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最高裁で受信料制度に合憲判決が出たけど、敗訴したNHKの憂鬱

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出典:Wikipedia 日本放送協会

12月6日、注目されていたNHK受信料制度が合憲か否かについての初の最高裁判決が下された。

その判決は、「NHK受信料制度は、国民の知る権利の保障にとって重要な制度であり、合憲である」というものであった。

被告になっていた男性は「放送法の受信契約の強制は、憲法が保障する契約自由の原則に反しており違憲だ」と主張していたが、これが真っ向から否定された形だ。男性はテレビを設置した2006年まで遡って約20万円分の受信料を支払う事になった。

この判決を受けて「受信料徴収に追い風になる」「受信契約を拒否すると、過去まで遡って莫大な受信料を請求される」とNHKにとって有利な判決であるとの意見が多い。

しかし、判決を冷静に分析してみたい。最高裁大法廷の判決は「被告の男性、NHKの双方の上告を棄却する」である。「放送法は違憲だ」と訴えていた男性だけでなく、NHKの主張もまた却下されているのである。

つまり、最高裁判決はNHKにとって敗訴である、とも言える。この判決が与える影響とNHKの憂鬱を考えてみたい。


裁判で争われていた主な論点は3つで、NHKは1勝2敗

今回の裁判で争われていた論点は、主に3つである。判決は最高裁ウェブサイトから見る事ができる。

1. 放送法が定めた受信契約の強制について

被告男性は契約の自由に反しており違憲、NHKは公共の福祉に合致しており合憲だと訴えていた。これは1審・2審も合憲と判断しており、そのまま最高裁も合憲と判断した。

2. 受信契約はいつから成立するか

被告男性は「私が承諾しなければ成立しない。だが敗訴したら成立する」、NHKは「NHKが契約申込書を送って、それが届いたら契約成立」と訴えていた。これは1審・2審からNHKの主張が却下されており、やはり最高裁も「敗訴した時点で成立」と判断した。

3. 受信料の支払い義務はいつからか

被告男性は「敗訴した時点で義務が発生する」、NHKは「テレビを設置した瞬間から発生する」と訴えていた。これは1審・2審からNHKの主張が認められ、やはり最高裁も「テレビを設置した時から」と判断した。

今回の裁判は、受信料制度への初の憲法判断という事で大きく注目されていたが、それは3つある主要な論点の1つでしかない。NHKは契約成立の時期について1審・2審判決に納得しておらず、被告男性だけでなくNHKも上告していたのだ。

そして、被告男性とNHKの両方の訴えが却下されたわけである。

さて、NHKがそれほどまでこだわった「契約成立の時期」が判決確定後になった事で、今後どういう影響があるだろう?

受信料を払いたく無い人にとっては、非常に有利な判決

今回の判決で「受信料徴収にとって追い風だ」という意見があるが、それ自体は間違い無いと思う。

NHKの集金人がやって来て「最高裁で受信料を支払えという判決が出たんですよ。裁判を起こされたら、テレビを設置した時期に遡って何十万円も受信料を支払う事になりますよ。もし今契約してくれたら、今からの受信料だけでOKにしますから」と言われたら、「過去の分も含めて、何十万円も払うよりは良いか」と契約を結ぶ人も多いだろう。

しかし、NHKの放送内容、経営体制、受信料制度を批判しており、確信犯で受信契約を結ばない人にとってはダメージどころか追い風になる判決だ。

そんな確信犯の立場に立って、今回の判決を考えてみよう。なお過去・未来の期間は10年とする。NHKの受信料は月額1,260円なので、10年分の受信料は15万1200円である。

○受信契約を結ぶ

→過去に遡っての支払いは拒否し、受信料を現時点から支払う(今後の受信料=15万円)

→過去に遡っての支払いは拒否し、裁判を起こされる(過去の受信料+今後の受信料=30万円)

○受信契約を断固拒否し続ける

→裁判を起こされない → 受信料を1円も支払わずに済む(0円)

→裁判を起こされる → 受信料を満額支払う(過去の受信料+今後の受信料=30万円)

さて、受信契約を結ぶ場合と拒否する場合、期待値が低いのはどれであろうか。

受信契約を結ぶ場合、集金人に「過去は無視して、今後の受信料だけで良いか」と告げるとほぼOKになるだろう。もし集金人が過去に遡って払ってくれと訴えた場合、「過去まで遡るなら、拒否する」と言えば、集金人はNHKが裁判を起こすのを待つしかない。

