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戦術の勝ちに拘り、戦略で負けた日本の電機メーカー

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出典:SONY公式サイト

山田高明氏がアゴラに投稿された「次世代テレビは韓国の勝ちだ」を読んで、考えさせられるものがあった。

私自身、日本の精密・電機メーカーの一員として、韓国企業を始め世界中のライバル企業に負けまいと努力してきたからだ。

しかし、2017年現在、電機分野において日本企業が韓国企業に負けているのは確かな事実である。直近の決算ではサムスンが約2兆6千億円の営業利益、LG電子が約1200億円の営業利益である。日本の電機メーカーが束になっても敵わない数字だ。

その悔しさを噛み締めつつ、なぜ次世代テレビの戦いで日本が負けたのか、振り返ってみたい。


有機ELは日本企業も積極的に研究していた

有機ELは液晶のようにバックライトが不要なので非常に薄いパネルを作ることができ、また自発光型デバイス(各画素が一つずつ、独立して発行する)なので液晶を上回る高画質を実現できる。1mmの薄さの大型テレビや、曲げられるディスプレイが実現でき、まさに次世代と呼ぶにふさわしい技術であった。

私がメーカーに就職した2005年頃から、電機・精密メーカーはどこも有機ELの研究・開発を積極的に行なっていた。パナソニック、ソニー、シャープ、東芝、日立の電機メーカーはもちろん、キヤノン・ゼロックス・リコーといった精密機器メーカーも研究開発に参加していた。

そして、2007年にはソニーが世界初の有機EL テレビ:XEL-1を販売し、このまま日本企業が有機ELで勝つと思っていた。

しかし、2007年に発売されたXEL-1は11インチで20万円の価格と、AVマニアしか買わない製品だった。この時点ではまだ、有機ELの弱点である「高価格」「短寿命」を克服できていなかった。

有機ELの弱点の中でも、「高価格」の克服は特に至難であった。有機ELテレビを作成する場合、フルHDでも200万画素、4Kならば800万画素の有機ELデバイスを安定して製造する必要がある。

有機ELの素材は酸素や水に弱く、外気に触れると劣化してしまうため、封止しなければならない。この封止するための膜を、数百万画素も安定して製造するのが実に困難であった。

そのため、有機ELの弱点を克服し、実用化するためには数千億円〜数兆円規模の投資が必要になると言われていた。しかし、2008年にリーマンショックが起き、日本の電機メーカーは巨額な投資が難しくなっていた。

液晶・プラズマでの戦術的勝利に走った日本メーカー

そのため、日本の電機メーカーは既存のプラズマ・液晶テレビの改善に力を注ぐようになった。パナソニックは尼崎のプラズマディスプレイ工場に、シャープは堺の液晶工場にそれぞれ数千億円の投資を行い、有機ELから背を向けた。

ソニーや東芝も有機ELから背を向け、液晶テレビの高画質化に力を入れるようになった。その結果、液晶テレビの弱点と言われた「低速」を克服する240Hzの高速フレーム映像処理や、「低コントラスト」を克服するバックライトのエリア制御を開発し、液晶テレビの画質は有機ELにも匹敵する進化を遂げていった。また、ゲーム映像に適した低遅延技術、DVDや地上デジタル放送の映像を綺麗にする超解像技術を発展させ、液晶テレビの高画質化が進んでいった。

つまり、日本の電機メーカーは「有機ELを実用化する戦略」を放棄し、「既存のプラズマ・液晶テレビを改善する戦術」での勝利にこだわったのだ。

実際、ソニーの高画質液晶テレビ・BRAVIA Z9Dや、東芝の高画質液晶テレビ・REGZA Z810Xは、LGの4K有機ELテレビと比較しても、画質の差はほとんどわからない。映像が明るく、コントラストが高いので、明るい部屋で鑑賞する場合はより綺麗だ。

2017年に有機ELテレビを発売する東芝の開発陣は「液晶と有機ELで一長一短」、海外向けの有機ELテレビを発表したソニーの開発陣は「有機ELは音質で選んだ」とコメントしており、まだまだ自社の液晶テレビの画質に自信があることが伺える。

しかし、その液晶テレビへのこだわりの結果が、2017年現在の有機ELにおける韓国メーカーへの完敗である。

パナソニックとシャープはプラズマ。液晶工場への巨額投資で大きな損失を出し、パナソニックは持ち直したものの、シャープは鴻海に買収された。

そして、大型テレビにおける有機ELパネルはLG電子が100%のシェアを独占し、スマホなどの小型端末向けの有機ELディスプレイもサムスンが97.7%とほぼ独占している。2017年発売のiPhone8にはいよいよ有機ELディスプレイの採用が噂されており、韓国メーカーの躍進は続くだろう(参照:Wikipedia「有機エレクトロルミネッセンス」

敗北を認め、新しい分野で勝利を

このように、日本の電機メーカーは液晶テレビという分野でガラパゴスな進化をすることを選び、有機ELという次世代の分野で完敗した。この敗北は、もはや取り返しがつかないだろう。

また、この「ガラパゴスな戦術にこだわる」傾向は電機メーカーに限ったものではない。今は好調な自動車メーカーも同様である。日本の自動車はハイブリッド技術を始め、ガソリン車の低燃費化を徹底的に追求し、絶好調である。しかし、このままガソリン車の時代が続くのだろうか?

アメリカの電機自動車メーカーのテスラは、2016年に300万円台で購入できるModel 3を発表した。今後、電機自動車へのパラダイムシフトが起きたら、日本の自動車メーカーは一気に苦境に立たされる。そうなっても、日本の自動車メーカーはガソリン車の改善という戦術に努め、電機メーカー同様に敗北を先送りしそうな気がする。そして、電機自動車の普及という戦略の前に、いずれは一網打尽になる日がくるかもしれない。

そして日本の電機メーカーであるが、私は今さら有機ELの開発に参入しても手遅れだと思うので、全く新しい発想の戦略で、未来の勝利を掴んで欲しいと思う。

例えば、VR技術に力を入れ、ディスプレイそのものが要らない世界を目指すのはどうだろうか。

また、自動車メーカーと電機メーカーがタッグを組んで自動運転車やロボット、パワードスーツを世界に先駆けて実用化するというのも面白い。

「戦術の失敗は戦略で補うことが可能だが、戦略の失敗は戦術で補うことはできない」

この言葉を噛み締めながら、日本企業にはまだまだ頑張って欲しいと思うし、自分も精進したい。


※この記事は、2017年02月16日にアゴラに投稿・掲載された記事を再掲したものになります。

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author : 宮寺達也

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