エネルギー

トヨタは次世代EV電池の開発より、充電ネットワークに注力を

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出典:TOYOTA MIRAI

次世代自動車の本命と目されているEVだが、現在世界を席巻している日本自動車メーカーがそこでも覇権を握れるかは怪しい情勢だ。

日産は一早くEVにシフトし、電気自動車リーフを中心にEV業界をリードしている。しかし、検査不正が発覚し、会社がピンチである。三菱はPHV、マツダは新型ガソリンエンジンと、日本自動車メーカーのEV開発は遅れ気味ではと心配している人も多いだろう。

私は「ガソリン車はガラパゴス化したくてもできない」でも書いたように、EVに不可欠なリチウムの埋蔵量に限りがある事からEVの生産台数は年間200万台、世界シェアの2%が限界であると考えている。自動車の主流は変わらずガソリン車だ。

しかし、2016年の世界市場が50万台弱なので、成長市場であるのは間違いない。また、非在来型のリチウム採掘技術が確立すれば前提は大きく変わる。日本自動車メーカーにはしっかりとEV開発の準備をしていて欲しい。

そんな中、トップメーカーのトヨタの動きが鈍い。FCV(水素自動車)のMIRAIは販売しているが、EVはまだだ。大丈夫なのかと心配の声が上がる中、トヨタは東京モーターショーで「次世代バッテリー技術である全固体電池を開発している」と発表し、EVでも勝利する自信を見せた。

しかし、私は心配である。EV市場の勝者を決めるのはバッテリーの性能ではない。充電ネットワークのデファクトスタンダードを握れるかどうかだからだ。


トヨタが開発する全固体電池は将来有望

全固体電池とは聞き慣れない人が多いと思うが、スマホやPCに使われているリチウムバッテリーと同じ、リチウムイオン電池である。

違うのは、今のリチウムバッテリーがリチウムイオンを運ぶ電解質に有機溶媒やリチウム塩といった「液体」を使うのに対して、全固体電池はガラスやセラミックスといった「固体」を使うことである。

ものすごくざっくりと例えると、今のリチウムバッテリーはコップに2本の鉄の棒を刺して、レモン果汁を満たした構造である。理科の実験でやった記憶があるだろう。

全固体電池は、コップに2本の鉄の棒を刺すのは同じだが、コップの中をガラスのような固体で埋めてしまうのだ。通常の固体は内部でイオン(電荷を帯びた原子)が動けないが、近年の研究によってリチウムイオンが移動できる固体が見つかったのである。

全固体電池は、液体のリチウムバッテリーよりメリットが多い。「コップの中の果汁が溢れる」心配が無いので、液漏れによる発火事故の可能性がグッと下がる。

また、実はリチウム電池は1個では3.6V程度しか電圧が出ない。EV用バッテリーは300~400V必要なので、内部で直列に100個近くを並べる必要があるのだ。液体バッテリーの場合は液が漏れたらダメなので、コップのようにしっかりと壁面を作って並べる必要がある。しかし固体の場合、薄い区切りだけでどんどん重ねていく事ができる。そのため小型化できるのだ。

実際に全固体電池が実用化すれば、バッテリーの小型化、さらなる大容量で走行距離を延長などメリットだらけである。全固体電池そのものは瞬く間に普及するだろう。しかし、EVの普及はそれまで待ってくれているのだろうか?

別に全固体電池が無くてもEVは困らない

全固体電池の量産は2025年ごろと言われている。テスらのCEOには「アンドロメダ星雲への瞬間移動のように口では何とでも言える」と一笑されているが、私は実現の可能性はあると思う。

しかし、それまでにEVは世界的に普及し、勝ち組・負け組が決まってしまっているだろう。そんな時期にトヨタが「凄いバッテリーが出来たぞ。さあ、トヨタのEVを買ってくれ」と言ったら、消費者は飛びつくだろうか。「別にバッテリーには困ってないし」となっている気がする。

そう。その頃にはEVのボトルネックは「走行距離」より「充電時間」になっているだろう。これ以上バッテリー容量が増えても充電する時間が全然足りなく、宝の持ち腐れになってしまうからだ。

日産の新型EV「リーフ」の充電スペックを見てみよう。40kWhの大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離は400kmだ。これでもまだ低燃費ガソリン車と同じくらいであり、プリウスのような700~800km走るHV車には到底叶わない。

しかし、現状のバッテリー容量で既に充電時間が大問題なのだ。リーフの充電は、家で充電した場合100V電源だと16時間掛かる。夜8時に帰宅して直ぐに充電し、朝8時に家を出ようとしたらまだ終わっていないのだ。これは電流の上限が30Aであるため、どうしようもない。

