裁量労働制で得する人・損する人 | パテントマスター・宮寺達也のブログ

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裁量労働制で得する人・損する人

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出典:いらすとや

今国会の焦点であり、安倍政権が2016年から推進して来た働き方改革法案がピンチだ。

重要な内容に裁量労働制の拡大があるのだが、厚生労働省が裁量労働制の労働時間を調査したデータに不備が発覚したからだ。安倍総理もミスを陳謝し、そ野党が猛攻撃している。すでに法案提出を4月に先送りするという意見が強まっている。

もっともデータの不備とは「全国の1万1575事業場を労働基準監督官が訪問した聞き取り調査のうち87事業場」であり、全体のわずか0.75%である。こんな些細なミスで多くの労働者にとってプラスになるであろう裁量労働制の拡大が止まってしまうのは残念でならない。

しかし、この裁量労働制を嫌っている人が多いのも確かだ。新宿で「裁量労働制はいらない」「毎日、毎晩残業させるな」とデモが行われたり、延期の動きを歓迎する人も多い。

私は大企業で自ら時給制で働きながら過労死寸前の思いをした事、今はフリーランスとして裁量労働の素晴らしさを実感している事から裁量労働制の拡大には賛成だ。

しかし、裁量労働制で「給料が下がる」「残業時間が増える」と不安を抱えている人も多いだろう。

そんな人たちに、どういう人が裁量労働制で得するのか・損するのかを解説したい。

裁量労働制は優秀な社員に報いて、全体の利益を上げるための制度

まず誤解してはいけないのは、裁量労働制は労働者全員に導入される事は無い。コンビニやスーパーのレジ打ちの仕事、工場でのライン作業、飲食店の接客といった、働いた時間と成果が比例する仕事では導入される事は無い。もちろん今回の法案の対象からも外れている。

裁量労働制とは、時間ではなく成果に応じて給料を決める制度である。そして成果を上げさえすれば、勤務時間など後は自由にしても良い(裁量を与える)というものだ。

裁量労働制の導入を目指しているのは、エンジニア、営業、企画といったホワイトカラーと呼ばれる人々だ。私もエンジニアであるが、こういったホワイトカラーは働いた時間と成果が比例しない。

例えば私は調子の良い時は特許1件を2時間で作成した事があるが、できないエンジニアは1ヶ月掛かっても作成できない。しかし時給制では、私が受け取る報酬は2時間分(4千円強)であるのに、できなかったダメ社員が1ヶ月分(20万円強)貰うのだ。

シンプルに考えてこれはおかしい。

プロ野球を想像してもらえればわかりやすいが、1シーズンを丸々ベンチで過ごして50打数10安打のベテラン選手が給料1億円とする。そして、試合に出て活躍しまくり3割30本30盗塁を達成した選手が、1軍登録「時間」が同じだからという理由で同じ給料1億円だったらおかしいでしょう。

そんな制度を続けていれば、3割30本30盗塁の選手はもっと良い給料を求めてFAで他の球団やメジャーに行ってしまうだろう。裁量労働制とは50打数10安打の選手は年俸1千万円、その分3割30本30盗塁の選手の年俸を2億円にする制度だ。言ってみれば普通の事だ。

給料を下げられたベテラン選手は不満があるかもしれないが、優秀な選手が流出すれば球団はもっと弱くなり観客が激減し、1千万円を貰うどころかクビになってしまうかもしれない。

裁量労働制は頑張ったものにだけ報いる制度では無い。全体のモチベーションを上げて、みんなに報いる制度なのだ。

得する人 : 最も恩恵を受けるのは女性

つまり、裁量労働制で特に特をするのは現在仕事を頑張っていて成果を上げているのになかなか給料が上がらない人たちだ。

特に年功序列・終身雇用の大企業では年齢の高い社員だけが高い時給であり、その他の労働者は冷遇されている。そういう歪んだ中で「働いた時間」にだけ報酬を支払うため、時給が高いおじさんは油断してダラダラと、時給が低い社員は不満を燻らせながらモチベーション低く働いているのだ。

そして時給が低くモチベーションが低い社員とはズバリ、女性、若手社員、非正規社員である。

これを仕事の内容に対して報酬を与える裁量労働制に移行すれば、油断も不満も減り、多くの社員がモチベーション高く働けるだろう。

そんな裁量労働制の恩恵を最も受けるのは女性だ。

どの企業でも女性活躍は進んでいるが、大企業では女性どうしても昇進しにくい。そのため給料も低くなりがちだ。その原因は女性は産休・育休で人事評価が一旦中断されるからだ。大企業では「2年間の人事評価の平均」で昇進・昇級を決める制度が定着しており、途中で中断が入る女性はどうしても不利だ。

女性進出が進んだと言っても、同期の男性に比べて給料や昇進が低いままという女性は圧倒的に多いだろう。

また育休明けで時短勤務を余儀無くされているお母さんも多いはずだ。労働時間が自由にできる裁量労働制では、育児と仕事の両立が圧倒的にやりやすい。

会社は9時始業だが、朝9時に保育園に子どもを送って行って10時から出勤する。それから3時まで4時間集中して働き、仕事を終えて子どもを迎えに行く生活ができる。これまでは時短勤務として給料が抑えられていたが、それをフルタイムの給料が貰えるようになるのだ。

