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裁量労働制で「定額残業働かせ放題」が心配な人への傾向と対策

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出典:いらすとや

2月28日夜、安倍総理が今国会の目玉であった働き方改革法案から裁量労働制の削除を決めた事がわかった。厚生労働省の調査データに不備が発覚してからピンチに追い込まれていたが、いよいよ安倍総理も断念した形になってしまった。私は前回の記事、

裁量労働制で得する人・損する人

でも書いたように裁量労働制の拡大は女性、若手社員、非正規社員といった現在給与が低く、ポテンシャルを発揮できていない人達に大いにメリットのある制度だと考えている。よってこの延期は残念だ。

しかしあくまで延期されただけであって、議論は終わっていない。なのでこの機会に裁量労働制の問題点もしっかりと考えていきたい。

裁量労働制を批判する人達が揃って口にするのは、「裁量労働制になると、『定額残業働かせ放題』になってしまい、労働者はもっと経営者に搾取されるだけ」というものだ。

私はこの懸念は全く外れているとは思わない。裁量労働制が導入された後には、残業代が貰えないのに過労死レベルの長時間残業を余儀なくされる人は実際に出てくるだろう。

しかし、それは裁量労働制がきっかけであっても原因ではない。どんな人が「定額残業働かせ放題」に気を付けなければいけないのか、どうすれば回避できるのか、傾向と対策を解説したい。

「残業した分、きちんと残業代を支払う」会社ならば、成果に報いてくれるもの

どんな働き方をしている人が裁量労働制で「定額残業働かせ放題」になる危険性があるのか。労働時間と労働スタイルで4つに分けてみた。

図 労働時間ー労働スタイルの関係

まず当たり前ではあるが、右側の現在すでに裁量労働制で働いている人には関係の無い話である。

職種によっては現在でも裁量労働制は認められている。一般の企業でも、管理職は裁量労働制で働いている場合がほとんどだ。私が前に勤めていた事務機器メーカーも管理職(課長代理)以上は、全員残業代が付かない裁量労働制であった。

このような働き方をしている人達は、当然に裁量労働制が拡大されても何の影響も無い。余計なチャチャは入れずに見守っていてください。

「定額残業働かせ放題」になるのではと心配している人が多いのが、やはり現在時給制で働いている人達だろう。特に左上の「たっぷり残業代は貰えているけど、朝から深夜まで働き放題」の人は「残業代だけ無くなって働き放題」になってしまうんじゃないか(矢印の①)と懸念しているのでは。

まずこの矢印の①について考えてみよう。

これは私もかつて体験していた領域である。時給制の下、過労死ライン(月45時間)なんてしったこっちゃないと月80~100時間の残業を毎月のように繰り返していた。そのため月の残業代は30万円にも上っており、基本給と合わせて月額60万円に達していた。給料としては申し分なかった。

裁量労働制になり残業代30万円が無くなって、この労働時間をキープしたまま給料30万円になると確かにやってられない。だが、「残業した分、きちんと残業代を支払う」会社ならば特に問題無い。

人事コンサルタントの城繁幸さんが良く言っている事だが、そもそも「残業代をきちんと払う会社は、予め基本給を抑えて帳尻を合わせている」のだ。

私が前に勤めていた事務機器メーカーも30歳後半で早くに出世して裁量労働制で働いている課長代理の基本給が60万円であった。私は基本給は30万円と全く低かったが、残業代込みで60万円になり追い付いていたのだ。

そう。会社からすれば支払える人件費は決まっているんだから、基本給と残業代は朝三暮四で言う所の「トチの実」を朝3つか、夜4つかの違いでしかない。合計7つという数は変わらない。

なのできちんとした成果を上げながら過労死寸前まで頑張っている人は、裁量労働制になったら残業代が一気に無くなる心配の必要は無い。会社はしっかりと残業代の分を基本給に入れてくれる。もし給料が一気に減ったら、それはあなたが「ダラダラと仕事をしているだけのおじさん」である可能性が大だ。要するに、これまでが分不相応に貰い過ぎだったのだ。

「残業代が惜しいから、部下に残業をさせない」なんて上司は考えない

そして次に心配になるのが、左下の「適度な労働時間で給料も適度」の人は、「適度な給料のまま、残業時間を増やされるのでは」(矢印の②)とか恐れているのだろう。

「これまでは残業代がもったいなくて上司は残業をさせなかったのに、残業代が出ないとわかったら僕にも残業をしろって言って来るんだろうなあ」とでも考えているのだろう。

はっきり言って杞憂である。時給制で残業代が発生しようが、裁量労働制で残業代が発生しまいが、労働時間は変わらない。

ちょっと上司の立場に立って考えて欲しいが、部下が残業したら残業代が発生してもったいないと思うだろうか。全く思わないはずだ、だって自分の金じゃ無いんだもん。

上司が考えるのは1にも2にも、部署で与えられた仕事がきっちりと完了する事である。それが自分の仕事を減らす事にもなり、何よりも自分の評価を上げる事になるからだ。

部下がどれだけ残業しようが、その残業の苦労を味わうのは部下であり、残業代を払うのは会社である。上司は自分の心も体も財布も何も痛まない。上司はどんな制度であろうが、仕事を終わらすためだけに残業を指示するのだ。

