著作権

ファンキー末吉さんとJASRACの争いを終わらせるには?

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出典:ファンキー末吉ホームページ

爆風スランプのドラマーであるファンキー末吉さんが8月18日、「JASRACの著作権使用料の分配が不透明である」と記者会見で訴え、文化庁にJASRACへの調査と改善命令を求める上申書を提出した。

ファンキー末吉さんとJASRACはライブハウスの著作権使用料を巡って2009年から争いを続けており、JASRACがファンキー末吉さんを訴える裁判にまで発展していた。そして、7月12日にファンキー末吉さんの敗訴という最高裁の判決が出た。だからこのタイミングでアクションを起こしたのである。

ネットではJASRACは大変嫌われているのでファンキー末吉さんを応援する声一色であるが、当のファンキー末吉さん自身が「僕はアンチJASRACじゃない」と発言しており、争いを煽っても、JASRACを一方的に批判しても何も解決しない。

ファンキー末吉さんとJASRACは何を争っているのか、どうなれば争いは終わるのか、パテントマスターとして考えてみたい。


ファンキー末吉さんが訴えられていた裁判は、最高裁で敗訴が決まった

JASRACとファンキー末吉さんの争いを辿ると、まず2009年にファンキー末吉さんがマネージャーを務める「Live Bar X.Y.Z.→A」というライブハウスに、JASRACが著作権使用料徴収の契約を求めて来た事が発端だ。

JASRACでは著作権料を徴収・分配する方法として3つの方式を採用している。

1. 曲別分配
CD、音楽ビデオ、出版など、作品を1曲ごとに管理が可能なものは、1曲ごとに利用者からを著作権料を徴収し、アーティストに分配する

2. センサス分配
放送やカラオケなど大量に楽曲を使用するサービスでは、利用作品数にかかわらず年額、月額などと包括的に著作権料を徴収する。その後、利用者から詳細な曲目データを報告してもらい、その報告に基づいてアーティストに分配する。

3. サンプリング分配
バー、レストラン、ライブハウスなど、大量に楽曲を使用するが、どんな作品をどれだけ利用したか把握する事が困難な場合。著作権料は包括的に徴収する。そして、一部の利用情報をサンプルとして収集し、そこから統計に基づいてアーティストに分配する。

そして、ファンキー末吉さんの場合はライブハウスなので「サンプリング分配」による契約を求められた。ファンキー末吉さんは「これではアーティストに正しく著作権料が分配されない。徴収した著作権料をどこに分配するのか、ちゃんと説明して下さい」として納得しなかったのだ。

その交渉は長引き、ついに2013年、JASRACがファンキー末吉さんを提訴するに至った。そして、地裁・高裁・最高裁と全てファンキー末吉さんが敗訴するという結果になった。

ファンキー末吉さんは訴訟では完全に敗北してしまったため、今回、文化庁への上申書や「日本の音楽が危ない~JASRACとの死闘2862日~」という本を自費出版するためのクラウドファンディングという裁判以外の行動に出たわけである。

さて、「アーティストに正しく著作権料を分配して下さい」というファンキー末吉さんの主張そのものは私も含め、同意する人は多いだろう。では、なぜこの問題がなかなか解決しないのか?

ライブハウスでの著作権料の徴収は大変

ファンキー末吉さんが記者会見で「全国のライブハウスで204回のライブを行うも、演奏の使用料が1円も計上されなかった」と証言しているように、確かにライブハウスの著作権使用料はアバウトに計算されている。

だが、それは「サンプリング分配」の特性上、ある程度は仕方無い。JASRACは「分配に関するよくあるご質問」で、わざわざ「Q.10 ライブハウスの分配の仕組みは?」と項目を設け、説明している。