<リーフの充電方程式> 3kW(100V × 30A) × 16h × 効率83% = 40kWh

決められた以上の電流が流れた場合ブレーカーが落ちるように、30A以上に電流を上げるのは危険すぎる。家庭ではまず不可能だ。なので、この方程式は変えられない。

もちろん電気会社と特別な契約をし、200V× 30Aの6kW充電で時間短縮も可能ではある。だが、それができるのは裕福な一軒家に限られる。普及のハードルは高い。

そして専用の急速充電器を用いても、40kWhのバッテリーを充電するのには40分掛かるのである。うっかりガス欠になってガソリンスタンドで40分待たされると想像して欲しい。とても耐えられない。

全固体電池が量産してバッテリー容量が2倍の80kWhを実現し、走行距離がプリウス並みの800kmになったとしても、そのバッテリーをフルに充電させる時間は長すぎる。

バッテリー容量の拡大は確かに魅力的であるが、現在の充電ネットワークでは、そのスペックをフルに発揮できない。EVに大事なのは、「1回の充電でどこまで走れるか」ではなく、「こまめに、簡単に充電できる事」なのだ。

充電ネットワーク戦争の勝者こそ、EV戦争の勝者

私が「EVの最大の問題はバッテリーじゃない」で書いたように、EVの勝敗を決めるのは充電ネットワークだ。

充電ネットワーク戦争には、日本と欧米で争っているCHAdeMO(チャデモ)とコンボのような、急速充電の規格争いも含まれる。だが、私はこの規格争いにはあまり意味が無いと思っている。

世間ではWindowsとMacのようなOS戦争の再現であり、充電規格に負けるとEV市場で敗北するとの危機感がある。だが、元エレキエンジニアとして電源設計を見てきた者として、充電規格の違いは残ったままになると思っている。国ごとに違う充電ユニットを搭載して出荷したり、両方に対応できる充電ユニットを開発したりして、複数の規格に対応してしまうと思っている。

そう、ドコモ・ソフトバンクのW-CDMA方式とauのCDMA2000方式で対立した3G通信のようになるのでは。iPhone 3Gが出た時、W-CDMA方式にだけ対応していたのでauでは販売できなかった。だが、後のiPhone 4SはCDMA2000にも対応して、auでも販売できるようになった。そんなように。

なので、私が思う充電ネットワーク戦争とは充電規格だけではない。ありとあらゆる充電設備システムのライセンスを支配するという事である。

例えば、iPhone Xにも搭載されるワイヤレス充電技術。駐車場や高速道路、果てはトンネルの壁などにワイヤレス充電設備を仕込み、自動車がそこを走るだけで気がついたら充電できている仕組みだ。

このワイヤレス充電の課題は設備だけでは無い。どこからどれだけ充電したかをきちんと把握し、それを支払うクレジットシステムの整備が重要だ。Felicaのような非接触型電子マネーや、ビットコインのような仮想通貨が大いに役立つだろう。

また、急速充電設備をそれこそどこに行っても、駐車スペースに止めたら1つはあるように圧倒的に普及させる事だ。これには物量の問題ではなく、電力インフラの整備が課題になる。急速充電設備は6万W(200V・300A)を必要とするので、電線から見直さないと大量に配置できない。

さらに電力が圧倒的に消費されるので、既存の原子力発電所の再稼働といった、電力供給のパワーアップも必要だ。

こういった充電ネットワークを整備して、その充電システムや課金システムのライセンス(製造権、販売権、使用権)を押さえ、ライセンス収入を抑えたメーカーこそ、EV戦争の真の勝者になるのでは。

EVは言うほど簡単では無いが、ガソリン車よりも確実に製造のハードルは下がる。中国のBYDのような新興メーカーがどんどん出てくるだろう。

トヨタを中心とした日本自動車メーカーは、EVの製造競争という従来の延長の戦いを挑むだけではなく、BYDのような新興メーカーからライセンス収入をぶんどってやるくらいの戦略で挑んで欲しい。

少なくとも、FCV(水素自動車)にはとてもそんなポテンシャルは感じない。できるだけ早く撤退の決断をして欲しいと思う。

参照:REUTERS・10/31モータファンテック・8/11THE PAGE・9/28ケータイWatch・2015/10/13日本経済新聞・10/30「全固体電池の最前線」Wikipedia リチウムイオン二次電池日本経済新聞・3/27WEDGE Infinity・8/22

-エネルギー

author : 宮寺達也

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