私がいた事務機器メーカーで会社全体の残業時間を減らそうと、「午後3時までに必ず課長に残業申請をしてくれ」というお達しがあった。私はどうせ残業するしか無いんだから面倒なので無視していた。けど上司は何も言わなかったし、申請さえすれば必ず承認された。上司にとって部下の残業より、仕事の進捗の方が大事なのである。

さらに上司は仕事が終わった部下にはできるだけ早く帰って欲しいと思っている。

部下が会社に残っていれば、自分も管理責任を問われて残らなければいけなかったり、エアコンとか部屋の施錠とか備品の管理とか気にしなければいけない事が多い。仕事ジャンキーで遅くまで残る事が好きな上司はいても、部下に遅くまで残って欲しいと考えている上司なんていない。

なお「残業し放題になれば、部署の人員を削って少人数の残業で仕事を回そうとするかも」と恐れている人もいるかもしれないが、その心配も無い。上司は部署の人数なんて多ければ多い程良いと思っている。誰かが病気や事故で休んだら仕事が回らなくなるリスクを上げたい上司なんていない。嘘だと思うならば、上司に聞いてみるが良い。4月以降に新人獲得に必死になっている話などを聞かせてくれるだろう。

裁量労働制になっても残業時間は変わらない。「働かせ放題」の犠牲者はノーと言えない正社員

そう。時給制だろうが裁量労働制だろうが、上司が考えるのは今の人員で仕事を遂行する事である。制度が変わっても仕事は同じなんだから、それぞれの労働時間は変わらない。

労働時間は、ただただ会社が請け負った仕事の量と、自分の仕事能力だけで決まるのだ。労働制度なんか関係無い。

それでも「裁量労働制になれば、長時間のサービス残業をさせているブラック企業に歯止めが効かない」とか「強欲な経営者は、残業代が減った分の給料を上げないに違いない」とか反対する意見があるだろう。

だが冷静になって考えて欲しい。

そもそも「長時間のサービス残業」をしているブラック企業の社員は、給料も労働時間も変わらないじゃないか。違法な労働を強いられて唯々諾々とそれに従っている社員は、どんな制度であろうが経営者に食い物にされる存在でしょう。

また裁量労働制になった事をこれ幸いに、残業代をただ削ってしまう経営者もいるかもしれない。これは確かに裁量労働制で起こり得る懸念ではある。でもこれも冷静に考えれば、従業員が納得のいかない給料を提示しているのに、「転職する」「交渉する」という権利を行使せずに唯々諾々と従っている社員がいるという話だ。こんな強欲な経営者と従順な社員では、裁量労働制以外の理由でボーナスなり定期昇給なりを削られてしまうのではないか。

結局は労働時間に対して低い給料なのに、社員が辞めないから経営者がつけあがるのだ。そしてその問題の根本は、池田信夫さんが指摘するように終身雇用・年功序列の日本型雇用で育まれたノーといえない「正社員」の問題である。

会社を辞める気が無いならば足元を見られてどんどん不利な条件を提示され、そして飲むしかなくなる。裁量労働制だろうがなんだろうが「嫌なので辞めます」、この一言で全部が解決するのだ。

なので「定額残業働かせ放題」とは裁量労働制の問題では無く、ノーと言えない正社員の問題なのだ。

もちろん現状で日本型雇用がまだまだ強く、ノーと言えない正社員が多い現状では裁量労働制の拡大によって「定額残業働かせ放題」になってしまう社員が増えるかもしれない。これは確かに悩ましい問題だ。

しかし私はそれでも導入するべきだと思う。

裁量労働制の拡大によって「定額残業働かせ放題」が問題になれば、その根本である日本型雇用にメスが入るかもしれない。現在議論されている働き方改革の中で、唯一そのきっかけになり得るものが裁量労働制の拡大なのだ。

女性、若手、非正規社員といった弱者を踏み台にする日本型雇用を脱却し、海外にも勝てるだけの生産性向上をしなければ少子高齢化の日本はマジで危ないと思うのだ。

参照:裁量労働制、今国会断念へ 安倍晋三首相が働き方改革関連法案からの削除を指示 高プロ制度は維持年収制限のない「定額働かせ放題」ってマジ?働き方改革はドイツに学べ(池田信夫)



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-キャリア

author : 宮寺達也



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