ライブハウスの問題は「日々大量の音楽を利用するため、利用者の方々に全ての利用曲目をその都度記録し報告していただくことは大きな負担になってしまう」事だ。テレビやラジオと違って事前に収録した曲を流すわけでは無い。「ライブ」の名の通り、生演奏で、時にはアドリブで様々な曲が流されていく。また、メジャーデビューしていない無名なバンドの曲が使用される事も多い。

従って、厳密に楽曲管理をやると、100円の使用料を徴収するのに110円の経費が必要になってしまうという事態になりかねない。どうしてもアバウトに徴収して、アバウトに分配するのがベターとなってしまう。

実際、ファンキー末吉さんが「演奏したのに著作権料が入ってこない」と言っているのは「爆風スランプ」の曲ではなく、自身がドラマー兼作曲家をつとめるバンド「X.Y.Z→A」の方である。6曲のシングル、9枚のアルバムをリリースしているが、どうしても爆風スランプに比較すると知名度に劣り、他のアーティストによる利用の頻度は少ないだろう。そのため、サンプリング分配で不利になったと思われる。

しかし、「どんなにわずかとはいえ、アバウトな分配は納得できない」という気持ちもわかる。JASRACもそこは柔軟に考えており、JASRACはサンプリング分配以外の契約も提案していたのだ。使用した全楽曲を報告書にして提出してくれれば、サンプリング分配以外の契約も可能である(恐らくセンサス分配)とJASRACがファンキー末吉さんに提案していた事が、地裁判決で明らかになっている。

また、ファンキー末吉さん自身、これまでに爆風スランプの曲によってJASRACから数千万円の印税を貰った事を明かしている。

ファンキー末吉さん自身が全楽曲を報告する契約を拒否している事からも、ライブハウスでの楽曲管理は大変である事がわかる。ファンキー末吉さんもその事は理解した上で、あくまでもっと公平な分配を求めているのだ。

ファンキー末吉さんとJASRACの争いは、正義と悪の戦いというものではなく、会社と従業員のインセンティブ交渉のようなものと理解するべきだ。

ライブハウスでの徴収にJASRACの代わりは無し

会社と従業員のインセンティブ交渉ならば転職という道がある。では、ファンキー末吉さんはJASRAC以外の著作権管理団体と契約すれば良いと思う人もいるだろう。だが、それは現実的では無い。

音楽著作権管理団体は老舗のJASRAC、エイベックスが主体の「NexTone」、ダイキサウンド、アジア著作協会、ジャパンデジタルコンテンツ、といった団体がある。その中でJASRACのシェアの90%を超えており、1強独占状態である。

そのため自身の曲を、例えば「NexTone」に委託したら、CD、音楽ビデオ、出版などでは使用料が入ってくるだろう。だが、全国津々浦々のライブハウスや飲食店まで契約が浸透しておらず、収入は激減するだろう。

また、ライブハウスの立場から「NexTone」と使用料契約を結んでも、JASRACとの契約が不必要にはならない。全楽曲の90%以上がJASRACの管理曲なので、ライブハウスで演奏される楽曲は確実にJASRACの管理曲が入っているからだ。結局、JASRACと契約するのが現実的となる。それが記者会見で訴えた「演奏権はJASRAC独占で、選択肢がないのが一番の問題点だ」という発言になったのだろう。

そのため自身の曲を、例えば「NexTone」に委託したら、CD、音楽ビデオ、出版などでは使用料が入ってくるだろう。だが、現状「NexTone」は演奏権については取り扱っておらず、JASRACに委託している(将来的には取り扱う予定もあるようだが)。現在、他の著作権管理団体も含めて演奏権を管理している団体はJASRAC以外には聞いたことが無い。

つまり、ライブハウスが演奏権の使用料契約を結べる相手はJASRACしか存在しない。それが記者会見で訴えた「演奏権はJASRAC独占で、選択肢がないのが一番の問題点だ」という発言になったのだろう。

(厳密には著作権法22条で、演奏権を占有するのは著作者となっている。決してJASRACが100%独占しているわけでは無い)

