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大企業を“うつ病製造装置”にする「2年縛り人事制度」

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出典:写真AC

牧野さんの記事「上場企業を“うつ病製造装置”にする予算制度」を読んで、「これは私の会社のことか?」と思った人は多いだろう。今年まで私が勤務していた大手事務機器メーカーでも、一年中「目標達成のための緊急対策チーム」が稼働していた。「緊急だから」という言葉を盾に現場の足を引張り、多大なストレスの原因だった。

ただ、私は大企業で働く人の心を蝕んでいる原因は「予算制度」だけでなく、もう一つの大きな原因があると考える。

それが「2年縛り人事制度」である。


2年縛り人事制度とは?

多くの大企業では、「一般職→主任→係長→課長代理→課長」という流れで昇進する。そして、昇進の指標になるのが「直近2年間の人事評価点の平均」である。

人事評価点とは、半年毎に付けられる「S→A→B+→B→B-→C→D」といった7段階程度の点数である。この評価点は目標管理制度と呼ばれるシステムで採点する。

この「2年間続けて高い評価を上げると昇進できる制度」が、「2年縛り人事制度」である。

目標管理制度だけでも十分に駄目な制度であるが、これに「2年間続けて高い評価」という縛りが加わることで加速的に駄目になってしまう。

ここがダメだよ2年縛り人事制度

その1 「詐欺師」ほど評価される

目標管理制度では、まず期初に社員が課長に対して今期の目標を宣言する。「コストを10%削減します」「特許を1件出願します」と言った具合だ。

そして期末に実績を報告する。「コストを10%削減目標に対して、実績は5%でした」「特許を1件出願目標に対して、1件出願しました」と言った具合だ。

このとき「目標を控えめに、実績を誇大に」主張した社員ほど高い評価になる。プロ野球ならば「今期の目標は20勝です、実績は18勝でした」という投手より、「今期の目標は1勝です、実績は5勝でした」という投手の評価が高くなるのだ。

「流石にそこまで成果が違えばわかってくれるだろう」と思う人がいるかもしれないが、大企業の人事のレベルの低さを舐めてはいけない。

実際、私は「特許を半年で10件書きます、実績は9件でした」という驚異的な実績(部署の平均は半年で0.5件/人)を出した期に、「目標を下回った」ということでB評価をいただいた。なお、1件だけ出した先輩は「目標達成」とB+評価をもらった。

こんな目標管理制度では、「必ずできること」だけを目標にし、期末には実績を盛り盛りする資料作りに勤しむ詐欺師だけが評価され、出世する。

こんな制度で、誰が野心的なチャレンジをする気になるだろうか?

その2 2年縛りでさらに消極的に

昇進は半年毎の目標管理制度の評価点を2年間(4期)平均した結果で決まる。これが社員の消極性を加速させる。

私が勤めていたメーカーの場合は、例えば、2016年冬の昇進試験を受ける人は2014・2015年の2年間の人事評価で判断される。しかも、2016年の昇進試験に落ちる可能性があるので、2017年の昇進試験を考慮し、2014・2015・2016年と3年間の人事評価を高く保つ必要がある。

つまり、昇進を目指す人は3年間続けて「目標を控えめに」するインセンティブが働く。また、部下を評価する課長も昇進試験に受かって欲しいと思っているため、3年間続けて「評価を甘くする」インセンティブが発生する。こうやって努力しなくても高い評価点を貰え続けるため、「己を磨いて高い成果を出す」モチベーションは消失する。

そして、この間に昇進予備軍のモチベーションも奪っていく。評価点は相対評価であり、昇進試験組が高い評価を受けている間は、後輩の昇進予備軍はどんなに成果を出しても低い評価に甘んじる。先輩が昇進試験に落ちたら、なお酷い。

私の場合、一年先輩が2011年の係長への昇進試験に落ちたため、2009・2010・2011年と3年間、極めて高い成果を残していたにもかかわらず、評価点は悲惨なものであった。

「以前は優秀だったのに、昇進したらダメになった」という人は、誰でも思い浮かぶだろう。その根本が2年縛りなのだ。

その3 2年縛りだけど、いつでもリセット

2年縛り人事制度では「直近の連続した2年間」で評価される。3期連続で高い評価を出したとしても、最後の4期目で低い評価になると昇進試験の対象から外され、また最初からやり直しになる。

この「評価のリセット」が社員のモチベーションを下げ、メンタルヘルスを悪化させる多大な原因になっている。

例えば、3期連続で高評価を貰っているが長時間労働でストレスを抱え、軽度のメンタルヘルス悪化を抱えた人がいる。この人はこの時点で3ヶ月程休職して、メンタルクリニックに通えば正常に復帰できる可能性が高い。しかし、休職すれば次の昇進のチャンスは3年後になるから無理をする。上司も部下の昇進のチャンスを逃せば、自分の評価が下がる上、「年功序列で順番待ち」している同世代の社員の処遇に苦しむので、「もうちょっと頑張ろう」と声を掛ける。そうして、取り返しのつかないレベルまでメンタルヘルスが悪化し、うつ病にまで発展する。

また、評価のリセットは休職以外でも発生する。

例えば、人事異動で部署が変わればリセットされる。そのため、社内で野心的なプロジェクトを進めるべくメンバーを公募しても、みんな評価のリセットを恐れて応募しない。

さらには、女性の産休や育休でもリセットされる。優秀な女性やイクメンが不当に低い評価になるため、いつまでも女性活躍が進まない原因になっている。

もちろん上司に歯向かってもリセットされるので、正論を言う気骨ある企業人は出世できない。

つくづく、「2年縛り人事制度」は携帯キャリアもびっくりの酷い制度だ。

なぜ2年縛り人事制度が存在するのか?

「2年縛り人事制度」にはデメリットしか無く、またこれは大企業で働く人はみんなわかっている。では、なぜ21世紀にこんな理不尽な制度がまかり通っているのか?

その理由は「人事部」の存在だ。

・人事部は現場を知らないので、社員の成果だけを見ても判断できない。だから、目標管理制度で目標と実績の差分を出させ、判断しやすいようにする。

・人事部は現場を知らないので、高い成果を出した人材がどんな人か全く知らず、1期の評価だけでは昇進に値するかどうか全く判断できない。そのため、2年連続にこだわる。

・人事部は「年功序列」の秩序維持のために、「降格」をできるだけ避けたい。そのため、昇進しても安定して成果を出せる人材を好み、2年連続にこだわる。

・では「現場の判断で、1期ごとの成果で昇進・降格を決めれば良い」となると、そもそも人事部という存在が不要になってしまう。人事部の保身のため、昇進・降格の権限は現場に渡さない。

2年縛り人事制度を無くすために

このように、人事部という存在によって理不尽な人事制度が存続している。つまり、人事部が社員をうつ病に追い込んでいると言っても過言では無い。

なので、今回の提案はシンプルだ。

人事部は採用に専念し、昇進・降格の権限を現場に移譲せよ!

しかしながら、長年の「2年縛り人事制度」の結果、大企業の課長以上のポジションは消極的だがプレゼンだけは上手い詐欺師で溢れている。そのため、人事制度の権限移譲が実現できても効果が出るのは5年、10年と言った時間がかかるだろう。

今、現場で汗を流している社員がメンタルヘルスを維持するためには、「昇進」という仮初めの希望を捨てることだ。会社ので役職なぞ、一度外に出れば何の意味も無い。そんな幻想にこだわるより、自分のスキルを磨くことに専念して欲しい。


※この記事は、2016年11月06日にアゴラに投稿・掲載された記事を再掲したものになります。

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author : 宮寺達也

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