社会・一般

「パワハラとか、芸能界では普通だから」という発言が恐ろしい

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出典:劇団クロックガールズ official website

女優の鈴木砂羽さんが初演出を手掛ける舞台「結婚の条件」で、女優の鳳恵弥(おおとり えみ)さんと牧野美千子(まきの みちこ)さんが公開2日前に急遽降板になった事が騒動になっている。

鳳さんサイドは演出の鈴木さんから土下座を強要されるなど「人道にもとる数々の行為」があったと主張し、劇団を主催する江頭さんサイドは「まったく事実ではありません」と真っ向から否定し、騒動が収まる気配は無い。

各ワイドショーもこの騒動を取り上げているが、ほぼ一方的に鈴木さんを擁護し、鳳さんと牧野さんを「講演2日前に降板するとか、プロ失格」と批判している。ネットの意見も同様であり、大半は鳳さんと牧野さんを批判している。

その中でも特に気になったのは、フジテレビ系「直撃LIVE グッディ!」で俳優の高橋克実さんが、

「パワハラとか書かれてますけど(演劇の世界では)普通ですから」

と発言した事である。この理屈がOKならば「電通では」「野球部では」「相撲界では」「飲食店では」「政治家では」と、どんな世界でもパワハラOKになってしまう。


パワハラの真実解明は後回し。まずは無事に逃げた事に安心しよう

まず、私は本当に土下座を強要するようなパワハラがあったかどうか、その真相はまだ断定できないと思っている。

主催者の江頭さんは「鳳さんが稽古場の床に座ったまま頭を下げたことは事実」「その場にいた私が断言できるのは、鈴木さんから土下座をするようにとは決して言っておりません」と反論している。

一方、鳳さんたちが所属する事務所は、鳳さんと牧野さん、さらに主催者の江頭さん、鈴木さんのマネージャーから説明を受け、その内容が一致していたと説明している。

私は真実はどうだったのか、どちらに非があったのか、その解明は後回しで良いと思っている。パワハラを受けたと感じた人が存在し、大事になる前に無事に逃げる事ができた。パワハラによる不幸な事件が起きなかった事を喜んでいる。

昨年、電通の新入社員の高橋まつりさんが過労自殺したニュースが流れた後、芸能人を含む多くの方が「死ぬ前に逃げて」とメッセージを送った。

汐街コナ氏による「『死ぬくらいなら辞めれば』ができない理由」というツイート(1/22/2)が30万RTされ、書籍化もされた。

もしかしたら、鈴木さんによるパワハラは鳳さんたちの誤解だった可能性もある。降板によって舞台関係者やお客さんに迷惑は掛かっただろう。しかし、もしもの事が起きてからでは遅い。

一番に守るべきは、パワハラを受けて不幸になる人を減らす事だ。だから、特に高橋まつりさんの不幸の後、「仕事が残っているとか、代わりがいないとか、そんなのあなたの勘違い。まずは自分の身を一番に考えて逃げて」という声が溢れたでのはないか。

私も「次の電通過労自殺を防ぐため、普段から逃げ力を鍛えよう」という記事を書いて、まずは逃げる事を勧めている。なので、鳳さんと牧野さんが今、元気にされている事を嬉しく思う。

なお、牧野美千子さんは「超電子バイオマン、ピンクファイブとして地球の平和を守っていました」との事だ。子どもの頃、超見てたな。平和を守ってくれてありがとうございました。

「公演2日前に降板するのは、プロ失格」は正しいが、人権の方が大事

しかし、今回の舞台降板では、高橋まつりさんの時とは違ってパワハラ被害側である鳳さんと牧野さんを批判する声が多い。

鈴木さんは大手事務所・ホリプロに所属しているので、事務所から圧力が掛かっているという話もあるが、ネットの反応も大半が鳳さんと牧野さんに批判的だ。その理由としてまず挙がるのは、

「公演2日前に降板するのは、プロ失格」

というものである。

この「プロ失格」についてであるが、私はパワハラがあったのならば、仕方ないと思っている。パワハラは自殺にも繋がる重度な人権侵害である。俳優・女優はプロである前に人間である。まずは人権が優先されると思っている。

