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アマゾンを屈服させたヤマト運輸のテクノロジー

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出典:Wikipedia ヤマト運輸

ヤマト運輸で従業員のサービス残業が問題になるなどして、あまりもの荷物の多さに音を上げたのが今年3月の事である。それからヤマト運輸は宅配便の基本運賃引き上げを発表し、最大顧客であるアマゾンジャパンと値上げ交渉に入った。

この時、多くの意見はアマゾンは値上げ交渉に応じないだろうというものだった。送料無料はアマゾンを象徴するサービスである。ジャスパー・チャン社長は2月に「送料無料は大事なサービスで値上げする予定はない」と語っていた。

値上げを否定する意見の多くは「アマゾンは値上げするくらいなら、IT技術を使って最先端の自社宅配網を構築する。全国の宅配業者がアマゾンの宅配網に参加し、サービス残業とかしてるヤマト運輸は潰れるんじゃね?」などと、ロートル企業のヤマト運輸は最先端のIT企業であるアマゾンには敵わないだろうというものであった。

しかし、私は「アマゾンはヤマト運輸の値上げを断れない」という記事を書き、「アマゾンは値上げに応じざるを得ないだろう」と予測した。

そうして半年後、9月28日に「4割の値上げでヤマト運輸とアマゾンが合意」と報道された。もちろん100%の自信が有ったわけでは無いが、きちんと分析した甲斐があったものだ。

さて、なぜアマゾンは値上げ交渉に折れたのか。ヤマト運輸の持つテクノロジーを中心に解説したい。


アマゾンが見誤ったデリバリープロバイダ

アマゾンは、ヤマト運輸が値上げを求めてきた直後は大方の予想通りに、他の宅配業者を活用して送料無料を維持しようとした。もちろんヤマト運輸に頼るわけにはいかないので、TMG、SBS即配サポート、札幌通運、ファイズ、丸和運輸機関という5社に配送を業務委託した。

これらの5社の宅配業者は「デリバリープロバイダ」とアマゾンに登録されていた。ヤマト運輸や佐川急便と比較して規模も知名度も大きく落ちる、中小の業者である。恐らくだがアマゾンはデリバリープロバイダに業務委託しながら、複数の宅配業社を効率良く運用できる最先端の宅配用ITシステムを準備していたのではと思う。

そうして、デリバリープロバイダの宅配が軌道に乗ればどんどん他の中小の宅配業社にも参画してもらい、いずれはヤマト運輸にも匹敵する宅配網を全国レベルで整備するつもりだったのでは。

しかし、その計画はあっさりと頓挫してしまう。

デリバリープロバイダが配送する商品が配送予定日に届かなかったり、当日配送なのに1,2日遅れて配送されたり、配送ステータスは不在で持ち帰りであるのに不在票が入っていなかったり、とトラブル続きでアマゾンユーザーから大量の苦情が入る羽目になってしまった。

ネットでは「配送時にヤマト運輸、日本郵便を指定する方法教えます!」なんて情報が出回ったりもして、ヤマト運輸の配送品質が再評価されていた。

私自身もアルバイトをした事があるのでわかるが、宅配サービスは本当にしんどい仕事である。どんなに効率的なシステムであったとしても、単純に荷物が増えればどうしようもない。ヤマト運輸が当日配送から撤退したため、荷物が増えたデリバリープロバイダが悲鳴を上げるのは当然であった。

年間2億5千万個のアマゾンの荷物をさばいてきたヤマト運輸のテクノロジー

ではなぜちょっと荷物が増えただけで悲鳴を上げたデリバリープロバイダと違って、ヤマト運輸はこれまでしっかりと配送を実現していたのか?

それはシンプルにヤマト運輸の持つ人材、ネットワーク、テクノロジーが優れているからである。

ヤマト運輸は全国に社員数16万1,081名、宅配営業所6,444個を有する、巨大なネットワークを有している。セブンイレブンの店舗数が1万9千ほどなので、1/3といった所だ。どこにでもあるというのは流石に無理だが、各市町村に確実に1つ以上存在する。

業界第2位の佐川急便の営業所の数が425個なので圧倒的だ。この営業所が多い事で、ドライバーは配送で回る範囲が少なくなり、効率良く、また品質の高い配送を実現できている。

さらに、ITシステムの導入にも積極的だ。

ネットで指定すれば事前に受け取り日時を変更できるサービスや、平日に届く荷物を自動で休日に届くように設定できるMyカレンダーサービスLINEで配達状況の確認や受け取り日時の変更をできるサービスなど、ヤマト運輸とユーザーの両方が得をする様々なITサービスが用意されている。

また、羽田クロノゲートのように、最先端の荷物仕分けシステムを導入した物流ターミナルも導入されている。

この羽田クロノゲートは一般客でも見学が可能なので、機会がある方は是非行って欲しい。全自動で高速にダンボールが仕分けられている姿は圧巻だ。私も見学に行ったのだが、学生時代にバイトした西宮ターミナルでの手動仕分けとのあまりもの差に愕然としてしまった。

荷物の配送は、情報のように簡単に圧縮も移動もできない。ヤマト運輸が培ってきたテクノロジーはアマゾンが委託する年間2億5千万個の荷物を受け入れを可能にしていたのだ。このテクノロジーはアマゾンにも簡単に真似ができるものでは無い。

値上げは1.4倍で決着したが、まだまだ予断を許さない

前回の記事に書いたように、ヤマト運輸は現在年間で約18億個もの荷物を扱っており、流石にキャパオーバーの状態が続いている。ヤマト運輸にとっては荷物が減った方がありがたいくらいなので、アマゾンとの値上げ交渉は失うものがないどころか、得るものしかない交渉だった。

その結果、私が「ヤマト運輸とアマゾンの値上げ交渉は、選択肢の無いアマゾンが圧倒的不利である。アマゾンは値上げに応じざるを得ないだろう」と予想した通り、アマゾンは単価280円から400円台という1.4倍の大幅値上げに応じたのだ。

しかし、まだ予断は許さない。

ヤマト運輸は10月1日に宅配便の個人向け料金も値上げし、さらには全体の荷物数を減らす「総量抑制」も継続する。まだまだ「楽になったから、アマゾンもっと荷物持って来い」という状況にはならない。

むしろ「まだしんどいから、もっと値上げして良い?」となるかも知れない。

そもそもアマゾンジャパンの送料無料はかなりお得な価格設定だ。年会費3,900円のアマゾンプライムに入会すれば無条件で送料無料を受けれる。だが、例えばアメリカのアマゾンプライム年会費は99$(1万1千円)であり、日本はかなり安い。各サービスの違いもあるが、日本では元々配送料が安く設定されていたというのが大きいだろう。

日本ではこれからもアマゾンの配送料は値上がりし、そのためにプライム年会費も上がるかもしれない。しかし、これも前に書いたが私は受け入れて良いと思っている。

単純な発想かもしれないがモノを買うとということは、モノを買う私が幸せになり、モノを売ったアマゾンが幸せになり、モノを運んだヤマト運輸が幸せになる、そういうみんなを幸せにすることだと思う。ヤマト運輸で働く人たちを苦しめてまで、送料無料の恩恵を受けたいとは思わない。

なお、前回の記事「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」(著:シバタナオキ)で紹介されていたらしい。

決算を読むと様々な事がわかるという事については同感だ。これからも経済をうまく解説する記事を書いていきたいものである。

参照:ヤマト運輸日本経済新聞・9/28日本経済新聞・3/7HUFFPOST日テレNEWS24

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author : 宮寺達也

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