さらに共働きでお父さんも裁量労働制になれば、子供の送り迎えをお父さんもする事ができる。お父さんも10時から出勤して3時で退勤する事ができるようになるからだ。

女性、特に共働きで小さな子どもを持っているお母さんにとってこれほど素晴らしい制度はないだろう。

得する人 : 成果を上げている若手、非正規社員

若手社員も得する人だ。

大企業の年収ランキングなどをみれば、ソニー、パナソニック、キヤノンと誰もが知る大企業が平均年収900万円などと羽振りが良い数字が並んでいる。しかし、これらの企業の新卒採用情報を見ると初任給は23万円と言った程度である。年収に換算すれば300万円ほどであり、平均年収には程遠い。

そう。散々言われている事であるが、大企業では同じ仕事をしていても年齢が低いというだけでびっくりするほど給料が違う。古い技術しか知らず使い物にならないおじさんが倍の給料貰っているなんてあるあるだ。

さっきの特許の例で言えば、さらに格差がスゴい。若手の私が2時間で特許を作成したら4千円だけど、ベテランのおじさんが1ヶ月掛けて作成したら40万円なのである。もちろん私の方が内容も上なのにである。(そもそも特許は早く出願しないと意味が無い)

そして、非正規社員である。

非正規社員(派遣社員、期間限定)と比べると若手社員はまだマシである。いつかは給料が上がるからだ。しかし非正規社員は正社員よりも身分が低いような扱いをされている(本当に嫌だった)事が多く、同じ仕事をしていても時給が低い場合が多い。

また非正規社員は3年、5年で雇い止めされる可能性が高く、そのため重要な仕事を任せて貰えない。どんなに目の前の仕事を頑張ってアピールしても報われる事が無く、自然とモチベーションも下がっていく。

若手社員も非正規社員も仕事の内容に対して報酬を与える裁量労働制に移行すれば、「なんであのおっさんは何の仕事もしていないのに給料が俺らの倍なんだ」という不満も減る。経験者として心から訴えるが、これができれば本当にモチベーションが上がる。

損する人 : 「俺は若い頃にバリバリ働いたから」と油断しているおじさん

当然、損する人は現在仕事に対するやる気をなくしており、何の成果を上げていないのに高い給料を貪っているおじさん社員だ。

あなたたちの周りにもたくさんいるだろう。

1日中誰とも話さずぼーっとPCに向かい合っているだけで、定時になるとふらっと帰るおじさん。誰に聞いても何の仕事をしているかわからない。

管理職になれずに現場のベテランとして働いているんだけど、定時まではボーとして何もしない。定時後になるとようやく重い腰を上げて働き出し、月に100時間以上の残業も厭わないが全然成果が出ていない人。「家に帰らないんですか?」と聞いたら、「家に帰っても居心地悪い。会社の方が気楽だ」とかいうおじさん。

で、「高い給料貰っているんだからもっと仕事してくださいよ」と文句を言ったら、全く悪びれる事なく「俺は若い頃にもう十分、バリバリ働いたから」と返してくるおじさん。

こういうおじさんは上限まで張り付いた時給に基づいて、ネットサーフィンしてようが寝てようが、とにかく会社にいてさえすれば高給をゲットできる。そんなおじさんは今さら時間では無く仕事に報酬が出る裁量労働制は死んでも嫌だろう。

これが新宿でデモしていたり、徹底抗戦の姿勢を貫く連合の支持基盤になっている人たちの正体だろう。

彼らは今の裁量労働制の議論に戦々恐々としているだろう。なのでどこの会社でもこんな声が聞けてくるはずだ。

「裁量労働制が導入されたとしても、俺は定年まで後数年。なんとか逃げ切ったな」

裁量労働制は、むしろ働かないおじさんの老後のためにこそ

しかし、本当に逃げ切る事はできるのだろうか。

すでに定年延長の動きは進んでおり、完全65歳定年の導入は目前である。そもそも年金支給開始年齢も65歳になっているし、60歳を超えても働かなければ生活できない。

さらには少子高齢化に伴う年金財政の悪化から、年金支給開始年齢70歳も待った無しである。その場合、現在「逃げ切った」と安心している50歳後半のおじさんたちはまだ10年、15年と現役で働かなければいけないのだ。

定年後に待っている世界は、どこも60歳超えのおじさんは雇う事すら躊躇する厳しいものだ。それだけ自分の待遇と世間の評価にズレが生じてしまっている。

しかし、仕事の成果に対して報酬が出る裁量労働制ならば年齢は関係無い。その仕事ができさえすれば、若手だろうが女性だろうがおじさんだろうがチャンスは平等だからだ。

現在、戦々恐々としている高給取りのおじさんは、裁量労働制が自分たちのためにこそ必要な制度だと気づいて欲しい。

少子高齢化が進む日本では、これ以上働けない人に魚を与えるのは困難だ。だから、魚の釣り方を学ぶ必要があるのだ。

裁量労働制の拡大は、このままでは魚を貰えないおじさんを救うためにこそある制度である。

参照:働き方法案、提出は4月以降=与党に裁量労働分離論首相、働き方法案の提出遅らせる意向 不適切データ陳謝裁量労働制の国会論戦は与野党ともに論点がずれている池田伸夫blog・2/23数百人がデモ「毎晩、残業させるな」裁量労働拡大に反対



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author : 宮寺達也



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