 

(※ 8/26 0:18 masao‏さんの指摘を受けて、記載を修正しました。)

ではどうすればファンキー末吉さんは納得できるのか

ライブハウスを経営する以上、JASRACとの契約は不可避。しかし、契約内容には納得できない。まるでサラリーマンが、「俺はこんなに頑張っているのに、なんでいつもサボっているあいつと給料一緒なんだ」と嘆いているのと同じだ。

問題は「転職できない(ライブハウスでの徴収にJASRACの代わりは無し)」事にある。

代わりが無い以上、何とか双方が納得するように、少しづつ契約内容を見直していくしかない。

まず、著作権の使用料であるがこの見直しは簡単では無い。著作権の使用料は、著作権等管理事業法によって文化庁に申請し、認定された金額である。決してJASRACが自身の利益にために不当な価格設定をしているという事は無い。この見直しは、国会で議論すべき問題である。

また、ファンキー末吉さんは「自分の払った著作権料が自分には返ってこなくても、ジョン・レノンのところに行ったとか、どのアーティストのところに行ったのかがはっきり分かれば『JASRACはいい仕事をしてるな』ってなるはず」と述べ、分配の内容の公開を求めているが、これも難しい。

個々のアーティストにどのくらいの金額が分配されたかは、「信託の受託者としての守秘義務」であり、第3者が勝手に公開できない。自分の給料を勝手に全社に公開されたら嫌でしょう。

やはり、改善できそうなポイントは「サンプリング分配」であろう。これを廃止し、ライブハウスなどの利用者が全ての使用楽曲を報告する「センサス分配」を徹底する事で、アーティストに正確に分配するのである。

この方式は先ほど書いたように、既にJASRACも採用している。「ライブハウスでの生演奏など」というページを用意し、「サンプリング調査によって判明した利用曲目に加え、契約店舗のご協力により報告いただいた利用曲目も、分配資料としています」と書いている。

つまり、「全ライブハウスが使用した全ての楽曲を報告すれば、全アーテョストに正確な分配ができる」訳である。問題はその手間である。これをどうやって簡単に実現するかJASRACとアーティスト、ライブハウスで議論していくのが、建設的な方法であろう。

テクノロジーで双方ハッピーな解決を

まずは、手間が掛かっても、アーティストが演奏した楽曲を、ライブハウスが全て記録し、報告していく方法だ。ライブハウスにとっては一方的にしんどい話だが、納得するアーティストが増えれば徴収率も上がり、音楽業界の活性化に繋がっていくだろう。

さらには、IT、AIを活用した全自動の楽曲管理システムができれば素晴らしい。Siriのような音声認識機能で楽曲を受診し、インターネット上のデータベースにアクセスしてどの曲か把握し、登録していくのだ。こんなシステムができれば、楽曲報告は楽勝だ。

私はネットに溢れているような「JASRACが音楽文化を破壊している」との認識は持っていない。課題は多いが、アーティストに対価を提供するべく努力している組織だと思う。ただ古今東西、どんな組織であってもお金を徴収する側は嫌われる。そういう事だと思っている。

IT、AIといったテクノロジーを活用する事で、音楽文化のために努力している人同士による不毛な争いは終わるはずだ。そんなシステムを実現するべく、私もエンジニアとして努力していきたい。

参照:弁護士ドットコム日刊サイゾー「JASRACに激怒するファンキー末吉に突撃取材!!」日刊サイゾー「「ヤクザのみかじめと同じ」人気ドラマー・ファンキー末吉がJASRACに激怒!」ファンキー末吉ブログJASRAC「分配に関するよくあるご質問」ファンキー末吉緊急著作「日本の音楽が危ない〜JASRACとの死闘2862日」出版栗原潔「JASRAC対ファンキー末吉氏の地裁判決文が公開されました」


アゴラに掲載されました(2017年08月26日)

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author : 宮寺達也

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