なお、NHK受信料の未払い世帯は900万以上とされるが、過去に起こした裁判は4千件程度である。裁判を起こされる確率は0.044%である。非常に低い確率だ。

集金人もそこまでのリスクを冒して今後も未払いになるくらいなら、今からの支払いでOKするだろう。つまり受信契約を結ぶ場合の支払額の期待値は、裁判のリスクを織り込んでも15万円のままだ。

さて、断固拒否し続ける場合だ。やはり、裁判を起こされる確率は0.044%と非常に低い。

裁判を起こされた場合は確実に負ける事になったので30万円の支払いが発生するが、確率が低いのでその期待値は133円である。もちろん裁判を起こされない場合は0円で済む。つまり、受信契約を拒否する場合の支払額の期待値は、裁判のリスクを織り込んでも133円と非常に低い。

こう考えると、裁判を起きる確率が非常に低い事、また滞納額もそれほど大きく無い事、違反金などが加算されない事を見越して、受信契約を断固拒否した方がメリットが大きい事がわかる。

実際、NHKも900万世帯に裁判をするのは非現実的だ。裁判の結果、何千万円も返ってくるなら話は別だが10年滞納しても15万円である。裁判費用の方が上回り、採算が取れないだろう。

最高裁で受信契約強制には合憲の判決が出たが、契約成立に裁判が必須になったため受信契約を強制的に結ばせる難易度は全く変わっていない。だからこそ、NHKはこの事態を恐れて「契約成立の時期」にこだわり最高裁まで争ったのだ。

そのNHKの主張が通らなかった事は、まさにNHKにとって敗訴である。

受信料トラブルはまだまだ続く。NHKはスクランブル化するしかない

そもそも、今回の裁判では被告の男性が「2006年3月からテレビを設置した事」を認めている。「8年で20万円の受信料」という額からも、衛星放送を利用しており、アンテナの存在もしくはB-CASカードの登録でNHK側にも設置が発覚したものと思われる。

しかし通常の地上波放送の場合、「テレビを持っていません」と主張されたらNHK側がそれを証明するのは困難だ。事実、裁判を起こされているのはB-CASカードの番号をNHKに通知した「テレビを持っていると宣言した」人だけで、さらにその1%だけという話もある。

NHKへの受信料を断固拒否する人にとっては、「放送法は憲法違反」という反論の1つが無くなっただけである。むしろ、NHKがわざわざ裁判を起こさないと支払いを強制できなくなった事が確定した事は朗報である。

さらに「テレビを持っていない」と嘘をつかれたら、NHKが裁判を起こす事自体が非常に難しい。

今回の最高裁判決で放送法が合憲と認定されたが、そもそも放送法を根拠に契約をお願いしていた前提が変わる訳では無い。「裁判を起こしたら必ずNHKが勝ちます」は多少の追い風だが、「裁判を起こさないと契約できない」事は費用対効果を考えると圧倒的マイナスだ。

今回の裁判一つだけを見れば、NHKは受信料を過去まで遡って満額徴収できるので完全勝訴だ。しかし、今後の影響を考えれば敗訴と言っても良い。

やはり、デジタル放送が始まり、ネット同時中継も議論されている2017年に受信料制度は古すぎるのだ。NHKはスクランブル化して、契約を結んだ人だけが視聴できるようにすれば良い。災害放送などはスクランブルを外せば良いだけではないか。前にも書いたが、そんなに受信料収入は下がらない(https://tmiyadera.com/blog/746.html)。

また受信料制度に批判が起きるのは、NHKの番組が「公共の福祉」「知る権利」に即していないのではと思う人が大勢いるからだ。報道番組は良いが、視聴率を気にしてばかりの朝ドラ、大河ドラマ、果てはジャニーズ事務所に忖度しまくりの紅白歌合戦を受信料で放送する意味があるのか。

ジャニーズ事務所の脅しに屈せず元スマップのメンバーを呼ぶとか、視聴率を気にせず無名の新人俳優、女優にチャンスを与えるとか、低予算で苦しむアニメ制作会社に多額の予算を提供するとか、そういう取り組みをしてこそ「公共の福祉」「知る権利」に即したNHKの在り方だと思う。

参照:産経新聞・12/6朝日新聞・12/6毎日新聞・12/7弁護士ドットコムYahooニュース個人

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author : 宮寺達也

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