著作権

「都民ファーストの会」規約に著作権はあるの?

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出典:都民ファーストの会規約

9月11日、突然に都民ファーストの会の代表が交代した事には身内からも批判の声が出ているが、荒木新代表や小池都知事は「規約にのっとっているから問題無い」と答えている。

しかし、都民ファーストの会規約はウェブサイトで公開されていない。音喜多都議によると「所属都議にも規約が示されたことはない」との事であり、本当に代表選出は規約にのっとっていたかどうかもわからなかった。

そんな中、弁護士ドットコムが都民ファーストの会規約を入手し、その内容を解説した記事を掲載した。

新代表選出で話題「都民ファーストの会」規約ってどんなの? 弁護士が分析

しかし、この記事を読んだ人はちょっと不満が残ったのでは無いだろうか。

「都民ファーストの会規約はどこにも公開されていないんだから、どうせなら全文見せて欲しい。公文書だから問題無いでしょ」

私もそう思う。党規約は極めて公共性の高い文書であり、著作権保護の対象外に思える。しかし2017年現在、党規約に著作権があるかどうか、非常に微妙なのである。


党規約は公文書だから著作権が存在しない?

弁護士ドットコムには都民ファーストの会規約のこれまでの改訂の流れや、8月10日に改訂された最新版の全容が説明されている。

実は私も東京都選挙管理委員会に情報公開請求を行い、都民ファーストの会規約の写しを入手している。なので弁護士ドットコムに書かれている内容は正しいと確信を持って言える。

もっとも、弁護士ドットコムは情報公開請求では入手できなかった「細則」についても書いているので、都民ファーストの会の都議からも入手したと思われる。

さて、せっかく都民ファーストの会が公開していないが読みたい人が多数いるであろう、そんな文書を入手したのだからネットで全文公開したい。しかしそのためには、都民ファーストの会から許可を貰うか、規約に著作権が無い事を確認する必要がある。

まず、都民ファーストの会規約は東京都に情報公開請求すれば誰でも入手可能な公文書である。だから著作権が無いと言えるか?

これは「No」である。確かに著作権法第13条で「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの」には著作権が無いとされているが、都民ファーストの会は「政党」であり、この対象には含まれない。

都民ファーストの会規約は東京都選挙管理委員会が管理・保有しているので公文書であり、情報公開請求の対象にはなる。だが、著作権の譲渡もしくは放棄の契約が結ばれていない以上、都民ファーストの会が著作者であり、著作権は残っている。

契約書には著作権が存在しないと言うかつての常識

次に、「著作権は小説や歌詞のようなものに与えられるものである。契約書(党規約)といったものは対象外である」という意見である。

実は、この「契約書は著作権で保護されない」というのは少し前までの知財関係者の常識であった。

著作権法第2条によると、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」となっている。

なお、党規約は党員と政党の契約書とみなすものなので、以降は契約書と一括りにする。そして、契約書が「思想又は感情」「文芸、学術、美術又は音楽」とはちょっと思えない。これは著作権法に明記されているわけでは無いが、知財関係者の常識であった。

例えば中山信弘東大名誉教授の「著作権法」(有斐閣、2007年)において「思想・感情の範囲から漏れるものとして、契約書案等」と説明している。中山教授によると、

そのような証券、契約書案、ブランク・フォーマット等は大同小異のものとならざるをえないことも多く、たまたま最初に作成した者に長期間の独占を認めることの弊害は大きく、著作物性を否定すべき場合も多い

との事であり、慎重な言い回しながらも契約書の著作物性を否定している。

また、昭和62年5月14日判決の「土地売買契約書事件」(契約締結に至らなかった土地売買の契約書を、被告が返さなかったので返せと訴えた裁判)においても「契約書は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるとはいえないから、著作物ということはできない」という判決が下されている。

このように契約書は著作物ではなく、著作権保護の対象にはならないというのが常識だった。2014年まではね。

知財関係者が震撼した「千年堂ウェブサイトのコピぺ事件」

2014年7月30日、東京地裁で一つの裁判が終結した。

それは「銀座櫻風堂」という時計修理サービスのお店が、同じ時計修理サービスのお店である「千年堂」のウェブサイトを丸々パクってしまった事件である。コピペされた千年堂は激怒し、損害賠償金1000万円の支払いとウェブサイトのコピペの禁止を求めて訴えた。

この裁判では、ウェブサイト文言、トップバナー画像、サイト構成、そして修理規約について著作権侵害が争われた。この判決がちょっと驚くべき内容だったのである。判決では修理規約の著作物性について

規約であることから当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく、その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、当該規約全体についてこれを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当というべきである

と、修理規約にも著作物性が認められるという見解を表明している。しかしまあ、ここまでなら一般論の範囲であった。だが裁判官はさらに、

原告規約文言は疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている点(例えば、腐食や損壊の場合に保証できないことを重ねて規定した箇所、浸水の場合には有償修理となることを重ねて規定した箇所、時計の誤差を日差±15秒以内を基準とするが±15秒以内にならない場合もあり、その場合も責任を負わないことについて重ねて規定した箇所など)において原告の個性が表れていると認められ、その限りで特徴的な表現がされている。著作物と認めるのが相当というべきである

と認定している。そして、損害賠償金5万円の支払とウェブサイトのコピペの禁止の判決を出した。

契約書において、重要な内容を繰り返し記載するのは良くある事だ。そのようなレベルで「個性があるから著作物」と認定されては、ほとんどの契約書は個性的であり、著作物と認定されてしまう。そんな契約書の著作物性の判断を丸々揺るがす判例ができてしまったのだ。

たった5万円の損害賠償の事件であるが、日本の著作権の歴史が変わってしまったのである。果たして、裁判官はそこまで考えていたのだろうか・・・

党規約は著作権で保護される可能性が高い。安易なネット公開やコピペはダメよ

このように、2014年の「千年堂ウェブサイトのコピぺ事件」以来、契約書には著作物性が認められるという認識ができた。

実際、都民ファーストの会規約にある「第8条 代表については代表選考委員会を設置し選考する。代表選考委員会については細則で別に定める」なんて、確かに他には見ない内容で個性的だ。著作物と認定される可能性がある。

そのため、都民ファーストの会規約の全文を入手した弁護士ドットコムも私も、ネットでの全文公開は「公衆送信権」の侵害になるので躊躇したのである。

そして、この党規約に著作権が認められる事は何も都民ファーストの会に限った事では無い。現在、10月22日の投開票が予想されている衆議院選挙に向けて、小池新党が誕生する動きが活発になっている。

この小池新党も当然、党規約を作成するはずだ。しかし、この党規約の作成がしんどいからって他の党の規約をパクってしまうと、著作権侵害の可能性がある。

特に「普通の政党ならば」党規約はウェブサイトで公開するだろう。その時、パクった党規約を公開してしまうと、複製権やら公衆送信権やら色々と著作権侵害になる。国政の一翼を狙う政党がそんなショボい事でケチがついては、とても有権者の信頼は得られないだろう。

しかし、規約の非公開が問題になってから1週間以上、都民ファーストの会は未だに党規約を公開してくれない。というわけで、興味がある方は解説記事から党規約を推察するか、東京都の情報公開制度で自ら入手して欲しい。110円必要だけど、ネットで申し込めるから意外に簡単だよ。

参照:弁護士ドットコム産経新聞情報公開の窓・東京都企業法務戦士の雑感土地売買契約書事件著作権侵害差止等請求事件

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author : 宮寺達也

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