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遅れに遅れている豊洲市場移転だが、当初の予定より2年遅れになる2018年10月を目処に関係各所が動き出している。
しかし、そんな2年遅れの移転すら困難になる大ピンチが発生している。豊洲市場の土壌汚染対策に関する追加工事で、次々に入札が不調になっているのだ。
10月30日に5件の開札があったが、入札を辞退したり、入札価格が東京都の上限を上回っていたりとほとんど成立せず。成立したのは1件だけだった。他にも追加工事は4件の入札があるが、これは手続きが中断しており成立の目処が立っていない。
追加工事は豊洲市場移転の前提になっているため、このまま工事開始が遅れると、2018年10月を目処にしている豊洲市場移転がさらに延期になってしまう。
東京都といえば、7兆円という国家レベルの予算を持っている。なのになぜ、こんなに東京都への工事を請け負おうという業者が出てこないのか?
この原因は、今年の6月に小池知事が実施した入札制度の「改悪」にある。
批判の対象になっていた「1者入札99.9%落札」とは?
上山信一特別顧問が中心になり検討し、小池都知事が実施した入札制度改革は、主に2つの狙いがある。それが、
・1者入札を中止する。原則として入札希望者が1者の場合は入札を中止する
・予定価格の事前公表を廃止し、事後公表とする。落札率99.9%をなくす
である。
東京都の公共事業では、「1者入札99.9%落札」が多すぎる、都議会や都庁が業者と癒着しているんじゃ無いか、と批判の的になってきた。
ここで説明すると、1者入札とは「複数の業者を対象に入札を行なったが、実際に入札に応募した業者が1者だけだった」という事である。
99.9%落札とは、「予定価格(東京都が出せる予算の上限額)とほぼ同額、上限額いっぱいで入札が成立した」という事である。
以前の東京都では、予定価格を事前公表していた。そのため、高値で落札したい業者は予定価格とほぼ同額で入札するわけである。もちろん、それよりも安く入札する企業がいれば、そちらが落札する。
しかし、予定価格とほぼ同額で入札した業者が1者しかいないケースがあると、その1者がほぼ満額で落札する。これが東京都の公共事業では9.4%存在するため、工事費も高くなり、「都議会、都庁と業者の癒着じゃ無いのか」と批判されてきたわけである。
しかし、豊洲市場の追加工事の入札の結果が示しているように、そもそも1者でも入札してくれるという事がどれほど大変な事であるのか。上山顧問、小池都知事は全く理解していなかったように思う。
「1者入札」「落札率99.9%」を安易に悪と断じた入札制度改革
まず「1者入札」は悪なのか。
東京都が恣意的に、入札できる会社を特定の1者だけと決めていたら問題である。それは事実上の随意契約だ。しかし、東京都のこれまでの入札は広く門戸を開いており、何者でも入札して良かった。
それでも1者しか入札しなかったのは、例えば、豊洲市場のような最新設備だったり、地下水管理システムのような高度な設備だったりと、他に実施できる業者がいないからである。例えば鹿島、大成建設といった大手のゼネコンに限定されてしまう。
入札について詳しい方のブログから引用させていただくと、
「入札」という意味は、入札公告などの公開手続を経て、誰でもが公平に入札に参加できる「競争の機会を確保」することです。
競争社会では、価格競争だけでなく、技術力も競争に含まれます。
仕様書の条件が厳しければ、その厳しい条件に入れるよう努力する必要があります。仕様書が厳しいということは、その時点で技術競争に負けているのです。
との事である。地下水管理システムのような既存の設備を改修するには、設計仕様をしっかりと理解している最初に建設した業者でなければ難しい。複数の業者が入札に応じないのは当然と言えるだろう。
そして、次に「落札率99.9%」である。
これは良く東京都が不正をしている証拠として上げられる数字であるが、まず「99.9%」の意味を勘違いしている気がする。批判している人は、「99.9%の落札を、特定の業者が占めている」というような全く競争が働いていない事のように思っているようだが、違う。
落札率99.9%とは、「東京都が事前に公表していた上限価格」とほぼ同額で落札した場合である。事前に分かっていた金額で入札しただけなんだから、何の問題があろうか。
しかも、公共事業全体の中では9.4%の比率であり、ほとんどは上限価格以下で落札されているのだ。それよりも安い価格で落札した業者が無かったという事は、それ以下の価格では利益が出ないという事である。
東京都の「1者入札」「落札率99.9%」は、業者の技術力に対して競争を促し、適正な価格を事前に公表する事で成立していた、東京都のノウハウが詰まった方式である。
これをただ表面の数字だけを見て「悪」と断じた結果が、豊洲市場移転が大ピンチという現状である。
随意契約で追加工事か、追加工事の中止を
豊洲市場の追加工事の入札では、入札制度「改悪」の影響がモロに出てしまった。
水産卸売場棟地下の床へのコンクリート敷設工事では、2回に渡って入札がゼロであったが、3回目で予定価格を事前公表するという元のやり方に戻した結果、成立した。
地下空間に換気設備する工事では、公表しなかったため入札額が予定価格を上回り、不成立になった。
これらの不成立は、元のやり方(1者入札OK、事前公表)ならばもっと早く成立したはずだ。時間だけを無駄にしたというわけだ。
もちろん。この入札制度「改悪」には批判があった。自民党は抗議の見解を出しているし、川松都議も「都政改革か都政最悪か」と懸念を呈していた。
そんな意見を無視し、小池都知事を盲信したのが都民ファーストの会である。そして、都民ファーストの会は都議選で躍進し、入札制度「改悪」は見直されていない。
その結果、豊洲市場の追加工事が大ピンチになり、豊洲市場移転がさらなる遅れを出そうとしている。オリンピックまで1000日を切った現在、オリンピック実現のためには豊洲市場移転と環状2号線整備は喫緊の課題である。
そう、豊洲市場移転には全く時間が残されていない。そんな中で時間を浪費する事は数千億円の損失になる。この損失は小池都知事を、都民ファーストの会を支持した都民が負担するのだ。
まあ、その反省は衆議院選挙で示された気もするが、とにかく時間が無い。小池都知事は入札制度改革の失敗を認めて、今からでも追加工事は随意契約を結ぶべきだ。
もちろん、工事費用は東京都が希望している価格よりは上がるだろう。これも都民が負担する事になるが、これも民主主義のコストだ。少なくともこのまま追加工事が延期するよりは遥かに小さい額である。
あと、どうせ元から不要な追加工事だったのだから、今からでも「リセット」するのも良い手だ。その場合、小池都知事の安全宣言と築地の業者への説得が必要になるが、コストは全く掛からない素晴らしい案だ。しかし、全く実現する可能性を感じないのはなぜだろう・・・
参照:日本経済新聞・10/30、日本経済新聞・10/23、日本経済新聞・6/25、毎日新聞・10/28(https://mainichi.jp/articles/20171028/ddl/k13/010/182000c)、東京都・「入札契約制度改革の実施方針」