikipediaリコー、社員“島流し”訴訟で敗訴、退職強要の実態露呈~大企業の追い出し部屋に一石



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-経済

author : 宮寺達也



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