多くのパワハラや過重労働で苦しんでいる人が逃げられないのは、「まだ仕事が残っているのに投げ出すのか」「この仕事はプロとしてお前が責任を持ってやれ」というプロ意識の過剰な押し付けによる。仕事を投げ出すのは良いことでは無いが、人権侵害や命の方が優先する。そういう簡単な話だと思っている。

プロ失格と鳳さんと牧野さんを批判する人は、高橋まつりさんの時には何と言っていたかを思い出して欲しい。

「演劇界ではパワハラはOK」の理屈はおかしい

そして、最も多く見た意見が、

「芸能界、特に舞台ではパワハラは普通」

というものであった。実際、人気演出家の蜷川幸雄さんの舞台稽古では「怒鳴りまくり」「灰皿が飛んで来る」「蹴りを入れる」といったエピソードが有名であり、それを受けた俳優・女優は「厳しい指導でしたが、おかげで育てられた」と美談として語っている。

そして、俳優の高橋克実さんも「パワハラとか書かれてますけど(演劇の世界では)普通ですから」と発言しており、芸能人にとっては「舞台でのパワハラOK」は共通認識のようだ。

だからどうした、そんなの関係ねえ!

こんなもの、昔が良かったと懐かしんでいる典型的な老害でしかないと思う。

パワハラや体罰といったものは時代によって認識は変わる。良くも悪くも、昔はパワハラや体罰には寛大な空気があったと思うし、古い体質を引き継ぐ組織には未だにその空気が残っている。

しかし、職場での上下関係を背景に、精神的・身体的苦痛を与える事がパワハラの定義である。演出家という立場を背景に土下座を強要したのならば、それはパワハラである。

確かにパワハラには「業務の適正な範囲」という定義があるので、「舞台では適正」という反論もありえる。しかし、「土下座の強要」は刑法223条の強要罪であり、「灰皿が飛んで来る」「蹴りを入れる」は刑法204条の傷害罪である。

「怒鳴る」はまだしも、土下座などはとても「業務の適正な範囲」とは言えないし、パワハラにならなくても刑法違反である。過去や業界の常識はどうあれ、人権侵害、そして犯罪であるという認識を持って、今後は無くしていく努力をして欲しい。

「芸能界がOK」なら他の業界もOKになってしまう

何より、「芸能界、特に舞台はパワハラは普通だから問題無い」という理屈が認められるならば、どんな業界でもパワハラはOKになってしまう。

「電通」では、鬼十則に従い、仕事は「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。」が普通。だから過重労働は問題無い。

「野球部」では、何が何でも甲子園に出るため、過酷な練習も厳しい体罰も普通。だから問題無い。

「相撲界」では、体力・精神力を鍛えるためかわいがりが普通。だから問題無い。

「飲食店」では、お客様のためにアルバイトが長時間働くのも普通。だから200時間残業も問題無い。

「政治家」では、厳しい選挙を勝ち残るため議員は苛烈な性格になり、秘書を「このハゲー!」と怒鳴るのも普通。だから問題無い。

と何でも問題無くなってしまう。私は今回、鈴木さんを擁護している人たちがこれらの問題で「この世界ではパワハラは普通だったから」と言っているのを聞いた事が無い。むしろ率先して、それこそ加害者が自殺するんじゃ無いかと思うくらい追い詰めてきたはずだが。

芸能界でパワハラがスルーされてきたのは、単純にこれまで被害者が訴えず、表面化しなかったという事ではないか。少なくとも今回は、被害者として訴えている人がいるのだ。

大事なのは真実の解明もそうだが、被害者の救済と、再発防止だと思う。少なくとも、「降板した女優には二度と仕事が来ない」なんて事になると、これからもパワハラはどんどん闇に葬られ、被害者が増えていくだろう。

私は鳳さんと牧野さんの次の仕事を楽しみにしている。

参照:J-CASTニュースデイリースポーツせーの!グッディ!・9/13スポーツニッポン日刊サイゾーNAVERまとめ厚生労働省鳳さんブログ牧野さんブログ

-社会・一般

author : 宮寺達也

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  1. 多賀谷 勝 より:

    これは私もずっと以前から感じていた事ですね。

    芸能界ではいまだに理不尽な上下関係があって、それでいいと思っている人がいる。

    だからこそ、この世界からはまともな人材が去り、問題のある人物が残る
    「憎まれっ子世にはばかる」の世界になってしまうのではないかと。

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